32-3.例え作り物であっても
例え作り物でも別れは別れ。
頭では分かっていても……
「し〜ず!」
同じクラスの女子数人がこちらに駆け寄ってくる。
「この後さぁ、プリ撮ろ!そんでその後……」
『プリ』……プリクラとか超懐かしいんですけど。
こちらの返事を待たずして、他の子達だけで会話が勝手に進んでいく。
「佐藤君と矢田君、来れるって」
「あれ?じゃあ何人だ?」
「うちの担任ガチ泣きしてるんですけどw」
「え、ってか男子呼ぶの?」
「やべ、金欠なんだった」
「佐藤君来るとか意外だわ」
「ポテチ、今からコンビニ行くって」
「校長まで泣いてるwやばw」
「もう一袋食べ終わったの?!ペース早っ」
同時に一斉に喋るもんだから、何が何だか。
「昼間は?」
「トイレ行ったって」
「あれ?ユリどこ行った?」
「あ、うちもトイレ〜」
「一旦帰って荷物置いて来るって」
「家近いもんね。いいな〜」
「そろそろ全クラス終わったかな、撮影」
「え、私も帰りた〜い。ってか着替えたいんですけど〜」
「あ、あ……あ……えっと……」
カオ◯シじゃないよ?
「……しず?」
こういうの、結構勇気いるよね。
「みんなごめん、私……帰るね」
「え、まじ?」
「あ〜!もしかして彼氏?できたの?」
「そういうとこちゃっかりしてるんだから〜」
「いいな〜!私も大学入ったら即効彼氏作る〜!」
またなんか勘違いされてる……
「あれ?じゃあプリは?」
「ごめん、また今度ね」
(今度なんて……ないんだけどね)
目の辺りがじわじわと熱くなってくる。
「ごめんね……みんな」
永遠にさようなら、みんな。
さようなら、この学園生活。
「そんな、謝ることないよ〜。じゃあ、またね」
「また今度、どっか遊びに行こ〜」
「元気でね〜」
どんなに短い間でも、別れは別れ。
例え彼らと全然絡みがなかったとしても……
例えゲームという作り物の世界であっても……
別れは、別れ。
「……あれ?しず、泣いてる?」
「ちょっと〜!やめてよ〜!」
「わ……私だって、我慢してたのに……!」
この先ずっと会えないって事を微塵も知らない彼らの顔……あまりにつらくて直視できない。
「う……ううん……泣いて、なんか……」
泣いてなんかない、そう言いながら……涙が一粒、勝手に溢れて落ちていった。
違うのに。そんなつもりじゃないのに。
もう、これで元の世界に帰るんだって……私は別世界の住人なんだって、嫌でも思い知らされてしまって……
「しず、笑って?最後なのに泣いてお別れなんて、私……」
「最後は泣かないって……決めたじゃん、さっき……!」
「わ、私も……ぐすっ……」
私の涙が引き金となって、みんな一斉に涙目になっていく……
「あっ!矢田君来た来た!」
息を切らして走ってきた、坊主頭の好青年。
なんだろ、野球部とかかな?
「わりわり!遅くなった……って、えっ?!」
みんな泣いてるもんだから……何も知らない矢田君超びっくり。
「え?え?ど、どうしたみんな……?」
「矢田君が泣かせた〜!」
「えっ、泣かせ……?!」
「矢田君が悪い!」
「俺ぇぇ?!」
来たばっかりなのに、早速謎の冤罪ふっかけられる矢田君。
ありがとう、でも助かった。ナイスタイミング。
彼の登場で少し悲しみが緩和されたところで……
私の気持ちもちょっと落ち着いたし……これ以上変なところ見せるのも嫌だし、さっさと退場しよう。
「みんな、ありがとう!じゃあ、またね……!」
「「じゃ〜ね!」」「「またね〜!」」
私の姿が見えなくなるまで、みんなこちらに手を振ってくれていた。
泣きそうな顔を堪えて、どうにか笑顔にしながら。