10ー1ー1.夏休みデートラッシュ その1
はい、来ました夏休み!
怒涛のデート、デート、そしてデート……!
『デート掛け持ち』って字面からしてすごいけど、実際やってみると、それはもう想像以上だった。
しかも時間がポンポン飛ぶせいで……彼らに取っちゃ週末でも私には連チャンになるもんだから、休む間もなく。
本気で心身ともにヘトヘト……
それでもなんとか無事にこなせた私を褒めてあげたい。
っていうか、褒めて(?)。超頑張ったよ私。
(ちなみに何回かデート中に記憶違いして言い間違えて、ヒヤッとしたのは内緒……)
こうしてみるとデートしまくり浮気しまくりのチャラ男って、ある意味すごいよなぁ。
体力おばけだよ、ありゃ。褒められたもんじゃないけど。
色々あり過ぎて何が何だか……正直、記憶がだいぶしっちゃかめっちゃかだけど……
それを言ってちゃお話にならないので、とりあえずダイジェスト版の回想をお送りします!
という訳ではい、スタート!
第一週、トップバッターは唯!
夏休みのイメージピッタリの、爽やかな海デート!
イベントの始まりは、浜辺近くの駅で待ち合わせからだった。
今回は珍しくちゃんと最初からだったもんだから、目覚めてすぐ驚いてしまった。
ええっ?!途中からじゃないんだ?!って。
この世界、ほんとよく時間が飛ぶから……
で、話を戻すと。
彼は数分遅れてやってきた。
淡い水色のデニムパンツに、黄緑色の謎の波模様の入った白い半袖Tシャツで。
(お、おう……)
おしい!なんか、絶妙に惜しい……っ!
いつかのあの矢印よりはマシだけど、何だその緩いグラフみたいなやつ……三角関数?三角関数なの?
あの……何も凝らなくていいのよ……?
変な模様入れて、無理にオシャレ目指さなくていいのよ?もっとシンプルなやつでいいのよ……?
再び謎コーデの洗礼を受けて何とも言えない気持ちになりつつも、駆け寄ってくる彼と合流し駅を出る。
しばらくして視線の先に現れたのは……
「わぁ……海だ!」
日光を反射して銀色にキラキラ輝く真夏の海に、真っ青な快晴の空。
いかにも夏といった感じの景色が、視界いっぱいに広がっていた。
「うわ〜!きれ〜い!」
ふと横を見ると、なんだか私以上に嬉しそうな顔の彼がいた。夏の日差しより眩しい満面の笑み。
ツーリングが趣味らしいし、海なんてしょっちゅう行ってるようなイメージあったけど……そんなに大喜びするほど新鮮?
「唯、バイクが趣味だって言ってたけど……こういうところには来ないの?」
「ううん、割とどこにでも行くよ?海だったり、山だったり色々〜」
「え?それじゃあ、むしろこういうのって見飽きてるんじゃないの?」
「う〜ん、それはちょっと違うかな」
「違う……?」
「綺麗なんだもん、七崎ちゃんが」
えっ、私?海じゃなくて?
「七崎ちゃんの楽しそうな笑顔、ほんとに綺麗なんだもん……このままずっと見てたいくらい」
笑顔のまま、歯の浮くようなセリフを平然とと言い放つ。
現実ならただのやばい人だけど……しかし、これは乙女ゲーム。
自分に酔ってるとか無しに、彼はあくまで本気で言っているようだった。
(……っ!)
真っ直ぐ見つめてくる彼の視線に思わず目を逸らす。
嫌な予感がして慌ててバッと頬に手を当てると、案の定熱を持ち始めていた。時すでに遅し。
「あれ、どうしたの?」
挙動不審の私に気づいたのか、彼はそう言って立ち止まる。
意味深な笑みをこちらを向けながら。
「え、あっいや、なんでもないよ……」
「そう?でも、なんか顔赤くない?」
「あ、暑いからだよ!ほら、今日は気温めっちゃ上がるって天気予報でも言ってたし!」
「ふ〜ん」
納得したような雰囲気をさせつつも、まだその顔はわずかにニヤけている。
(その顔……!なんだ、分かっててやってんじゃん!)
おのれ小悪魔め!からかいやがって!
「まぁいいや、良いの見れたし」
「見れた?何が?」
「赤面する七崎ちゃんが」
「っ、だから今のは……!」
「ふふふっ」
「もう!こんなの見たってしょうがないでしょ〜」
「え〜?しょうがなくないし〜」
「なんでよ〜」
「だって……気になる人いたらさ、もっと色んな表情見てみたいって思うのは普通でしょ?」
気になる人。つまり……
(それってつまり……つまり……)
また熱くなってきた。いや、暑くなってきた。
君って奴は!す〜ぐそうやってナチュラルに口説く!
そんなの認めないぞ!これはこの場が暑いせいだからな!
暑いからと、持っていた鞄からうちわを取り出して乱暴に仰ぐと……二、三回仰いだところで手からするりと滑って、地面に落ちてしまった。
(ああ、もう!)
そしてそれを拾おうと屈むと、うちわを取り出した時に引っかかってたのか、今度は鞄から化粧ポーチが落ちてきて。
(も〜!も〜!)
なんかもうめちゃくちゃだ。調子狂うわ〜!も〜!
唯はそんな私を見て、楽しそうにケラケラ笑っている。
(ぐぬぬ……!おのれプレイボーイ!)




