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その差、一回り以上  作者: あさぎ
泣いても怒っても最後
186/188

33-2.その差、一回り以上

 


「あの……早速なんですが、一つ聞いてもいいですか……?」

「いいけど……」

「約束、覚えてますか?」


 あれか。大人になったら……ってやつ。

 つまり……


「や、約束って……つまりあれよね、あの……あれ……」


 すぐに分かったけど、口に出すのが恥ずかしくてモニョモニョ。


「あれ、って?」

「ええっと……ごめん、意識がふわふわしてたからあんまり覚えてなくて……」


 これは嘘。ほんとはめっちゃ覚えてる。

 でも、恥ずかしくて言えなくて……咄嗟に嘘をついてしまった。


「忘れちゃいました?」

「あ〜、うん……ごめん」

「……いえ、大丈夫です。最初から、もう一度こうやって大人の姿に戻った時に、再度ちゃんとお伝えするつもりでしたから」


 そう言って彼はベッド脇の椅子を引き、背筋を伸ばして座った。


(ちゃんと?な、何をどうするって……?)


 なんだかかしこまった雰囲気に私まで緊張してきて、ベッドの上でなぜか正座してしまった。


 空気がキーンと引き締まったおかげで、顔の熱が引いたのは助かったけど。




「あの……」

「……」

「し……静音さんっ!」

「ひゃいっ!」


 うわ、変な声出た。


 私の名前を呼ぶ彼の勢いが強すぎて、怯んでしまって。


「その……!ぼ、僕と……結婚前提で付き合ってくれませんかっ!」


 わお。


「え、ええっと……」


 正直、まだこの大人の状態で出会って数分しか経ってないから……なんとも言えない。

 好きかと聞かれたら、まだ正直よく分からない。


 だけど、断る理由もなく。

 なんとな〜くまぁまぁ好みのタイプかもなぁ……なんて内心ぼんやり思ってたくらいだし。




「え、あ……ええと……」

「そう言われたって……悩んじゃいますよね。まだまだお互いの事よく知らないのに」


(うぐっ!)


 心を読まれたかのような一言。まさに図星だった。


「いいんです……いいんです、それで。そこは、これからだから……」

「これからって……?」

「それは……」


 彼の真剣な顔に思わず頬がまた熱を帯びていく。


「これから……僕、頑張りますから」

「頑、張る……?」

「今から、絶対に……あなたを落としてみせますから」


(ひゃっ……!)


 そんな事言われてときめかない女なんている?

 きっと……いや、絶対いない。


 落としてみせますってこれからやるみたいに言っておきながら、割ともうすでに落としにかかってきている。とんだフライングだ。


 キュンと一際大きく心臓が跳ねて、のぼせていく頭。

 心の奥が嬉しいやら恥ずかしいやらでなんだかムズムズする。




「あっ、そうそう。苗字じゃなくて『龍樹(たつき)』って呼んでもらえませんか?」

「えっ」


 えっ、誰?って言いそうになってしまった。


 そうだったそうだった、さっき言ったじゃん私。

 分かっちゃいるけど……いざ言われると、まだやっぱり誰?ってなっちゃう。


 可愛い感じの苗字に比べて、結構渋めのお名前なのよね。


「駄目……ですか?」


 相変わらずの控えめな視線。

 だけど、その目はしっかりと私を捉えて離さない。


「えっ、あ……い、いい、けど……」

「よし。じゃあ次はLIME交換しましょうか。あっもちろん、ゲーム内のじゃなくて現実の方の、ですよ?」

「あ、うん……」

「それと……ああそうだ、電話番号も交換して……あと、あれも……」




 あれ?あれあれあれ?

 完全に彼のペースだなこれ?


 なんか押せ押せだな?ゲーム内の時よりさらに強気だな?


(ほ、ほんとに君……ちよちゃんだよね……?)


「えっ、えっと……」


 勢いに押され狼狽える私に、トドメの一撃。


「あっ、念のため言っておきますけど……僕、本気ですからね」

「……っ!」

「覚悟してくださいよ?」


 覚悟って何やねん!なんて突っ込む余裕なんてなく。


「はい……」


 俯いて小さく一言返事をするだけで精一杯だった。


(もう、もう……!わ〜っ!わ〜っ!)


 頭の処理が追いつかなくて、脳内ですら奇声しか出ない。


 何がわ〜っ!なのかなんて、突っ込んじゃいけない。

 とにかくわ〜っ!としか言いようがなかった。


 顔がどんどん赤くなっていき……どうにもいられなくなって、半分パニックになりながら彼の胸に飛び込む。


 もう、訳が分からない。


(わ〜っ!わ〜っ!)


 でもそんな私を、彼は優しく抱きしめてくれた。


 暖かくて柔らかい、彼の腕の中。

 全身がふわふわとした優しさに包み込まれていく。




「あ!」

「うわっ!」


 いきなり勢いよく顔を上げた私に、彼はビクッと小さく震えた。

 もちろん、恐怖のビクッとは違う方のだ。


「び、びっくりしたぁ……どうしました?」

「ねね、身長今いくつ?」

「へっ?」


(おお……)


 初めて見た、彼のキョトン顔大人バージョン。

 これはこれで、なかなか……


(って、見惚れてる場合じゃなかった)


 いきなり変な話題振るもんだから困っちゃってる。


「ごめん、いきなり。なんか違和感すごくて、気になっちゃって」

「……?違和感、ですか?ああ、いきなり大人になったから……」

「うん、それもあると思う。けど、それにしたって……なんかすごい背高くない?なんか変じゃない?」


 前はこんな身長差なかったから。

 なんか急に顔が遠くなったなって思って。


「変、ですかね……?」

「いや、変じゃないけど……でも、違和感というか……」


 私の中のちよちゃんは可愛い後輩キャラであって……

 ちっちゃくてちょっと華奢で……みたいな感じの……


(う〜ん、やっぱり違和感……)


「え、僕の身長……ですか?180くらいですけど……」

「え」


 でっか。


 いいな、羨ましいなぁ。

 高校で成長が止まったっきりの私は、ちょうどほぼあのゲームの主人公と同じ身長。

 ちなみに155センチ。


(あれ?)


 って事は……?


 つまり……ええっと……引き算するとその差、25。




 ……って。


 に、にに、25センチぃ……?!


(わ〜お、だいたい頭一個分……!)


 これはこれで一回り以上……そりゃ、顔がはるか上に見える訳だ……




 元の世界に戻って……『一回り以上』あった年の差は、もうほとんど無くなった。


 でもその代わりに、今度は私より『一回り以上』大きくなってしまったのだった……彼の背丈が。


「そう来たか〜今度は……」

「えっ何が?」

「ううん、なんでもない」

「……?」


 前回は歳の差、今度は身長差。

 運命は、どうしたって私達に一回り以上の差を与えたいらしい。


(まぁ……でもいっか)


 歳の差は厳しいけど……身長差なら。




 勝手に聞いて勝手に納得した私に対して、彼は不思議そうな顔のまま。


「静音さん、一体どうし……うわっ!」


 説明不要と言わんばかりに、私はその胸にまた思いっきり飛び込んだ。



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