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その差、一回り以上  作者: あさぎ
終わりへ向かっていく
172/188

30-3.嫌な感じ

 


(変わる事は悪い事……)


 なんだか、胸騒ぎがする。

 今のは肯定するべきじゃなかったんじゃないかって。


 だからって、でも今ここで反論したってきっと説得できない……

 なんとなく違う気がするってだけで、なんの根拠もないから。


 だけど……そうだとはいえこのまま行ったら何か悪い事が起きる、そんな気がして……


(……)




 なんだか落ち着かなくて、コップに残ったココアを一気に飲み干す。


「ぷはぁっ……!」

「おお〜、いい飲みっぷり」


(飲みっぷり?)


 口の周りにココアべっとりついてただろうけど、いつものような『汚なっ!』とかそういったリアクションはなかった。


 というか、むしろなぜか褒められてしまった。


(……?)


「おいしかったな、ココア。めっちゃ濃厚でココアの味がしっかりしてた」

「あ〜……うん」

「屋台だからって舐めてたわ俺。もっと水っぽくてうっすいのかと思ってた」

「う……うん」

「なんだよその微妙なリアクション」

「いや……そこまで褒めるなんて珍しいなって思って」

「いいじゃん、おいしかったんだからさ」


 屋台のココアまで褒め出すとか……普段とテンションがまるで違う。

 どうやら相当ご機嫌のようだ。




 心のざわつきを誤魔化そうと、ココアをまた飲もうとしたけど……


(あ、空っぽ……)


「もう無いって。今さっき飲み干したばっかだろ?」

「あはは……うっかりしてたわ」

「超うまかったもんな。無限に飲めるよなアレ」

「そ、そうだね」




 バサバサバサ!


「うわっ?!」「うおっ?!」


 私達のすぐ脇で、なにやらいきなり羽ばたく音が。


 音の方に振り向くのとほぼ同時に、白い鳩が一羽どこかへ飛び去っていった。


 それまで全然気づいてなかったけど、ついさっきまで足元近くにいたらしい。




「今の見た?!超真っ白!綺麗過ぎて作り物かと思った!」


 とうとう鳩まで褒め出す始末。


「そうだね、綺麗な鳩だったね」

「あんなのテレビでしか見た事ないよ俺!やば!」


 確かに突然過ぎてあんまりよく見えなかったけど、羽の先まで綺麗に真っ白な鳩だった。


 鳩といえばグレーだったり黒とか白の模様が入ってたりとかするけど……白い部分が多いとかじゃなくて本当に隅から隅まで純白、真っ白だった。


「なんだろ、突然変異かな?」


 目の色まで見れなかったけど、もしかしたらアルビノなのかも。


「え?そういう種類じゃねぇの?マジックとかで使うやつ……」

「あ〜そっか。あれか」


 あの帽子とかから飛び出てくるやつ。


「そうそう。それにさ……だって、アルビノだとしたら可哀想だろ?」

「可哀想?」

「だってさ、運悪く『変わってしまった』可哀想な奴って事じゃん?」


 ああ、また『変わる』話……


(良いか悪いかはさておき、本当に嫌いなんだなぁ)


「そう……だね」

「だろだろ〜?」


 頷く私に、とても満足そうな彼。


「……あ!」

「え?」

「でもよく考えたら、白い鳩ってさ」

「うん」

「なんか……神社っぽくて良いな」

「へ?」

「ほら、縁起が良いって言うじゃん」

「ああ……確かに。じゃあ、この後良いことあるかなぁ」


 確かにそうかも、今のは新年早々良いスタートかもしれない。


 白い鳩、平和とか幸運の象徴って言うし。

 あとほら、神様の使いとか……




(神様の……使い……?)


 神様って……まさか。あの、神様……?


「……」

「なんだよもう、すぐ黙る〜」


 監視つけてるって……まさか、これの事?


(いやいや、こんな分かりやすく?こんな堂々やる?)




「そんな、さっきの場所ガン見したって……いねぇよ、鳩」


 突然黙り込んだ理由が、またなんか勝手に出来上がっていた。

 そんなつもりはなかったけど、ありがたく便乗しておく。


「あはは、駄目か〜。もう一度くらい拝めないかなって思ったんだけどなぁ」

「ほんと、がめつい奴」

「それより……おみくじ行かない?」


 だって、大吉のチャンス到来って訳じゃん?


 そんなんやるしかないじゃん?

 ビッグウェーブに乗るしかないじゃん?アゼルバイジャン?


「良いのか?それで今年分の運使い果たすかもしれねぇぜ?」

「うっ……!」


 た、確かに……!


「やっぱやめとこ!」

「判断クソ早っ」







 ふわり、と目の前に白い何かが落ちてきた。


(あ、またこれ……)


「どうした静……あ?なんだこれ」

「羽……かな?」

「羽ぇ?」

「うん、もしかしたらさっきの鳩の……」


 歩君はその場にしゃがむと、まだ地面に届かずふわふわと漂うそれを片手で摘み上げた。


「お〜。ほんとに真っ白だ」

「わ、キレ〜」


 日の光を受けて銀色にキラキラ光るそれは……場所のせいか、なんとも神々しく見えた。




「……痛っ?!」


 ふわっと宙に放り出されたその羽根。


「早乙女君?!」

「なんか……なんか刺さったんだけど?!」

「刺さった……えっ、何?棘?」


(羽に……棘?)


 別に何もしてない。彼はただ摘んで持っていただけ……


「ってぇ〜。ああ、びっくりした〜」


 脱力した手のひらを下に向け、しきりに振っている。結構痛そう。


「え、大丈夫?」

「ああ、今は大丈夫。なんだったんだありゃ」

「何があったの?」

「急になんかビリって来たんだ。まじ痛かったわ〜、電気でも流れてんのかと思った」

「なんだろ、なんかのおふざけグッズかな?」


 罰ゲーム用の、あのビリビリ系おもちゃとか。


(でも、羽って……珍しいなぁ)


 あ、ここで意識がふわふわと……

 終わりのあの感じが来てる……




「分かんねぇけど……なんか、不吉だな。幸運と不運が同時に来るとか……」

「そうだね……」

「さっさと帰ろっか。これ以上変な事が起きないように……」


(あ……)


 また羽が一枚、ひらひらとどこかから飛んできた。


「せっかく乗りに乗ってる運気がさ……」


 しばらく空中を漂っていた羽は、やがて彼の手の甲の上に……


「これ以上『変わらない』ように……痛っ!」


 すごい勢いで振り落とされ、またその一枚もふわふわと宙を舞う。


(また……)


 今ので確信した。これは多分……




「なんだよこれ!ほんと腹立つ!」

「……」

「なんかのイタズラか?!こんなもん!」


 理不尽で唐突な痛み。

 怒りと疑問でいっぱいの彼は、それを再度手に取ろうとしている……不信感を解決するために。


「早乙女君!」

「え?」


 ならば、触っちゃ駄目だ。


 また触れたらきっと……罰しようとしてくる。さっきの発言に対して。

 きっと彼を痛めつけ、反省を促そうとしてくる……


「それ、触っちゃ駄目」

「何が?」


 ああ、私の言葉を無視して……その手が下へ……


「だ……駄目!早乙女君、それは……!」


(あっ)




 彼がもう一度羽に触れると同時に、私の意識は途切れた。



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