10ー2ー3.駄目な感触の時ほどうまくいく謎
間違いだと思ってたら合ってて、落ちたと思ったらなぜか受かってたりする……あるあるですよね。
最悪のパターンは正解の回答をわざわざ書き直しちゃって、後で絶望するやつ……
「家……学校から近いのか?」
うぉっ!向こうから聞いてきた!
これは今度こそ空気を変えるチャンス!
「うん、自転車通学だしね」
うちの学校って結構人気あるらしくて……県外から来てる人とかザラにいて。
ほとんどみんな遥々遠くから電車で来てるんだけど……主人公だからか、なぜか私だけ家から近くてラッキー。
「へぇ」
って、反応薄っ!お気に召さなかった感じ?
「神澤君は……えっと……聞いた話だと、車で送り迎えしてもらってるんだっけ?」
「まぁね」
「しかも、運転手さん付きでしょ?いいなぁ」
「そんなの普通だろ」
「そ、そっか……」
え、ええっと……君にとっちゃ普通かもしれないけど……
一般的に言うと、あんまり普通じゃないかな……
「……」
「……」
(私が言うのもなんだけど……秋水君や、これ楽しいかい?)
大人である私のコミュ力でどうにかせい?
いや、無理だって。コミュ障の私にはハードル高いってこれ。
「……」
「……」
(う〜ん……)
そんな気まず〜い時間を、紅茶とモンブランでなんとか過ごし切った私。
窓の外は暗くなっていき、やがて店を出る時間になった。
「……七崎」
「うわっ?!」
これまたいきなり名前を呼ばれて、2回目のびっくり。
ここまで一度も名前呼んでくれなかったから、余計に驚いちゃって。
「来週、土日空いてる?」
「えっ?」
「まだもう少し話したい事があって」
へ……?もう少し話したい?
うっそやろ。
さっきまでのあれでまた会いたいって?嘘やん……
「それに、こうやって君と無駄話してるのもなかなか悪くないなって……」
えっ。
えっ?
えっ……?
始終不機嫌そうな顔してたけど、あれはあれで楽しんでたって事?
(ど、どういうことだってばよ……!)
思わず某忍者口調になっちゃう。
感情の機微が微妙すぎるというか……気難しすぎてさっぱり分からん。
解読難易度高すぎるよ、君。
「で、いつがいい?」
「え、ええっと……バイトのシフト確認してからでいい?」
いいよって言いたいところだけど、ここは一旦持ち帰りで。即答はできかねます……
なんたって他にもキャラいるからな。
スケジュールは慎重にいかないと、ダブルブッキングしちゃう。
「バイト、か……」
あっ、ちょっと疑ってる顔。
もしかして勘づいてる?他の男の影、見えた?
「いいよ、待ってる。まぁ……それまでに僕の気が変わってなければ、の話だけどね」
ああ、返事はなるはやでって事ね。は〜い。
「じゃ、はい」
ずいっと目の前に突き出された彼のスマホ。
(これは、これはLIME登録して日時連絡ちょうだい、と……)
デートというより面接だったけど、少しだけ彼の言葉が分かってきたような気がする。
そのおかげで翻訳(?)の精度も若干上がってるし。
「じゃあ、ちょっとここ出る前に……お手洗いに行っていい?」
「そう聞かれて、駄目なんていう人いないと思うけど?」
(『訳:いってらっしゃい』だな、これは)
絶対に意地でも『うん、いいよ』なんて言わない徹底ぶり。
(これ、普通のそのへんの人だったら多分イラッ!てなっただろうな……さすが顔の良い男)
そしてトイレから戻ってくると……
(ふぅ、スッキリ〜……ってあれ?)
店内に秋水の姿が無かった。
不審に思ってキョロキョロしてたら、店の外からこちらを手招きしてるのが見えて。
(え?!えっ、そ、そっち……?!)
慌てて荷物抱えて、彼の方に猛ダッシュ。
「遅い。さっさと帰るぞ」
「ごめんごめん……って、あれ?お勘定は……?」
「とっくに済んでる」
(なん……だと……?!)
トイレ行ってる間に支払いが終わっていた。なんということでしょう。
こやつ、できる……!
まだ十代なのに……もうすでにそういうのが分かってる……だと……!
いや、そういうシステムだって分かってるけど!分かっちゃいるけど!
でも、彼自身の意思っていう僅かな可能性に賭けちゃう!期待しちゃう!
しかも、頼んだのはコーヒーだけじゃなくてケーキもセットで、そこそこ良い値段してたはず。
社会人ならまだしも、普通の高校生のお財布にはキツい金額を……彼は平然と二人分普通に支払って涼しい顔してる。
(えええ……お小遣い、一体いくらもらってるんだ……?)
特にバイトはしてないみたいだから、おそらくお財布の中身全部親からもらってるって訳で……
わ〜お。親御さん太っ腹〜。
とまぁ、住んでいる世界の違いを色々と見せつけられた一日でした、まる。




