表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その差、一回り以上  作者: あさぎ
終わりへ向かっていく
167/188

28-3.結局誰だったんだ

 


 さっきから心臓の辺りが変にゾワゾワしている。


 そこまで危険信号というほどじゃないけど……

 なんか得体の知れないなにかを見ているような、そんな気味悪さ……


「そうですね、やめておきましょう。理解できないもの話をするのは、精神に大きな負荷がかかりますから」

「……」

「またここであなたの精神負荷が限界値を超えてしまったら、帰還が難しくなってしまいますから。ここはやめておく事にします」

「……」

「ともかく、私が……我々が言いたいのは……あなたのこれまでの行いは正しかったという事」

「は、はぁ……」


 そうですか。

 何やら褒められてるらしい。よく分かんないけど。


「そしてこの紙は……それをあなたに伝えるためのもの……」

「何もしてないけどな、私」

「ええ。ですが、むしろそれが正解だったという訳です」


(な〜んかこれ、前にも同じ話聞いたぞ?)


 そんなに大事な事なのかな、それ。

 たまたま褒めてくれただけかと思ってたけど……


 こう何度も言われると……う〜ん。


「それで?」

「と言いますと?」

「あなた、何が言いたいの?ただ『お疲れ様』ってだけじゃないでしょ?」


 日がだんだん暮れてきて、床の影がだいぶ伸びてきていた。


 椅子に机、そして私とこの先生の二人分の影が……




(ん?)


 あれ?この影、誰のだ?


 私と向き合って座る、長髪の人の影。


 座ってても分かるようなボリューム感の、腰の辺りまであるさらさらのストレートヘア……

 でも、実際目の前にいるのは頭が涼しげなお爺ちゃん。


 位置的にも見た目的にも、これは私じゃないし……

 そもそも先生は……何度も言うけど髪の毛が……だし、何かと重なって見えてるとか?


(でもそんな物周りに無いし、そうには見えないけど……)




「流石、察しが良い……そうです。一つだけ注意というか、忠告がありまして」

「忠告?」

「彼らの背中には、あまり触れないでいただきたい」


 背中?


「え、いや……もう結構触っちゃってない?唯とか……」

「厳密にいうともっと上の方……肩甲骨の辺り」

「肩甲骨……でも、これなんの忠告?」

「そこに、傷跡があるのです。人間の姿に変える際にできた、大きな傷が……」

「傷……」


 あれ……?

 なんかどっかで、肩甲骨の話をしたような……?あれ?


「おそらくもうほぼ治りかけている……触れても痛む事はないでしょう。しかし、刺激を与える事で記憶を取り戻してしまう可能性があるのです」

「記憶?」

「今は贖罪に集中させるために、今の姿になる前の彼らの記憶を封じている……でも、その出来事と関連する箇所に触れることで、何か思い出してしまう危険性がある」

「……」

「もしそこでまた、その……『悪い行い』をしてしまったら……その者の合格は取り消され、今の生活をもう一周やらねばならなくなってしまうのです」


『悪い行い』と言う前に一瞬口籠ると言うか、躊躇っているのが見えた。

 あんまり人に言えないような事なのかな。


「……なので、可能性な限り避けていただきたい」

「ええ〜、なんで今更そんな事……たくさん触っちゃったよもう」

「少しならいいのです、少しだけなら」


 めっちゃアバウトな。

 いや、少しって。どのくらいだよ。


「うっかり触れてしまった程度なら、セーフ。問題はありません」

「なんだそれ」

「普通に生活している分には問題ないはずです。自分から触ろうとしない限りは」

「よく分かんないけど、とにかくベタベタ触らないようにしろって事?」

「あなたは関係ないと言ってしまえばそうですが、彼らのためにも……どうかご協力ください」

「……わ、分かったよ」


 彼らのためって言われて断れない女、七崎。

 だ、だって〜……




(ん?)


 また視界の端に白い物が。


(なにあれ?羽?)


 でも、瞬きをしたらやっぱり消えた。


(あれ?)


 これもまた、見間違い……?でも二回も?




「これで、今回のイベントは終わりとなります」

「え?歩君達が合格したって伝えに来ただけ?」

「はい、そうです。本来であれば、攻略対象達の成績や進路を確認するイベントですが……我々で書き換えさせていただきました」


 進路かぁ。

 いや、確かにこの世界から出ていく訳だし……今更どうでもいいっちゃどうでもいいけど……


 歩君が卒業できるかだけは知りたかった……かも。


「卒業できますよ」


 だ、か、ら!心の声を勝手に読むなと!


「あなたはもうすぐ本来の世界に帰ってしまう。ですから、進路を知るより結果を知る方が大事かと思いまして」


 そっすか。

 個人的にはそれよりさっきのスピリチュアル的な謎の話が、意味深で気持ち悪いんですが。


「あれは……まぁ、理解できずとも帰還に支障は出ないでしょう」


 だからさぁ!


「ですが……せっかくですし、何か聞きたいことがあればお答えしましょう。何かありますか?」

「聞きたい事?」

「ええ」

「なんでも、なんでも……う〜ん……」


 最後に質問は?って聞かれて思いつかないタイプ、それが私。


「……はは、そんな急に言われてもって感じですね」


 うん、駄目だよ急は。前もって言ってよ。




「そうですか……」

「……」

「さて……では、そろそろ時間も来た事ですし」


 見た目はあの担任の先生そのもの。

 でも、今の話はまるで異世界の住人のよう……


「さぁ、次の話へ行きましょう。帰るのが遅くなってしまいますから」


 あ、視界がぼやけてきた。


 いつもの、終わりの感じ。


「あなたは……あの先生なの?」

「いいえ。少しばかり彼の体を拝借しているだけです」

「って事は、その……中身は別の誰かって事……?」

「おお、よくお分かりで」


 で。


 それは分かったけど。

 分かったんだけど……


(で、結局……誰……?)


「ふふっ。それは秘密です」


 だから!最後まで心の中読むなって!


「ではでは、おやすみなさい」

「そんな……軽い、ノリで……」


 これでもはっきり喋ってるつもりなんだけど、毎度のことながら声が途切れ途切れに……


「軽いノリ?」

「アトラク、ション……の……スタッ、フ……みたいな……」

「ふふっ、最後に面白い事言いますね。あなたは本当に……」

「……」

「おや?意識が完全に飛んでしまいましたか」




「完全な理解は難しいようでしたが……でも、少しでもあなたにお伝えできてよかったです」


「シナリオの変異、自我の芽生え……一時はどうなる事やらと思いましたが、あなたは我々の想定以上にだった」


「あなたと私は別世界の者同士……もうこの先、お会いできる事はきっとないでしょう」


「人間とこうして直接話をするのはもう、何百年ぶりでしょうか……なかなか楽しく有意義な時間を過ごせました、ありがとうございます」


「では、さようなら……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ