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その差、一回り以上  作者: あさぎ
プ◯キュアじゃないよ
4/188

2-2.生徒会長ブルー(市ノ川 聖)

 


 息を切らしながら階段を駆け上がっていって……


 よし、あとは廊下の直線コースのみ!

 おっしゃ!ラストスパート!いっけえぇぇぇぇ!

 ※ただの遅刻です


 スポ根ものばりに汗の球を大量に飛ばしながら、ひたすら廊下をダッシュ。


(間に合えぇぇ!うおぉぉぉ!)




 ドタドタ走っていって、あともう少しで教室ってところで……フッといきなり人影が目の前に。


「おわぁぁっ?!」


 慌ててつま先に力を込め、なんとか踏ん張る。

 キキーッ!という効果音が聞こえてきそうなくらいの、超急ブレーキ。


(……っとと!)


 セーフ!


 体がぶつかりそうでぶつからないギリギリのところで、なんとか止まれた。




(いや〜、危なかった……!)


 ホッと胸を撫で下ろしていると、何やら目の前に殺気たっぷりのオーラが……


「君は確か、七崎と言ったか……?」


 怒気を孕んだ低い声。

 恐る恐る首を上げると、鋭い目つきの男子生徒がこちらを見下ろしていた。


(うわぁ、最悪……今度はいっちー……)


 まさかこの最悪なタイミングで……『生徒会長サマ』に会うなんて。


 彼は市ノ川(いちのかわ) (せい)

 唯と同じクラスで……カチッとした七三分けの髪に神経質そうな細身メガネの、いかにも優等生って感じのキャラだ。


 髪色は唯の時同様、これまたペンキで塗ったかのように真っ青。

 ま、まぁまぁ……ゲームですし、おすし……


 切れ長のあっさりとした一重の目、そして三白眼気味の小さな瞳が特徴。


 通称『いっちー』。

 お堅いキャラゆえに、面白がって陰でみんなからそう呼ばれている。


 と言っても、直接彼に言ったらカンカンに怒るのが目に見えてるから、あくまで仲間うちだけの話。

 面と向かっては言わない。ってか言えない。


 そんな彼は生徒会長なだけあって校則にはめちゃくちゃ厳しく、少しでも違反すると速攻で彼からお小言をもらう事になる。

 ゲーム持ってくるな、スカートが短過ぎる、廊下を走るな……などなど。


 といっても、本人には可哀想だけど……そう厳しく取り締まっていても、実際効いてるかは微妙なところ。

 一番違反してるヤバい人こそ、うまくのらりくらりとかわして平気な顔してたりするから……


(特に、どっかのYさんとか……)


 いっちー頑張れ。超頑張れ。

 まさに今注意を受けようとしてるこの私が言うのもなんだけど。




(しっかし、デカいなぁ)


 現在進行形でプルプルと限界を訴え始めている、私の首。


 私も私でそんな低くない……というか割と平均的な身長のはずなんだけど……


 唯の時はこんなキツくなかったんだけどな。

 いっちー……まさかこれ、180センチ超えてない?


 高校生でこれって高すぎない?発育良すぎない?

 ゲームだし、そこは気にしちゃ駄目ってやつ?




「七崎、君は校則を知らないのか?」


 知ってま〜す。

 廊下は走るなってあるのも、知ってま〜す。


「いやぁ……実はその……」

「……」

「ええと……あの、ですね……」

「……」

「えっと〜……」


 なんとかうまく誤魔化そうと言葉を探している間も、氷のような鋭い視線が容赦なくグサグサと刺さってくる……


(やばいやばいやばい。今回、なんて言い訳したら……)


 察しのいい人はもう気づいてるだろうけど……『今回』って事はつまり、『前回』がある訳でして……


 そう。『前回』も急いでたからって階段を猛スピードで駆け降りて、注意を受けたのだ。

 でも、初犯だからってその時は軽く済んだんだけど。


(今回も……許してくれたりしないかなぁ?)


 一応申し訳なさそうに下を向きながらも、彼の顔を上目遣いでチラ見して機嫌を伺う。


 許してくれないかな〜?チラッ

 駄目かな〜?チラッチラッ


 前回は階段で今回は廊下……

 つまり廊下で走る事自体は初犯な訳だし、ね?ねっ?チラッチラッチラッ




「……仕方ない、今回は特別に許してやろう」


 おっしゃ!


「もうすぐホームルームだ、ここで悠長に話をしている場合じゃないからな」


 時間ギリギリのおかげで、逆に助かったみたいだ。

 ナイス私!つっても、褒められたもんじゃないけど!


「だが……次はないぞ。気をつけろ」


 まだなんか険しい顔してるけど、とりあえず許してもらえたっぽい。


「あ、ありが……」

「分かったら、さっさと席に着け」

「え、あ……」


 ありがとうくらい言わせてよ〜。


「いいから……行け」


(ひゃあっ!)


『行け』のドスの利いた声に、思わず全身が甘く痺れていく。


 そうだ、忘れてた。

 いっちーは攻略キャラの割には割と地味な見た目なんだけど……その代わり、ずば抜けて声が良いんだった。


 他四人はどちらかと言うと高い声で、彼だけ低め。

 それもただ低いだけじゃなくて、声質が独特で甘く……声だけで人を悶え殺せる恐ろしいキャラなのだ。


(まぁぶっちゃけ……中の人というか、声優さんがすごいって話なんだけどね)


 でも、まさかこうして現実としてその声を直で聞くとなると火力が高すぎて……


(うわ、わわわ、わ……)


 まだドキドキしてる胸をさすりながら、なんとか声を振り絞って返事を返す。


「は、はは、はい〜……」

「なんだその言い方は!返事は短く!」

「は、はい!」


 おおこわっ。最後まで気が抜けない。


「ほら、さっさと行く!」

「はいっ!」




(……ん?あれ?)


 ふとここで違和感に気づく。


 今許してもらえたのって……もしかして好感度の関係?


 いくら時間ないからって、本来ならもっと叱られてるような。

 初犯の前回の方がもっと話長かったし、表情も険しかったし。


(あのありがた迷惑な好感度上昇システムのおかげで、今は助けられたって事か……)


 そっか〜。悪い面ばかりじゃ無い、と……物は使いようだなぁ。




「あ……!考え事してる場合じゃなかった!そうだ、急がなきゃ!」


 またドタドタと走り出した私に鬼の形相で誰かさんが振り向いた気がしたけど、見なかった事にして。


(私のクラスは2-Bだから……もうすぐ!この隣……!)



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