6-1.どっか行こうとしてる時に限って忘れ物する
またあれから時間は飛んで……
今は学級日誌を書き終わり、日直の仕事がようやく終わった放課後。
(ふぅ、終わった終わった〜)
なんか色々やった風だけど……掃除とか色々終わった後のシーンに飛んだから、実は日誌書いただけですこの人。
(シャーペンで長々と文章書いたの、すっごい久々だったなぁ)
鞄を持って教室を出ると、ふと廊下の大きな貼り紙が目に入った。
今回の中間試験の結果発表だ。
この学校では試験が終わると、生徒全員の得点と順位がこうやって廊下に貼り出されるのだ。
私が教室で残って色々やってる間に、先生が貼ったらしい。
帰りが遅くなったおかげで、みんなより先に結果を見れる事ができてちょっとだけ優越感。
ちなみにこれ、生徒同士競争させてやる気を出させるためだとか。
個人的にはそれかえってやる気失せない?とか思っちゃうけど。学校の方針らしいから仕方ない。
私はというと、まぁ……真ん中くらい。
でもぶっちゃけ、そういうシーンカットされまくりで実質全然勉強してないから……真ん中でもむしろすごくない?よく取れたな。
ちなみに他のキャラはというと……
歩君と唯は赤点で再試験確定、秋水は2位、そして全科目ほぼ満点でぶっちぎり一位のいっちー。
(いちいのいっちー……!むむっ、これは!)
すかさず友達にLIME(※L◯NEじゃないよ☆)すると、返事はすぐに返ってきた。
(どれどれ……)
画面にでかでかと、う〇このスタンプ一つ。
(あっ、はい……)
渾身の親父ギャグのつもりだったけど、判定はNGのようで。駄目か〜。
そんなくだらない事しつつ、だらだらと廊下を歩いていく。
今日はバイトないし〜。
歩君は補修があるとかで、まだ帰れないらしいし〜。
秋水は発表会近いからってさっさと帰ったし、唯は多分バイト、いっちーは委員会の打ち合わせ中……この感じだと会話イベントは起きそうにない。
でもこうして意識があるって事は何かあるって訳で。
(なんだろ、帰り道の途中で誰かに遭遇するパターンかな?)
なら、その誰かに会うまでは完全に自由だ。
この世界に来て初めての一人の時間。久しぶりだから、今日はたっぷり羽を伸ばしたいな。
あっそうだ。
せっかくだし、どっか寄って帰ろうかな?
そろそろ暑くなるしなんか新しい夏服でも……
(ええっと……そういや今、お小遣いいくらあったっけ?)
鞄を大きく広げて、手を突っ込みながら覗き込む。
財布、財布っと……
「……あれ?」
鞄の中にあったのは……教科書何冊かと、英単語帳、ルーズリーフとかファイル類数冊、歴史の資料集、生徒手帳……
あとは……筆箱、スマホの充電器、ポーチとハンカチ。
(えっ、うそ……財布は……?)
……?
……??
……???
……まさか、机の中?
ええっと……お昼の時、教室に財布忘れて友達に学食奢ってもらって。
で、その後席に戻ってすぐにお金渡したんだけど……
そういえばその時、話に夢中になってて……
鞄に財布をしまった記憶がない……
(って事はつまり……!)
はい、七崎さんやらかしました〜!
今から教室戻りま〜す!泣きたい!
(だぁ〜っ!ちくしょ〜!)
ヤケクソで猛ダッシュ。
校則?大丈夫、大丈夫。
ちゃんといっちーいないの見てから走ってるから、大丈夫。(そういう問題じゃない)
息を切らせて走り、やっとこさ着いた自分の席。
椅子を引いて引き出しに手を突っ込む。
(あ!あった……!)
よかった〜。両方の意味で。
ちゃんと記憶合っててよかった〜。
あと、盗みとかない平和なクラスでよかった〜。
(おっしゃ。今度こそ帰るぞ〜)
財布を鞄にひょいっと突っ込み、教室の扉へ向かおうとすると……
「……あのぉ……」
不意に廊下から呼びかけられる。
誰だろ、男子の声。
しかもこんな放課後の微妙な時間に。
(歩君の声じゃない、でも唯でもなさそうだし……)
扉を潜り廊下へ出ると、おずおずとした声と共に見覚えのある鮮やかな紫色が視界に入ってきた。
「……あの……せ、先輩……」
あっ、この子!あの時いじめられてた子じゃん……!
名前分かんないけど……確か、『ちーちゃん』って言われてたっけ?
「先輩、その……実は僕……先日言いそびれちゃって」
「何を?」
はて?なんかあったっけ?
「その……あの時は、助けていただいて……ありがとうございました」
「えっ?ああ、うん」
お、おう。どうもどうも。
「いつかちゃんとお礼を言おうと思ってて……さっきたまたま廊下を通ったら、姿を見かけたんで……来ちゃいました」
えっ?
え、わざわざありがとうを言うために来たって事……?
(ええ子や……!)
超えらい。えら過ぎるで賞、受賞。
ちゃんとお礼言うって大事だもんね……おばちゃん感心よ。
「先輩、それであの……ちょっとお願いがあって……」




