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その差、一回り以上  作者: あさぎ
泣いても怒っても最後
181/188

32-2.思い出をありがとう

 


「っははっ、はははっ……!」


(……!)


 不意に聞こえてきた、誰かの笑い声。


(歩君……)


 今まで散々聞いた声だから、姿が見えなくともすぐ分かる。


(うっ……超気まずい……!)


 あの出来事の後だから……なんていうか……うん。


(ぬぬぬ……)


 それでも、勇気を振り絞り声の方を見ると……


「……」


 そこには真顔があった。


 真顔というか、こちらに気づいていない素の状態の顔。

 こちらが勇気を振り絞ってる間にひとしきり笑い終わったらしく、見た時にはすっかり真顔に戻っていた。


(……)


 ガッツリ視線を送るも、反応はなく……むしろこっちを見向きもしない。


(え……?)


 おかしい。いつもなら、すぐ何かしら反応してくるのに。


(えっ、うそ……気づいてない……?)


 もう一度確認のために一旦前を向いて……その後また、わざとらしく彼の方を向いて強く視線を送ってみる。


(あれ……?)


 反応なし。さっきと変わらず。




「……って、あれ?私……」


(私、なんであの人の事気にしてるんだっけ?)


 この彼は……なんだっけ?

 友達?ただのクラスメイト?あれ?誰だっけ……?


 でも、無意識に下の名前で呼んだって事は仲良かったって事だよね?


 なんか彼との間に何か色々あったような気がするんだけど……記憶にモヤがかかってて、うまく思い出せない。


(う〜ん、おっかし〜な……なんだっけな……)




「……足」

「あ“?」

「だから、足」


 さっきの彼に突っかかってくる声……秋水だ。


(あっ、また……下の名前)


 私、仲良かった……の?この人とも?


(……)


 この人も……知らない。何も覚えてない。


 駄目だ、頑張って思い出そうとしたけど……やっぱり全然記憶にない。


「なんだよ神澤」

「ふん、相変わらずだね早乙女」

「は?何が?」

「さっきから人の足踏んどいて、それ?」




「あ、あの〜!撮影もうすぐ終わるからね!お喋りちょっとタンマね!」


「「……」」


「すぐだから!ほんとすぐ!ちゃちゃっとやっちゃうからね〜!」


 喧嘩が始まりそうな雰囲気に、気を遣ってくれてる……

 ほんとにごめんなさい。







(ん?)


 カメラの前に並びながら、なんとなく視線を感じて横を向く。


 早くしろと言いたげな他のクラスの皆さんの視線が……刺さる刺さる。

 そりゃあね、待ちぼうけ食らってるんだもんね。


(あ……)


 待ってる人達の中に見知った顔があった。

 誰だっけ……ほら、青い髪の……


(青い、髪の……)


 そう、あの彼は……彼の名前は……




(……誰だ?)


 やっぱり駄目。思い出せない。


(この人もだ。何か知ってるような気がするんだけど……)


 あっ、その隣の黄色い髪の人も……見た事あるような……


(う〜ん、でもやっぱり駄目……)


 知ってるような気がすごいするんだけど……なんでだか全然思い出せない。


(え、え……なんで?!なんで出てこないの?!なんで忘れてるの?!)


 せっかく最後の日、大切な卒業式。


 今までお世話になった世界の人、せめて最後にお礼くらいは言いたかったのに……


(記憶が全然思い出せない……!私の、これまでの記憶がなくなってる……!)


 無理矢理思い出そうとしても、本当に何にも出てこない……


(そんな……!)







 もう駄目だと諦めかけ、何気なく上を向くと……ふわふわと光の粒が落ちてきた。


 まるで真珠のような、小さくて淡く金色に輝く球。


(えっ、雨?雪……は季節じゃないもんね?)


 それが何かは分からないけど……なんだか柔らかそうだと思った。反射的に。

 なぜかは分からないけど。


 ふわりふわりと落ちてくるそれを、これまたなぜか私の両手は勝手に受け取っていた。


(……?)


 そっと静かに落ちてきたそれは……

 手に触れるなり、雪のようにじんわりと溶けていって……




(え?)


 なんだろう、塊が溶け出すにつれて急にかつての記憶が頭の中に流れ込んできて……


 連チャンでデートしたり、他愛ない話したり……

 攻略キャラ同士かち合ってヒヤヒヤしたり……


(そんなことも、あったっけな……)




 そうだ、そうそう。

 やっと出た。彼らの名前は……


(歩君、唯、いっちーに、秋水……だ)


 みんな……ごめんね。

 みんなの力になりたいって思っていながら、こんな中途半端にいなくなるなんて……


 もっと支えてあげたかったり、やってあげたかったり、逆に謝りたかったり……

 色々と思うところはあるけど……もう終わっちゃった。


 でも、もう……大丈夫だよね?きっと。


 みんなもう、迷ってない。

 私っていうただのキッカケから……自分で考えて、自分らしくまっすぐ進んでる。

 だからもう、私の助けなんていらない。


 そういうお前はどうなんだ?って……そう言われちゃったら、何も言い返せないな。


 私だけ、なんにも変わってない。ただ、彼らの成長ぶりをぼーっと見てただけ。


 でも、彼らのおかげか分からないけど……私もなんか、頑張りたくなってきた。


 何か頑張ってる時のどこか楽しそうな感じを見て……私もそんなふうになりたいなって。

 だから、何か始めてみたいなって。


 本来の世界に戻ったら私……ちょっと何か、挑戦してみようと思う。

 まだその何かは決まってないけど、でも絶対やる。そう、決めたんだ。


 それも含めて、この世界には……いや、彼らには本当にお世話になった。


(みんな、今までほんとに……ありがとう……!)







 言い終わると同時に、謎の塊はフッと消えた。


(……あれ?!)


 と、一緒にまた記憶が思い出せなくなって。


(あ……あれ?!あれあれ?!)


 さっきまで、名前も顔もちゃんとはっきり思い出せてたのに……

 また出てこなくなっちゃった……


(で、結局誰だっけ……う〜ん)



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