5-5.ここでアクセル全開!ツンデレを右に!
インド料理屋さんのカレー、大好物なんだけど……あの大きなナンがどうしても食べきれなくって、いつも申し訳ない感じに……
「僕なんて……」
ようやく口を開いたと思ったら、これ。
まだまだ自虐モード続行中のようだ。
「僕なんて、全然だ……」
「そう?」
「全然駄目なんだ、本当に……」
いや……そんな訳ない。
毎朝伴奏聞いてるけど、一音一音どれもほんとに拘ってるのがよく分かる。
同じ鍵盤押してるはずなのに、それぞれ出てくる音が微妙に違って。
ただ楽譜通りに演奏してるんじゃない。強弱だけじゃなくて、音の硬さや柔らかさとか……音色のほんの僅かな違いで変化をつけながら弾いてる。
朝、先生に言われて仕方なく弾いてるように見えるけど。
彼自身も無愛想な顔をして、そういう風を装っているけど……それは違う。
全くの素人でもよく見れば分かる……これは毎回本気だと。
学校の、しかも朝礼でしょ?なんて普通の人は思うだろう。私もそう思ってた。
別に発表の場でもなんでもないし、うまく弾こうと誰かが評価してくれる訳じゃない。立ったまま、目は開いてるけど寝てるような生徒だって大勢いる。
けど、それでも彼は手を抜こうとしないのだ。それも毎回。
弾くなら常に真剣にやる、一切の妥協は許さない。
まだ高校生だというのに……もうすでにプロのような姿勢を持っている。
(むしろそれって、相当すごい事だと思うんだけど……)
普段ピアノ弾かないような人間だし、演奏技術がどうとかは全然分からないけど……分からないながらも、でもその本気さはいつもしっかり伝わってきてた。
もしかしたら、その手の人にとっては彼は下手な部類になっちゃったりするのかもしれない。まだまだ未熟、なんて言われちゃうのかもしれない。
でも普通に聞く分には上手いし、なんか聞いてて飽きないから好き……これが私の素直な感想。
上手い下手はさておき……少なくともここに一人、彼の演奏を楽しんでる人間がいるって訳で。
(万人受けはしなくても、まだ未熟だったとしても……少なくとも私は……)
「……でも、好きだよ?」
「なっ……!なな、な、何言って……?!」
いきなり大声出したかと思ったら……今度は首がもげそうな勢いで、ぐりん!とそっぽを向く秋水。
(な、なんだなんだ?!なんだ急に……?!)
なんだろうと不思議に思って彼の方を見つめたら、サササッと後退りしさらに拒否られてしまった。
えっ?私、なんかした?なんかやらかした?
今の一瞬で一体何が……?
「ど、どうしたの……?」
「……」
よくよく見ると、彼の頬がちょっとずつ赤くなってきていて。
……あっ。
(あっ、そういう……)
彼の態度とさっきの自分の発言から、事態をなんとなく察した。
やば。軽く慰めるつもりが……目いっぱいアクセル踏み込んじゃったぞこれ。
「あっ違っ、違うの!ええと、好きっていうのは……そうじゃなくてその……ピアノの演奏がって事で……」
慌てて弁解するも、時すでに遅し。
「い、言われなくたって……!そんなの分かってる!」
彼の顔はもう、真っ赤っかに茹で上がってしまっていた。
そうやって恥ずかしがりながらも、その瞳はこちらをしっかり向いていて。
熱を持ってウルウルと潤むそれは……漫画だったら、その瞳孔のど真ん中にハートが描き込まれていただろう。
どうやらかなり効いてしまったらしい。うっかり放った、『好き』という言葉が。
あ!……って事は……!
(しまった!これ、告白……?私から告白した事になっちゃう?)
慌ててキョロキョロと辺りを見回すも、あの脳に響くような不思議な声はしてこなかった。
ギリギリセーフっぽい?ホッ。
しっかし、えらい展開早いなおい。
ゲームとはいえ、あのツンツン塩対応から今の感じになるまであっという間だった。というかもはや秒だった。
それだけさっきの一言がでかかったって事なんだろうけども。
(これ、もしかして……好感度歩君並に爆上がりしてない……?)
好感度高レベル到達、デフォルトで高く設定されてる歩君がいて……おそらくその次がこの彼。
(つまりこれで二人目……!二つ目の爆弾……!)
増えちゃったよぉ!爆弾が!やめてくれよぉ!
ドSなの?そんなに七崎虐めたいの?
修羅場、イズ、カミング……!
なんだかんだで、着実にその時が近づいてきている……!
(ひ〜ん!絶望しかねぇ……!)




