4-1.全然余裕(余裕があるとは言ってない)
目覚めたら、またパジャマだった。
(またこの時間。なんだろ、今度は……)
スマホ片手にぼーっとベッドの上に腰掛けて、その時を待つ。
もしかして、またあの爺さん(※神)かな?
実はまだ言い残したことがあったとか?
『すまん!実はまだもう一つ言い忘れておった!』って?
あの人(あの神?)なら言いそう……
かといって、待ってるのも暇なんだよな……ほんとに何もないから。
暇過ぎて携帯弄ろうにも、攻略キャラに連絡する機能しかついてないし。ネットも他のアプリも何もない。
だからってテレビつけても、イベント会話の話題用なのかずっとドラマの同じ話しかやってない。
それじゃあって棚の本を読もうとすれば、背表紙だけで中身が無い。ただの背景用のハリボテ。
いかにもゲーム内って感じで、最初こそ面白がってたんだけど……さすがにもうそろそろ飽きてきちゃって。
(う〜ん、参ったな……)
もういっそ、寝る?ふて寝しちゃう?
爆睡しててもどうせイベント来たら強制的に起こされるだろうし、ちょっとくらい……いいよね?
「それじゃ、しばらくおやすみなさ〜い……」
そう思ってベッドに横になろうとしたまさにその瞬間、いきなり携帯が鳴った。
「うおわっ?!」
不意打ちに思わず飛び跳ねてしまい、ベッドがギギィッと悲鳴を上げる。
「ええっと、誰だろ……?」
画面に表示された名前は……『早乙女 歩』。
(お、歩君だ)
出ると、目が覚めるような活発な声が聞こえてくる。
『もしもし、七崎?あのさ……日曜、空いてる?』
「えっ、どうしたの急に?」
『今流行ってる、鴉の戸開けって映画。いつだったかお前、見たいって言ってただろ?CMめっちゃやってるし、俺も前からちょっと気になってて……一緒に見に行かない?』
おお、ストレートなデートのお誘い。
普通に嬉しい。
(嬉しいけど、だけど……)
「う〜ん……」
『……?七崎?』
いまいち素直に喜べないのには理由があった。
(好感度、そろそろやばいよな……?)
多分今、結構やばいとこまで来てる。
ほら、前にも結婚がどうとか言い出したくらいだし……相当溜まってきてるはず。
(……)
そもそも、最初から他四人に比べて彼だけ異様に好感度が高くて。
設定としては、幼い頃の初恋がそのまま長年熟成された結果という事らしいけど……
ただでさえ好感度やばくて、さらにあの重い性格だなんて……告白まで秒読みレベル。
むしろ、誘われて行ったその場で告白されてもおかしくないくらいだ。
乙女ゲームとして普通にやる分にはいいんだろうけど……『迷い人探し』という名の推理ゲームをやらされてる身にとっては、悩みの種だった。
彼がその『迷い人』だって確証はまだ全然ないし……それに、こんな序盤でいきなり一人に狙いを絞る訳にはいかないし。
(でもなぁ……)
ここで断ったら断ったで、それはそれでめちゃくちゃ凹むんだろうなぁ。
想いが強い分、ショックもでかい。
あそこまで本気で想ってくれてるっていうのに、それはそれでなんだか心が痛むっていうか……
う〜ん、悩ましい。
(ここはあえて断っておくべきか……いや、でもなぁ……)
う〜ん、う〜ん……
悩みに悩んで結局……
『……おい、七崎!』
「ごめんごめん、ちょっと考え事してて」
『人が話してんのに何ぼ〜っとしてんだよ!』
「あはは、ごめんって」
『ったく……で、結局どうなんだ?』
ううう……また究極の選択……!
「え、えっと……い、行こう、か……」
『本当か?!』
電話越しだけど、彼の目が輝いているのが見えた。
そりゃもう、はっきりと。
『良かった!じゃあ……日曜、駅で待ち合わせな!』
「うん、オッケー」
『それじゃ、おやすみ』
「は〜い、おやすみなさ〜い」
……
…………
(や、やっちまった〜……!)
『おやすみなさ〜い⭐︎』じゃないよ!何してんだ私〜!
これじゃまた好感度上がっちゃうよ〜!
ただでさえ危ないキャラなのに、さらに自分の首絞めるような事しちゃったよ〜!
わ〜ん!私の馬鹿!押しに弱すぎる〜!
で、でも……それっぽい事は言ってきても、まだ肝心の告白はされてない訳だし!
まだまだ余裕余裕!全然、余裕!そう、余裕……
(……)
余裕、だよね……?