8.もうどうにでもな〜れ☆
気分はずーんと重い。
ついさっきまで生徒会長弄り(?)で楽しんでたのに……いきなり場面が変わってしまったのだ。
(うふふ、うふふふ……)
楽しかった世界から急降下、天国から地獄。
もう笑うしかない。
(うふふふふふ……)
それは……友達に誘われて、期末試験の結果を見に行ったのが事の始まりだった。
なんかのイベントなのは分かっていた。何か起こるなって感じはしてた。
してたけど、してたけどさぁ……こりゃないぜ。
(うふふ、うふふふふふふ……)
試験の結果はほとんど変わってなかった。大体みんな中間試験と一緒の順位。
多少入れ替わったくらいでほぼほぼ同じ。
でも一人だけ、明らかな異変があったのだ。
今から遡る事1時間ほど……廊下の試験結果を見に行った時の事。
(……ん?あれ、秋水は?)
上からいっちー、次にモブキャラが来て、その次もまたモブ。
見間違いかと思ってもう一度上から順に名前を見ていっても、同じだった。
前回はいっちーの次に彼の名前があったはずなんだけど……
(あれ?おかしいなぁ……確か、休みじゃなかったはずなんだけど……)
ひたすら視線を下に下に送るも、モブキャラの名前がずっと続いている。
そして真ん中ぐらいに私とか友達がいて……
(それで、ここから下が赤点ゾーン……まさか……いや、まさかな……)
分かりやすく真っ赤なマーカーが引かれたその下は赤点で再試験となる人達の名前。
歩君と唯は、堂々いつも通りの順位。褒められたもんじゃないけど。
でも、まだ『神澤』の文字はなく。
(まさか先生が入れ忘……あっ、あった!)
下からうん番目のところに。
(うそっ!二位だったあの秋水が……三桁……!)
うそ〜ん!どうした、秋水!赤点じゃん!
頭良いキャラのはずなのに……
「な、なんで?!嘘でしょ……?」
「……しず?」
側にいた友達の声で我に返ると……周囲の不思議そうな視線が一斉に私に向いていて、慌てて口元を手で覆う。
(……っ!)
やば。衝撃すぎてうっかり叫んじゃった……
「どうしたの?急に大声出して」
「えっ、ああ、ええと……びっくりしちゃって」
「何が?」
「同じクラスにさ、神澤君っているじゃん?いつもトップの方にいるのに、今回赤点なんて珍しいなぁって……」
「えっマジ?どこどこ?」
「ほら、下の方」
「あ、あった。ほんとだ……うわ、ボロボロじゃん。めっずらし〜」
「今までなかったよね、こんなの……何かあったのかなぁ?」
「あ〜……なんか分かるかも。最近さぁ、噂されてるじゃん?」
なぬ!噂?!
「なになに?!それ、どんな噂?!」
(……っやば!)
ついまた声が大きくなってしまって、さっと口を手で押さえる。
「あっ、な……なんでもない。続けて続けて」
「なんかさ、最近やけに授業中ボーッとしてるじゃん?前はあれほど真面目だったのにさ」
確かに。
秋水はどんなに眠くなる先生相手でも、ちゃんとしっかり授業受けてるイメージだった。
なのに、昨日なんて……先生に名前呼ばれたのに全然聞こえてなくて。
結局先生に小突かれてようやく気がついて、その後すごい怒られてたっけ。
「それさ……恋なんじゃないかって」
わぉ、青春!
……なんて言ってられない。由々しき事態だ。
「……つっても、一部の女子がそう言って勝手に盛り上がってるだけだけどね」
あの彼が恋。しかもこのタイミングで。
これってつまり……
犯人なんて、言わずもがな……
「あれ?なんか思い当たる事でもありそうな顔ね」
思い当たる節めっちゃあるよ!ありまくりだよ!
体育祭の日、アクセルを思いっきり踏み抜いてしまったせいで……おそらく怒涛の勢いで溜まってきてるであろう、彼の好感度。
言わずもがな、その恋の相手はおそらく……
「えっ?思い当たる事?べ、別に……な、ない……よ……?」
「ほんとぉ?」
「ほんとだよ!」
「おんや〜?おやおやぁ?」
あ、あれ?
なんか……勘違いされてるっぽいぞ?
「しず、もしかして……彼の事気になってるんでしょ?」
逆ぅ〜!
(ちゃうねん!逆や逆!ベクトルが逆!)
まぁ、ある意味気になってるっちゃなってるけど……残念ながらそういう意味じゃない!
「ち、違うって!」
「友達なんだし、別に隠さなくたっていいじゃ〜ん」
「ほんとだってば、ほんと!」
「え〜、なによ〜」
誤解を解こうと必死に否定すればするほど、余計に怪しくなっていく悪循環。
「ふ〜ん、でもそっか〜神澤君かぁ。それなら、相当頑張らないとだね」
「頑張るって?」
「ほら、バレンタインなんてチョコもらいまくりだしさ。しょっちゅう倉庫裏呼び出されてるみたいだし……」
「えっ、そんなに人気なんだ……」
まじか。
あんな冷たいのにモテるんだ……なんだろ、顔が好みとか?いや、声?
(う〜ん、よく分からん……)
確かに秋水は顔整ってるし性格可愛いし、好きなんだけど……恋人にしたいって感じじゃないなぁ。
むしろ他のキャラと付き合って青春して欲しい、そんな感じ。
あっ、付き合うのはもちろん同性キャラで!そうじゃないと、彼の魅力が最大限引き出せないからね!
なんでってそりゃあ、私的に彼は『右側』だからさ!
え?右って何かって?いやぁ、それ以上の説明は……ゴニョゴニョ……
それは置いといて、で……今のところ、私の感触としては……一緒に普通に過ごしてて楽しいのは歩君、ときめきをくれるって意味で楽しいのは唯って感じだ。
ちよちゃん可愛いけど……まだあんまりよく知らないし。
いっちーも何か悪いって訳じゃないけど……他四人と比べちゃうと影薄いっていうか、これっていうのがないっていうか、う〜ん。
でも、ここでもし年相応に真面目に先を見据えて考えるなら……将来安定のいっちーだろうな。
家、確かお医者さんらしいし。彼自身も頭良くて、医学部行くっぽいし。
実家は上の兄弟が継ぐだろうから、跡継ぎとか同居とかそういった懸念もなし。これはなかなかの……
(いかんいかん、ついまたおばちゃんモードに……)
「まぁでも……私、応援するよ。友達として手伝える事あればなんでもやるから、言ってね」
青春ドラマのワンシーンみたいで、めっちゃいい雰囲気だけど……
いい感じなんだけど……勘違いなんだよなぁ。
それともう一言付け加えるなら……
どんなに人気あるっつっても、主人公の私は頑張らなくても勝手にそういう感じになる……というか、なっちゃうっていうね……
とんだチートキャラだ。
(これ、普通に頑張ってる他の女子にめちゃくちゃ申し訳なくなるやつ……ご、ごめんなさ〜い……)
「え、えと……あ、ありがとう……」
「頑張って、しず!」
好感度急上昇中の秋水に、歩君も唯も相変わらずで、いっちーもなんか気持ちが動いてきてる感じがあって。
それとあと……忘れちゃいけない、ちよちゃんもいる。
他四人と違って後輩だし、まだほとんど喋った事ないけど……攻略キャラである以上、いずれは……
いやぁ、エグくなってまいりました……!
なんかもう早速やばめの雰囲気だぞこれ……
恋愛のゲームだし、仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれないけど……とうとう五人とも、本格始動(?)してしまった感。
うふふ、うふふふ。
楽しい楽しい修羅場ゲーの始まり始まり〜。
さ〜て、いつ揉めるかな?
いつ告白してくるかな?いつお断りする事になるのかな?
五人とも譲る気なんて全然ないだろうしね。
大人なら気を遣ったり色々駆け引きしたりして、また話が違ったんだろうけど……なにせ、まだみんな高校生だし。
真っ直ぐな想い同士、いずれ衝突するのは目に見えている。
(……)
……って、考えてもしょうがないよね!人生、諦めが肝心って言うし!
もう、どうにでもな〜れ⭐︎
空元気でもやってないと、やってらんな〜い!
うふふ、うふふふ、うふふふふ……
「……しず?どうしたの、顔色悪いよ?」
「ナンデモナイヨー、キノセイダヨー」
「そう?ならいいけど」
でも、だからってここで引く訳にはいかない。
元の世界には帰りたい……いや、帰るんだ絶対に。
そこは絶対譲れない。
本来の生活を取り戻すために、今こうして必死に(と言いつつかなり遊んでるけど)頑張っているんだから。
本命というか、『迷い人』本人以外はいずれ断らないといけない……
(よ……よ〜し……ガンバルゾー……)
 




