7-2.生徒会長サマの失言
眼鏡クイックイッ。
「しかし……」
言いかけて、メガネをクイっと上げるいっちー。
急になんだかしっとりした空気が流れ出す。
(ん?なんだなんだ?)
まだずれてないはずなのに、またクイっとしながら……
「その……なんだか……君と一緒にいるとどうにも甘えてしまって、いけないな……」
ほあっ?!
甘えてたの?!今の?!
えっ、おばちゃん全然気づかなかったわぁ……
「自分一人で探せばいいものを、わざわざ君に頼るなんて……」
「えっ?」
これ、甘えって言わなくない?そう思うの私だけ?
むしろ、もっと頼ってくれていいのよ?
「そんな〜全然いいのに」
「いや、駄目だ。本を見つけるくらい、自分でできるんだから。それを他人に頼るなんて……」
そういや……彼が誰かに頼ってるところ、見た事ないな。
むしろなんでも一人でやっちゃう……助けなんていらないくらい、なんでもできちゃうタイプだからなぁ。
いわゆる、要領が良いってやつ?
秋水もなんでもできる(風を装ってる)けど、あっちは努力の賜物だからなぁ。元々は不器用なタイプみたいだし。
いっちーはどっちかっていうとその逆で、素でなんでもこなしちゃう感じ。
「だけど……どの棚かもよく分からないのに、一人で一から探すなんて大変でしょ?」
「それは、そうだけど……でもだからって、今まで店員呼んだ事ないし……」
「え〜そうなの?」
「それに……他の店員なら、そもそも話しかけようなんて思わなかった……」
お?おおお?
あっ言っちゃった!みたいな顔してるけど、もう遅い。
聞いちゃったよ、私。今の爆弾発言を……
真顔でいながら、心の中ではニヤニヤ。
聞いちゃった♪聞〜いちゃった♪
「それ、私ならいいって事?」
ほっぺたをピンク色に染めながらまごつく彼に、追撃一発。
なんか、いつも余裕な態度だから……ついついいじめたくなっちゃって。
「そ、それは……その……」
答えをはっきり言わない彼の代わりに、ジュワーっと赤くなっていく顔が答えを教えてくれていた。
可愛い。控えめに言って超可愛い。
背が高くて、声が低くて、大人っぽくて。
でも、可愛いとか……反則じゃない?
その上、だって今……
(私だから話しかけてくれた、って事だよね?)
キュン。
なんとも乙女ゲームらしい展開だけど、ときめかずにはいられなかった。
「……や、やっぱり……なんでもない!い、今のは……忘れてくれ!」
珍しい、大慌てのいっちー。
今まで見た事ないほどの焦りよう。
「お、俺、まだ他に見たいものがあるから!そそ、それじゃあっ……!」
私の返事を待たずしてそう一方的に言い放ち、こちらにくるりと背を向けてしまった。
「あっ、ちょっ……ま、待って……!」
「……」
「待ってってば!」
「……」
「お〜い!ちょっと〜?」
今までの会話がまるで無かったかのようにさっと涼しい顔に戻り、スタスタスタ……と早足で遠ざかっていく。
(で、でも……だからってそっちは……!)
彼の数歩先、今まさに入ろうとしてるその先には……いかにもな感じのピンク色の暖簾が……
分かりやすいようにデカデカとR18って書かれてるんだけど、今の気が動転した彼にはそんなの全く見えていないようで。
(いっちー!お〜い!お〜いってば!)
「ちょっと!ストップストップ!」
「……」
「お〜い!ねぇってば!」
「……」
「そっち、『18禁コーナー』っ……!」
言い終わるか終わらないかくらいのタイミングで、私の横を凄まじい突風がギュン!と通り抜けていく。
(はっや。残像が見えたぞ今……)
大慌ててUターンしてきた彼は、そのまま何も言わずどこかへ走り去っていった。
どっかの誰かさん、こういう公共の場で走っちゃいけないとか言ってなかったっけ……?
学校の外だから、ノーカン?
「ふふっ……」
思わず笑みが溢れる。
うっかり声まで出てしまって、ドキッとして辺りを見回すと……側にいたお客さんは立ち読みに夢中のようだった。危ねぇ。
(しっかりしてそうに見えるけど、意外と抜けてるタイプなのかもな……?)