6-2.助けてあげたいけど……もどかしい
なんだいなんだい、なんでも言っておくれ。
可愛い後輩の頼みならなんだって……
「LIME……僕と交換してくれませんか?」
そう言って、さっと自分のスマホを取り出すちよちゃん。
「……えっ?」
おっとぉ?おおっとぉ?流れが変わったぞ〜?
(そういや、そっか。君も攻略キャラの一人なんだったっけ。すっかり忘れてたわ……)
ついでに連絡先聞いちゃお⭐︎みたいな?
『会える?何歳?(中略)てか、ラインやってる?』のおとなしい子バージョン?
(控えめな感じに見せかけておいて、結構ガンガンくるタイプだな……?)
ゲームだから許されるこの、やたら押しの強い感じ。
乙女ゲーム特有の……キャラがその気になった時のこの、グイグイ感。
なるほど。なるほどなるほどな。
つまり……お礼うんぬんはただの口実で、ぶっちゃけ連絡先交換したいがために会いに来たって事か。
彼も彼でなかなかの策士キャラのようだ。
(そういや、よくよく考えたら……まだほとんど連絡先知らないんだよなぁ)
歩君は別として……他三人、唯も秋水もいっちーも……まだLIMEは交換してない。
だから、ある意味目の前の彼が一歩リードしている。
ひょっこり出て来たと思ったら、追いつくどころか追い抜いていく……お、恐ろしい子……
(ここでまさかのダークホース到来……?)
まぁ学年が一個下だから滅多に会えないし、話す機会がLIMEくらいしかないってのもあるのかもしれないけど。
「あ、でも……駄目ならその、全然、大丈夫です……」
控えめだけど、押しが強い。
グイグイくるけど、どこか躊躇いもあるような……他四人と違うなかなか新しいパターンだ。
「いきなりですし……やっぱり、迷惑ですよね……」
犬のクーンクーンという鳴き声が聞こえそうなくらいの、切ない顔。
(うっ!)
また心臓を抑えて卒倒しそうになる。
もうあと何回、救急車に運ばれればいいんだよこれ……(某画像)
そういうの弱いって知っててやってる?むしろ無自覚?
どのみち怖いわ。
心のツボを容赦なくギュンギュン抉ってくる。
(と、年下属性オソロシス……)
「駄目……ですよね……?」
「いや、いいよ全然」
「えっ!ほ、ほんとですか?!」
「うん。ほら、交換しよ?」
「わぁ……!ありがとうございます!」
相変わらずもさっとした前髪の向こうで、ぱあっと彼の表情が晴れていく。
(うっ!また可愛い顔しやがって……!)
そんなこんなで交渉成立。
登録すると、すっと犬のアイコンが一覧に増えた。名前表示は『千世 龍樹』。
「えっと……ちよ君?いや、ちせ君?」
「あ……『ちよ』です」
「へ〜、珍しい苗字だね」
「よく言われます……」
なるほどなるほど、千世君か。
(いや、この場合……)
違うな、『ちよちゃん』だな。
アイコン画像に引っ張られてるのかもしれないけど、彼自身なんとなく子犬っぽいから……そっちのがしっくり気がして。
面と向かっては言わないけど、心の中ではそう呼ばせてもらおう。
「アイコンの子、可愛いね。ワンちゃん飼ってるの?」
「は、はい……柴犬です……」
「そうなんだ〜。ちなみに名前は?」
「えっと、名前は……」
「ち〜ちゃ〜ん!」
またあの声。
「……っ!」
ビクッ!と大きく体を震わせるちよちゃん。
廊下から聞こえてくる耳障りな声に、血の気がみるみる引いていく。
「いるんだろ?隠れてないでさ、帰ろ〜ぜぇ?ほら、一緒にさぁ〜」
顔はどんどん引き攣っていき、体は小刻みにカタカタと震え出して。
「あ、ああ、あ……」
光を失った瞳には涙がうっすらと浮かんでいる。
「千世君……」
「え、えっと……!」
「……」
「ぼ、僕、そろそろ帰ります……!それじゃっ……!」
そう言って、慌てて教室を出て行ってしまった。
(ちよちゃん……)
前に慌てて逃げていったのは、もしかしたらこのせいなのかもしれない。
アオハルとかそんな明るいものじゃなくって……もっと……
とはいえ、あのいじめっ子達は未だ相変わらずのようだ。
見てるだけでも充分そのつらさは伝わってくる。
今すぐにでも彼らの間に割って入って、助けてあげたいくらいだけど……
でも、彼らとなんの関係もない私があまり出しゃばると、却って余計に悪化する可能性もあるし……
(なんとかしてあげたいけど……う〜ん、もどかしい……!)




