29-1.高校最後のクリスマス
石膏像、軽い気持ちで検索してみたらめっちゃ種類豊富な上に全部名前ついてて草。
「……ついて来い」
いきなり目の前にいっちー。
もう早速、なんか背中を向けてどこかへ案内してくれようとしてるけど……
「え?え?えっ?」
「なんだ?」
「いや……え?今これどんな状況?」
「分かってなかったのか?」
「うん」
さっぱり。
「もう放課後、帰る時間だというのに……無駄に居残りしていたじゃないか。女子数人でケーキやら菓子やら持ち寄って、クリスマスパーティーとかなんとか言って……」
え?むしろ駄目なのそれ?
「良いじゃん、普通に」
「駄目だ」
「え〜」
「俺以外の生徒会メンバーが注意しても完全無視、それどころかそのメンバーにも菓子分け与えて丸め込む始末……とんでもない」
「ほんとに駄目?」
「駄目なものは駄目だ」
え〜。それくらいいいじゃん。
「長時間の居残りに、菓子の持ち込み。しかも、ケーキだなんて完全に遊び目的……むしろ駄目な要素しかないが?」
「駄目かぁ」
「駄目だ」
「でもじゃあ……他の人は?」
それなら、他の女子もこの場に一緒にいてもいいはず。
なのになぜか、今教室にいるのは私とこの彼の二人だけで。
「他、は……」
苦虫を噛み潰したような顔。今、まさにそれ。
「……逃げられた」
「あらま」
あちゃ〜、捕まんなかったか。
「七崎を追うのに夢中になっていたら、いつの間にいなくなっていた」
「あら残念」
「まったく、逃げ足の速い奴らめ……」
「私足遅い方だし、他の人狙った方が良かったかもよ?」
「確かに……」
「他の子捕まえてからでも、捕まる自信あるよ私」
「それはそれでどうなんだ……ある意味すごいけど」
もっと褒めてくれてもいいのよ?
「しかし……七崎だけは逃すまいと必死になっていたら、本当に言葉通り君だけになってしまったな」
「……?」
「偶然二人きりになってしまった訳だが……これはこれで、結果的に良かったのかもしれない」
ん?なんかいつもと雰囲気違うぞ?
「その……ちょっと、ついてきてくれないか……?」
なんだかやたら溜めるような、変な言い方。
「いいけど……?あれ、指導って事?」
「それもあるが……ともかく、ついてきてほしい」
なんだろう、変なの。
彼の後をついていく事数分。
埃っぽくて薄暗い部屋……もとい、倉庫に到着した。
(わ〜。初めて入った、ここ……)
ここは通称『説教部屋』。生徒会室の奥にある狭い倉庫だ。
「し、失礼しま〜す……」
「誰もいないから不要だ」
アッハイ。
だってここ来るのほんとに初めてなんだもん……
「すまないが、奥までついて来てほしい」
「奥?」
「説明は後でする」
「い、いいけど……」
入り口入るなり、まだ奥にスタスタ進んでいく彼の背中を必死に追いかけていく。
部屋はラーメン屋みたいに奥に細長く広がっているタイプで、さらに壁沿いに棚が並んでるせいで余計に狭まって人一人ギリギリ通れるかってくらい。
狭過ぎぃ。
コン⭐︎
「あっ、やべ」
そんな狭い部屋だから、体の向きがほんのちょっとズレただけで、これだ。
ゆっくり歩いてたのに、すぐ側にあった石膏像に肩をぶつけてしまった。
(ごめんよ、ダビデ君……)
多分名前違うけど。
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと石膏像にぶつかっちゃってさ……」
「えっ?!」
急にギョッとした顔になったから、慌てて付け加える。
「別に、割れたりとかはしてないんだけど……」
「割れてない?」
「うん……」
「なら良かった。破片で怪我したら……と思って」
「優しいね」
あ、ほっぺたがうっすらピンクに……あらあら。あらあらあら。
「……とはいえ、ここにあると危ないな。後で俺が片付けておこう」
「ってか、なんでこんなとこに石膏像が?」
「美術室で模写用のテニスボール投げて遊んでいた奴がいて……そのせいでヒビが入って、しばらく修理していたんだ」
「ヒビ……修理……」
あっぶね〜〜〜!!!
脆いって事じゃんそれ!
もう一回割るとこだったよ私!危ねぇ!
「すまん、用があるのはもう少し奥なんだ。注意してついてきてくれ」
「は〜い。結構狭いんだねここ」
「元は部屋が一つだったからな」
「あ、そうなの?」
「後々倉庫が必要になって、無理矢理分けたんだそうだ。だいぶ昔の話らしいが」
クソ狭倉庫誕生秘話が聞けてしまった。この情報、いる?




