10-1-4.システムの狭間に覗く彼の意思
なんか俳句みたいだな、今回のタイトル。
半分くらい飲んだところで、ようやくいつもの冷静さが戻ってきて。
しかし、それと同時に今度は周囲の景色が視界に入ってきて……
(こ、これは……)
今、私達二人は海の家の席に丸いテーブル挟んで向かい合って座っている。
周りはというと、みんなカップルばかり。
同じようにカップルストローで飲み物シェアしたり、二人で山盛りのかき氷つついたりしてきゃっきゃしてる……
(えっ。これじゃ、私達もカップルみたいじゃん)
いや、むしろ周りの人達には本気でカップルだと思われてる可能性が……
おや?おやおや?
なんかこれ、見たことあるな?デジャヴだな?
ここでふと、前にお姫様抱っこされた時の記憶が脳裏に過ぎる。
つまり、これもそういうつもりなのかな。前言ってた、虫がつかないように……とかいうやつ。
(でも、だとしても……なんだろ、変な感じ)
変な感じがする。
うまく言葉に表せないけど……なんかぞわぞわするというか、落ち着かない感じ。
怖くはないし、警戒してるわけでもない。何か変な事されてる訳でもない。
でも、それにしてはなんだか変に胸がざわついていて……女の勘みたいなものが何かを訴えてくるような、そんな感じ。
男避けだけじゃない他の理由がある気がして。
はっきりと口に出してないけど、何かもっと重要な別の理由が……
(でもじゃあ、一体何が……)
何気なく辺りを見回すと、やっぱりどこもカップルばかり。店全体になんとな〜く甘い空気が流れている。
まあそうよね、みんな夏休みだもんね。
せっかくの長期休みだもん、そりゃ普段行かないようなとこ行くわな。こういう海とかさ。
こうやってまだ全然友達同士なのに来てるのは、私達くらいか。
いつか付き合うつもりで来てるならまだしも、そもそも私は全然その気ないからなぁ。
(そう思うとなんか冷やかしみたいで、ちょっと申し訳なくなってきたぞ……)
……ってうん?待てよ?
まさか、まさかとは思うけど、唯……こっそり二人の関係を進めようとしてる?
いやいや、まさか。そんなまさかね。
でもこう……なんとな〜く恋人感を醸し出して、周りに付き合ってると思わせといて……実は付き合ってました、みたいな。
そういう手口、なきにしもあらず。むしろ結構聞く話な訳で。
既成事実みたいな。いや、厳密に言うとちょっと意味が違うけど。
まだ高校生だし、そういう大人の関係とはまた違うものだけど意味合い的にはそんな感じの……
本人はそういうそぶり全然見せないけど、それが目的だったり……?
いや、まさか……まさか、な。
ここで唯の方をチラッと見ると、なにやら窓の外の海鳥達を目で追っているようだった。
(……)
いつもあんなんだけど。あんなゆるゆるで頭空っぽそうな彼だけど。
でも、かと言って……絶対に無いとは言い切れなくって……
乙女ゲームだから?そういう設定にされてるから?
いや、まぁそうだけど。そうなんだけど……
システムとして作られてるのはイベントの、『デート開始時に甘いセリフを言う』『カップルストローで飲む』ってところだけであって……
こんなカップル達に囲まれた雰囲気の中……なんて描写は一切ない。ナレーションとか説明もない。
もちろん、外堀固めようとしてるだなんて一言もゲーム内には出てこない。
(つまり、もしそうやって色々計算してるって事なら……この店を選んだのは……彼自身の意思……)
本当にそこまで計算して動いてるんだとしたら、これって相当じゃない?
どんだけ知能犯なのよ……テストは毎度毎度赤点なのに。
そうして一日中かけてたっぷり周囲に見せつけて(?)、この日は終わり。
結局彼の真意は分からずじまい。
それ以上何か手を出してくるとかは流石になく。
浜辺をウロウロしたり波を手で掬ったりキャッキャするだけで、ほんとに何もなく健全に遊んでただけで彼とのイベントは終わったのだった。




