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その差、一回り以上  作者: あさぎ
プ◯キュアじゃないよ
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2-1.チャラ男イエロー(姉小路 唯)

 


 鳥の声と明るい日差しで目が覚めた。


(う〜ん……今何時だろ?)


 むくりと起き上がり、壁にかけた時計を見上げると……


 時計が指していたのは8時。


(げっ?!)




「わあぁぁ!遅刻遅刻!」


 大慌てで身支度を済ませ、玄関へ向かう。


「あ!ちょっと、静音!携帯忘れてるわよ!」

「あっ!」


 やべ、忘れるところだった。ナイスママン。


「もう、そそっかしいんだから……はい、これ」


 手渡されたのは、どこか懐かしい感じのスマホ。

 一応リンゴのマークはついてるけど……なんか違和感がすごい。


(まぁそうなるか。この世界、今から十年以上も前のゲームだもんね……)


 今のやつより分厚くて、画面が小さくて……


(って、懐かしがってる場合じゃなかった!急げ急げ!)


「そ、それじゃあっ!行ってきま〜す!」

「朝からそんなに慌てて……危ないから、気をつけて行きなさいよ!」

「は〜い!」




(自転車通学でよかったぁ……)


 電車だったら完全にアウトだったわ、これ。


 自転車を猛スピードでかっ飛ばしていって……

 学校着いて降りたら、今度は校舎入口まで猛ダッシュ。


(ひ〜!頼む、間に合って!)


 誰もいない下駄箱で靴を履き替え、そこらじゅうに『廊下は走るな!』の張り紙が貼られているのを見ながら、通路を歩……

 ……くと間に合わないから、また全力でダッシュ。


 校則違反?

 この際無視だ無視!今なら誰も見てないし!




 そんなこんなでなんとか階段の前まで来たところで、ふと後ろから声がした。


「あれ〜?もしかして寝坊?」


 この時間に随分と呑気な声だこと。


 呆れつつ振り向くと……にへら〜とした笑顔の男子生徒が、ゆるゆるとこちらに手を振っていた。


「七崎ちゃん、おはよ〜」


 周りからは大体『七崎』とか『七崎さん』って呼ばれてるんだけど……唯一の例外がこの人。


(げえっ!このタイミングで『(ゆい)』……!)




『唯』こと、姉小路(あねこうじ) (ゆい)


 私の隣のクラス2-Bの男子で、この学年では誰もが知る有名人。


(有名って言っても……悪い意味で、だけど)


 肩まである長めの金髪を、ふわっとこなれた感じにハーフアップにしている。


(いや、厳密に言うと金っていうより黄色なんだけど……なんて言うんだろ?黄髪?)


 いかにもゲームのキャラって感じの色味で最初こそ見てて落ち着かなかったけど、今はもう慣れてしまった。


 服装は性格をそのまま表すような、だらだらでゆるゆるのファッション。

 学校指定外のベージュのカーディガンに、下がり気味の緩いズボン、前が大きく開いたワイシャツ。

 ネクタイまでもだらーんとしてて……先生とか生徒会長に見つかったら相当怒られるぞ〜これ。


 見た目通りちょっと軽くてマイペースな性格で、規則なんて当たり前の如くガン無視。

 破りたくて破っているというより、マイペースすぎて守れてないって感じの……超ゴーイングマイウェーなタイプだ。


 そんな感じだから、先生とか生徒会には目をつけられてて、しょっちゅう注意されてるんだけど……いくら怒られてもあんまり効かないタイプなもんだから、暖簾に腕押しというか糠に釘というか……




「お……おはよう、姉小路君」

「相変わらず堅いなぁ、もう。『唯』でいいよ『唯』で」


(おっ!来た、名前呼び!)


 もう早速彼の好感度が上がってきているようだ。


 そういうシステムとして、あらかじめ用意されたセリフなのは知ってるけど……いざ面と向かって言われると普通に嬉しい。


「じゃあ……次からそう呼ぶね」

「うんっ!」


(なっ……!)


 彼の口から突然飛び出した、まさかの『うん!』。


(『うん!』って、君……!今『うん!』って……!)


 キュンキュンし始めた私の心臓に、彼の眩しいくらいの満面の笑みが追い打ちをかけてくる。


(はわぁ……!どちゃかわ……!)


 チャラい雰囲気からの、無邪気な『うん!』……!

 その圧倒的破壊力……!


 はぁ、尊い……


(……って、違う違う!今はそんな事してる場合じゃない!)


「じゃ、じゃあそろそろ私……」

「そういや七崎ちゃん、今ここにいるって事は……もしかして寝坊?」


 立ち去ろうとする私を引き止めるかのように、彼は会話を続ける。


 いや、この感じ……多分『ように』じゃなくて、お喋りしたくて引き止めようとしてるっぽいけど……


「ま、まあね……」

「そっか〜。じゃあ、一緒だね!」




『一緒だね!』。


 だ〜か〜ら〜!その言葉選び!やめたまえ!

 死人が出るから!というか私が死ぬから!


(うっ……!か、可愛い……!)


 尊すぎて、思わず心臓を押さえて卒倒しそうになった。

 某ネット画像みたいに。


 何が一緒だ!こちとら遅刻しそうなんじゃい!なんて本当は言いたかったけど、彼の笑顔で速攻消し飛んでしまった。


 チャラくてませてるように見えるけど……こういった何気ない時に素直で可愛い一面が見れたりするのが、彼の最大の魅力なのだ。キュン。




(……はっ!)


 って、だから!萌えてる場合じゃないんだって!

 ガチでやばいんだって!あと5分だよ、5分!


 忘れちゃいけない、目の前の彼はナチュラルに遅刻常習犯……彼にとっちゃ今の時間の登校は平常運転、いつも通り。

 だから、ああも余裕な訳で。


(なのに、私まで一緒になって喋ってたら……ガチで遅刻する……!)


「唯、ごめん!先行くね!」

「え?一緒に行こうよ〜」

「一緒にのんびり歩いてたら遅刻しちゃうから!それじゃあねっ!」


 慌ただしくそう言って、私は慌てて彼の横を走り抜けていった。



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