28-2.世界の秘密をちょっとだけ
「あなたは、よく頑張ってくれました……この世界のために」
焦り出す私とは反対に……落ち着き払った声、そして態度。
しかし、それすらも私を余計に混乱させるだけで……
「え……え……えっと……?」
「ですから、こんな予想外の好成績で終わる事ができた。感謝してもしきれません」
「予想外?好成績……?」
「ええ。まさかの全員合格だなんて……私達の想定を遥かに超えている……」
「……」
「二人か三人くらい不合格で、また次のやり直しで全員合格。それが我々の想定でした」
「次の、やり直し……?」
(合格?好成績?やり直し?え?え?)
おうむ返しするので精一杯。
頭の中はとっ散らかりまくっている。
一方で、担任のお爺ちゃん……もとい私のことを知ってる誰か……は穏やかに微笑んでる。
(いやいやいや!そんな微笑まれても!意味分かんないって!)
「え……えっと?そもそも、成績って?これ何の話ですか?」
ここまでつられて普通に成績って言っちゃったけど……それ何?
話の流れからしてきっとそれは勉強の事じゃない。
でも……じゃあ、何?なんの成績?
(私の関係するもので、成績……?なんの事?)
「それは……彼ら自身の更生度合いです」
「更生?」
えっ、なになに?
更生って……なんか悪い事したの、あの人ら?
「ええ。彼らはかつて、とても悪い事をしてしまった……それはそれはとんでもない事を……」
(アンタもかいっ!)
しれっと人の頭ん中読む族……それは何もあの爺さんだけに限った話じゃないらしい。
っていうか、その謎パワー使えるって事は……仲間?同族?
「ですから……あながち、その推測は間違っていないかと」
「ちょ、ちょっと!勝手に脳内読まないでください!」
ちょっと!もう、あの爺さんみたいな事して!
(なんなのこの人?!神様なの?!)
「神ではありませんが、私は……ええと、そうですね……あなたの世界でいうところの部下のようなものです」
「部下?」
「上司、つまり神が計画したものを実際に実行に移すのが私の主な役目。色々と調整したり手配したり……それが仕事なのです」
「……」
「そしてなにより、今回のこのプロジェクトの指導者でもあります」
「指導者?!仕切ってたのって、あの爺さんじゃないの?!」
「神はあくまで最終的な責任者というだけで、実際の現場は私が指揮を取っているのです」
「分かったような、分からないような……ええっと、つまり……偉い人……?」
「はは、そうですね。まぁ、偉い方……ですかね」
そう言って苦笑いする先生。
(なんか様子がおかしい……これじゃまるで別人じゃん)
神がどうだの計画がどうだの……常軌を逸したパワーワードばかり、まるで別人だ。
といっても、見た目はいつも通りあのお爺ちゃんで……
(な、何?なんなの、これ……?)
「あなた……誰なんですか?」
「私ですか?」
「見た目は担任の先生だけど……なんか違う。まるで別の人と喋ってるみたいで……」
「別の人……」
不意に瞬きのリズムが崩れた。先生……いや、『目の前の誰か』の。
「……そう、ですね。否定はしません」
(……!やっぱり!)
「で……どなたです?」
「……」
「あなた、一体何者……?」
「……すみません、これ以上は言えません」
「……」
「……」
キッパリそう言い切って、それきり。
「……」
「……」
黙り込んでしまった。完全な拒否。
もう一度、チャンスがあれば何かちょっとでもヒントがないか聞きたいんだけど……
(無理っぽい……かな)
笑顔はそのまま、でもはっきりとした拒絶の空気を纏って口を固く閉ざして……
どう見てもこれ以上話してくれそうにはなかった。
ともかく……この正体不明の誰かさんは、あの爺さんの部下って事らしい。
それも結構偉いポジションの。
それと、もう一つ分かった事は……
歩君達が過去に何か悪い事をしてしまったらしいって事。
でもいつの間にか更生しつつあって、無事合格?した……
私の影響が一体そのどこにあったのか分かんないけど、とりあえずなんかうまくいったらしい。
(な……なるほど???)
とりあえずそこまでは分かったけど、頭がまだ色々追いついてない……
(更生って?合格?そもそも悪い事って……?)
「あ……『とんでもない事』って言わなかった?さっき」
混乱し過ぎて、敬語を使うとかそういう考えはもう完全になくなってしまっていた。
「はい。言いました」
「えっ、え……?そんなまずい事しちゃったの?」
「ええ」
ええ。って……
「犯罪って事?でも……どう見てもただの生徒だし、そんな悪い人には見え「見た目に囚われてはいけません」
被せんな!
「人間はすぐ、その見た目に囚われてしまう。それが人間の面白いところでもありますが、悪い面でもある」
「えっと?つまり?」
「見た目は彼ら自身とは別、ゲームのシステムとしての仮の体……」
「……はい?」
「あれは、わざとゲームに合わせて人間の形に変えたのであって……彼ら自身の本来の姿ではない。故あって、人間の身に堕とされた者達なのです」
オカルト?スピリチュアル?宗教?
大丈夫?この人、なんかやばいのキマってない?
「人間のあなたには……なかなか難しい概念でしょうね」
だから勝手に読むなって!そして憐れむな!
「この世界、もといこのゲームは……我々が創ったものであり、罪を負った者達の贖罪のための箱庭でもある……」
箱庭?贖罪?
「そうですね……罪人のための牢獄といいますか、刑務所みたいなものとでも言えば分かりますでしょうか……」
刑務所?
説明が色々ぶっ飛び過ぎて、おうむ返しすらできなくなってきていた。
脳内で単語を拾うので精一杯。
「彼らは贖罪のためにあえて人間の姿で生活しているのです。かつての行いを心から反省するために」
「え?え?な、なん……どういう事?」
あの彼らが贖罪?なんの罪もないのに?
あえて人間の姿をしてる?人間なのに?
彼らは普通の……といってもゲームとしての、だけど……でも普通の高校生。普通の人。
決して人外とか化け物とかじゃないし、罪人とかそんなのでもない。
そもそも、ここはこの人達が創った箱庭なんかじゃないし。
これはあくまでゲーム、現実世界でメーカーの人が作った商品であって刑務所でもなんでもない。
ただの創作の物語で、そういう娯楽。
(何言ってんだろ、この人……)
「おや、腑に落ちないご様子……もう一度ご説明しましょうか?」
「だ……だって、おかしいよ。言ってる事、間違ってるって……」
「間違っている?」
「みんな人間だし、ここはゲーム世界の中。言ってる事全然違うよ」
皺まみれで重そうな目が、この瞬間まんまるになった。
「あなたは……間違った事を言ってる」
私の言葉を受けて、丸くなった目がまた元に戻っていく。
「……そう、ですか」
そして、困ったように眉を下げ苦笑い。
「そうですね……この話は、この辺で終わりにしましょうか」
今、この人はどんな気持ちなんだろう。
この人……なんだかもはや人間じゃない感じがして……いや、きっと多分人間じゃない。
感情も思考もまるで想像がつかない。
(……)




