32-1.卒業式
再び目覚めたら、卒業式だった。
今回はすぐ分かった。
だって、すぐ側に第◯回◯◯高等学校卒業式って看板立ってるんだもん。
高校生活の終わりの儀式、卒業式。
ある意味一生に一度のビッグイベントの一つな訳でだけど……案外、当日を迎えてみるとなんだかあっさりしていた。
一緒にいる時間が少なかったからってのもあるんだろうけど。時間飛び飛びで短縮して過ごしてたからね。
もうすっかり忘れちゃったけど、私の卒業式も……きっとこんな感じだったのかな。
感極まって泣いちゃう子に、最後までふざけて笑いをとる奴、逆に珍しく真面目な顔してる奴……
(みんな……!卒業、おめでとう……!)
そんな事言うつもり全くなかったのに、心が勝手に言葉を紡いでいく。
ほんとは彼らのことなんてほとんど何も知らないのに。
ほとんどみんなモブで、関わったことなんて一切ないキャラばっかりなのに……この場の空気感に思わずなんだか心が揺さぶられて、言葉が勝手に漏れ出ていった。
(……)
卒業式って……すごいな。
大人になってもう一度参加してみて、改めてそう思った。
ただの式典といえばそうなんだけど……
なんか今までの努力を讃えるような、これまでの楽しかった記憶を思い出させるような、苦しかった事や頑張った事を労うような……そんな、柔らかくて爽やかな空気が流れている。
この場にいるだけで、なんだか妙に目が潤んで仕方ない。
けど……悲しいのかと言われるとまた違って。
今泣いてる子達だってきっと、悲しくて泣いてるんじゃない。
これは違う……新たな旅立ちに怯え、そしてこの場の仲間達との別れを惜しむ……そんな涙だ。
勝手な想像だけど、そんな気がする。
身の回りの世界がこれから新しくなる事に対する、ドキドキ。
自分達が次へ……次の見えない何かへ進むことに対する興奮と恐怖が溢れちゃってるんだ。
(次の世界へ……いってらっしゃい、みんな!)
この先きっと楽しい事たっくさんあるぞ!今までできなかった事、知らなかった事、ほんとにいっぱい!
とことん楽しむんだぞ!
あ、でも警察のお世話にはなるなよ〜!
(……ふぅ)
卒業式の独特な空気につられて普段なら絶対言わないようなセリフ言っちゃった。まるで別人みたい。
まぁ、全くの嘘って訳でもないんだけどね。一応本心なんだけども。
「はい!じゃあ三年生、写真撮るよ!中庭に並んで〜!」
(えっ?!)
いつの間にかカメラマンらしきおじさんが三脚抱えて目の前に立っていた。
(い、いつの間に……!)
気配も足音もなく近づくなんて……いや、冷静に考えて周りがうるさいだけか。
「はいは〜い!ほら、中庭だよ!中庭に集合〜!」
両手を大きく振り、目一杯声を張り上げてるけど……
みんな最後の時間を過ごすのに夢中でそれどころじゃない……
「お〜い!みんな〜聞いてる?!」
「集合だよ〜!集合!」
「写真撮らないの〜?!お〜い!」
多分これ聞こえてるの私だけ……頑張れおっさん。
その後、中庭に全員揃ったのはなんとそれから20分……
いや、もっとかもしれない……ともかく、そんな後の事だった。
みんなかなり興奮状態で人の話聞かないもんだから……ただ一箇所に集めるだけでも一苦労だ。
(カメラマンのおっさんの忍耐力よ……)
こんな状況下で笑ってられるの、普通にすごい。
「うん!よし、これで全員並べたかな!」
どうやらクラスごとで並んで記念撮影するらしい。そんな雰囲気。
「あ〜……ごめん!列の両端の子、もうちょい真ん中寄って!」
そして、唐突に微調整祭りが始まった。
何も学校に限った話じゃないけど、大人数の撮影あるある。
(まぁ、これだけ人数いればなぁ……)
「ああっ!行き過ぎ〜!……あ、そうそう!その辺!」
「一歩右〜!あっ、前出ないで!」
これを全クラス分……大変だ……
「そこのメガネの子、もうちょっと右かな!」
「いや、誰だよ!」
みんなを代表して誰かが即答してくれた。
「「「あははははははは……!」」」
まさにドッ、ワハハ状態。
辺りが笑いの渦に包まれていく。
「ふふっ!」
おっさんには悪いけど、これは笑うしかない。
だって、このクラスのほとんどメガネなんだもん。パッと見で分かるくらい露骨に。
「え〜、じゃあ言い方変えて……赤いフレームの……」
「五人いま〜す!」
「ええっ?!このクラス、そんないるの?!」
再び一斉に大爆笑。
これが最後だと言うのもあるのかもしれない。
大した事ないはずなのに、今日はなんだか妙に笑えて仕方なかった。