10-3-2.◯◯に落ちる音がした
落ちる、下に。
車体がガクンって揺れて突然スピードが緩やかになる、あのいや〜な数秒間……
「俺……小さい頃、体弱くてさ。小学校に上がるまでずっと、田舎のじいちゃん家にいたんだ。都会より空気が良いからって」
「え?ご両親は?」
「親は妹とこっちで暮らしてて、俺だけ別」
「え……寂しくない?ってか普段どうやって……」
「ほとんどばあちゃんがお世話してくれてて、土日たま〜に親が会いに来るって感じ」
「へえ〜」
「正直……寂しかったな。だけど無理矢理都会で暮らして体調崩して、病室に閉じ込められるよりは……親と離れてでも、田舎で自由にしてた方が俺的には全然マシ。近所の奴と仲良かったし、じいちゃんばぁちゃんにも色々遊んでもらったし」
へ〜。
分かっちゃいたけど……案の定、全然知らない情報だらけ。
公式設定にはそこまでの話なかったはず。
「なもんだから……地方の方言っていうか、発音の訛りってやつ?それがなかなか抜けなくてさ」
「え?そうだっけ?」
「昔はな。今じゃもうすっかりこっちに慣れて標準語だけど」
し、知らなかった……
「体力ついてきて体調もだいぶマシになったし、ってんでこっち来て小学校入ったら……今度は『変な奴』呼ばわりされて嫌がらせ受けるようになって。病気が落ち着いたと思ったら、一難去ってまた一難……ほんと、散々だった」
なんでや!方言男子良いだろ?!(そこじゃない)
「でも、お前だけはそんな事なかった。いじめがなくなるまで……いや、終わった後も……こうやって一緒にいてくれるんだから」
「……!」
「だから俺は、お前が……!」
ま、まずい!この流れは……!
ドキドキし始める胸の鼓動。
そういう雰囲気って、分かるよねなんか。
「……って!俺、何言おうとしてんだ……!」
あっぶな!セーフ!
「今のは無し!無し無し、忘れろ!」
急に顔真っ赤になって手をブンブンし出す歩君。
「何も聞かなかった!いいな!」
「う、うん……」
吹き出しそうなのを堪えて、なんとか返事をする。
『結婚』はあんな下校途中なんかにサラッと言えても、『好き』は照れまくるのな君は。
なんだそれ……謎判定過ぎん?
まぁ『結婚』の話も彼が直接それを言った訳じゃないけど……それにしたって、もうちょい落ち着いてた気がする。
あれかな、結婚の方はまだ現実味がないって事かな。まだ高校生だしな。
まぁ、そういう事にしとこう。
そうこうしてると順番が来た。
どうぞ〜!とスタッフに案内され、座席の方に移動するよう案内される。
いつの間にか目の前には縦五列、一列横に四人座れる四角い箱状のものが……
これってまさか……
「……早乙女君、一つ聞いていい?」
「ん?」
「これってさ、もしかして……落ちるやつ?」
「は?」
「ズドーンって急降下するやつ?」
「え、何を今更……」
あっやっぱり?!落ちるのね、これ?!
(ひっ!ま、待って待って!私、絶叫苦手なんですけど……!)
こちとら、絶叫無理過ぎて今まであの手この手で避け続けてきた女だぞ!
なんなら並んでる途中で抜けたこともあるような、筋金入りのチキンだぞ!(?)舐めんなよ!(??)
「なんだよ、怖くなったのか?」
「あ、いや……その……」
怖いなんてレベルじゃねぇよぉ!
帰りてぇよぉ!今すぐ!
「ははっ、ビビってんだ。しゃあない、ほら……」
こちらに差し出された彼の手を、藁にもすがる思いでガシッと握りしめる。
「こうすれば、怖くない」
そう言って、穏やかに微笑む彼の手は柔らかく暖かかった。
そうやって手を引かれ……アトラクション特有の固い椅子に座る。緊張感はMAXに。
両方のドキドキで私の脳内は大忙し。
安心させようと彼が時々軽くぎゅっと握ってくれて、意識が一瞬そっちへ行くけど……でも、怖いものは怖い!話は別!
(ひぃ……お、お助け〜!)
「それでは、いってらっしゃ〜い⭐︎」
スタッフの明るい声が呪いの言葉に聞こえた瞬間だった。
カタンカタンカタンと軽快な音を立ててレールの上をゆっくり進み……
ガタンッ!
嫌な音と共にレールを上り切ったところで、一時停止。
そして……
「うわぁぁあああぁぁぁぁっ!!!!」
案の定、急降下。デスヨネー。
ガーっと降下していく中でブツっと意識は無くなり、今回のイベントは終了。
歩君と手を繋ぐっていうのがイベントの目的だったらしい。
終わらせてくれてほんとよかった。珍しく良いタイミングだった。