10ー1ー2.出すとこ出してもたわわにはなれない
妖精達が夏を刺激する……
ここでふっと突然、視界がアスファルトの道路からだだっ広い砂浜に変わる。
どうやらシーンが切り替わったらしい。
(おいっ!いきなり時間飛ばすのやめい!)
ゲームシステム相手にそう言ったって仕方ないんだけど……でも、流石にひどくない?今のぶつ切り。
でも、シーンが変わった途端なんだか急に違和感。
体がなんだか軽くなったというか、歩く時の服の抵抗が少なくなったというか……
風が肌に直接当たってるような感覚というか……
(なんだろ?鞄はさっきからずっと持ったまんまだしなぁ)
とか思いながら、何気なくふと自分の体の方に視線を落としていくと……
(着替えなんて持ってきてないし、特に何も変わってな……)
うん?花柄……?
こんなの着てたっけさっき?
?
???
?????
「ってこれ……ビキニ……?!」
うっそぉ?!いつの間に私、水着になってる?!
そりゃあ、通りでスースーする訳だ!
いつ着替えたんだよとか、水着どこから出てきたとかはもう突っ込む気はない。
どうせいつものご都合主義システムのせい。
しかし、悲しいかな……泣きたくなるほど胸がない。ペタンコ……
いや、確かに現実の私はそうなんだけど……!
そこは再現しなくて良かったっていうか、もうちょっとくらいは夢を見させてほしかったよ!
(お〜い、主人公補正!仕事しろ〜!)
「どうしたの?そんなにびっくりして……」
あっずるい!
唯も水着だけど、上にさっき着てたTシャツ着てる!
(普段とあんまり変わんないじゃんそれ!恥ずかしい格好してんの、私だけじゃ〜ん!)
ずるいずるい!唯もそんな中途半端なのじゃなくて、ちゃんと脱いでよ!(?)
「……?」
「あっ、いや、その……」
彼の目が堂々と見れなくて……どんどん視線が下がっていく。
「あ、もしかして……水着が落ち着かない?」
「そうそう。あんまりこういう格好しないからさ、なんか違和感すごくて」
「そう?でもすごく似合ってるよ」
あ〜はい、どうも。お世辞ありがとう。
「あ、その顔……お世辞だと思ってるでしょ?ほんとだよ〜ほんとに可愛いんだって」
ほんとかよ〜。
「……」
「……」
でも、そう言う唯だって今露骨に顔背けてんじゃん。
うん。言わなくていいよ、本音は。
「……でさ。ど、どこ行く……?」
え?そんなキョドっちゃうほどキツい?
流石の唯でも、これキツい?
慣れてるつもりだったけど、今のは流石にちょっとグサっときた。
だよね。無地とかちょっとした柄ならまだしも、花柄だもんな。
しかも柄が大きいから、なかなか人を選ぶデザインだし……
(……よし、帰ろう!)
まだ何もしてないけど、このままじゃお互いツラいし!
早めに切り上げるが吉!よし、そうしよう!
「ねぇ唯。あのさ、もう……」
話しかけて途中で思わず声が止まってしまった。なんか違和感を感じて。
(あれ?唯の耳、なんか赤くない……?)
「そろそろ……無理、かも……」
「無理って……まさか、熱中症?!」
彼の顔をこちらを向けようと腕を伸ばすと、彼の手が優しくそれを退けた。
「だ、大丈夫?!目眩は?吐き気とかする?」
どこか涼しいところ行かなきゃ!ここから近いのは……海の家かな?
あと、場合によっちゃ救急車を呼んで……そうそう!忘れちゃいけない、水分補給も……!
「ううん、大丈夫。そういうのじゃないから」
「そういうのじゃないって……じゃあどういうのよ?」
熱中症じゃないんなら……まさか熱?
「いや、大丈夫。ほんとに大丈夫……具合悪い訳じゃないんだ、これは」
「え?じゃあ……」
「いやさ、七崎ちゃんの事ずっと見てたら……なんかドキドキしてきちゃって……」
「へっ?」
「いや、その……可愛いなって」
唯の頬がじんわり赤く染まっていく。
暑いからじゃない、おそらく……そういう事な訳で。
あの彼が珍しく本気で照れている。
(……)
なんだか見てるこっちも余計に恥ずかしくなってきて。
「……」
「……」
またしても赤面させられることになるとは……
(か、可愛いって……いや、ありえないけど!そんなのありえないって分かってるけどさ!)
どうしよう、嬉しい。
胸がないとか、デザインがどうとか、そういうのがもうどうでもよくなってくるくらいに。
(可愛い……可愛いって今……!)
喜ぶと同時に、自分がチョロい女だって事が分かってしまった瞬間だった。
「……そ、その……行こうか……」
珍しくぎこちない感じの彼を、もうちょっと見てたかったけど……このまま立ち止まってる訳にもいかず。
目を逸らしたまま歩き出した彼の後を追いかけていった。
それで、しばらく浜辺をウロウロしてたらなんとかお互い落ち着いて……無事、いつも通りの感じに。
でも、そしたら今度はなんだか喉が乾いてきて。
近くにあった海の家で、メロンソーダを二人分頼んでみたら……出てきたのはまさかのカップルストロー付きだった。
カップルストロー……先が二本に分かれた懐かしのあのストローだ。
一つのグラスを二人で飲むためのもの。
あるのは知ってるけど全然使う機会なかったから、こうやってまじまじと見るのは初めて。
(おおう、ちゃんと途中がハート型にぐるんぐるんしてる……)
ただ、ちょっと待って欲しい。
でも、でもだよ?
でもこれ、まだ付き合ってないんだぜ……?
ただの友達二人が、普通カップルストローで飲む?
こんなのってある?いや、ない。
さすがゲーム……強引というか、なんでもありというか……
(ときめけばなんでもオッケー!的な?雑だなおい……)
しかもいざ目の前にすると、なんともすごいストローの圧。
ゴゴゴゴゴゴ……
なんていうか……これで飲む二人を意地でもイチャイチャさせようとするような、なんとかくっつけようとするような……そんな、強い意思を感じる……!
※気のせい
え?飲むのが怖い訳じゃないよ?
ほんとだよ?
(でも、飲むのこれ?これ飲んじゃう?)
最初の一口さえクリアしちゃえば後は流れでいけそうだけど……その、最初の一口がですね……