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その差、一回り以上  作者: あさぎ
終わりへ向かっていく
162/188

26-2.肩甲骨

 


「ははっ、静音でも流石にそんな顔になるんだ。寂しい?」

「うん……」


 という事にしておく。


「でも、そうだよな……本当に、もうすぐ卒業なんだな……」


 でも、今の何か悩んでるような雰囲気……雰囲気というか、実際悩んでるんだけど……が、うまいこと彼を騙してくれたようだ。


「本当の本当に、あっという間だったな……」

「そうね……」

「極度の人間嫌いだったのにな、僕」

「あれ?もしかして……」

「いや、他の人間なんて大嫌いだ……」

「……」

「でも……」

「寂しい?」

「……」


 ここで不意に言葉が止まった。

 これまで流れるように喋っていたのに、ピタッと。


「……」

「……」


 目をこちらから逸らし、しばらく地面の凹凸を目でなぞり……


「……」

「……」


 そして、またこちらを見た。


「……そう、だな。まぁ……そうとも取れるな」


 その言い方……

 私が寂しいのは良くて、自分が寂しいのは認めたくないんかい。


(らしいと言えばらしいけど……)


「だけど……僕がそんな風に感じるなんて、思いもしなかった。こんな、考えがまるっきり変わるなんて……」


(『変わる』……)


 どこかで聞いた事があるフレーズ。

 なんか、これまでもそうだったけど総集編というか話がまとめに入ってきてる感すごいな?




「君に会って、僕は……変わってしまった」

「……!」


(おおっとぉ?!)


 いや、いいんだ。今はもう告白回避しなくていいんだった。

 思わず身構えちゃったよ。


「まさかこの自分が寂しいって感じるなんて……それもこんな、胸がいっぱいになるほどなんて……思ってもいなかったよ」


 告白じゃなかった。違かった。

 雰囲気紛らわしいけど、今はそうじゃないらしい。


 別に告白来ても問題はないけど、心の準備がね……?




「クラスのみんなと別れるの、そんなに寂しい?」

「いや、それは別にいい。むしろいなくなって欲しい」


 ひっど。クラスのみんな、泣いちゃうよ?


「あれ、違うの?じゃ、誰だろ……」

「べ、別に誰だっていいだろ!」

「う〜ん……私の知ってる人?」

「う、うるさいっ!」

「でもきっと、同じ学校の人だよね?」

「……」


 彼の視線はいつの間にか私から外れ、私の顔通り越してどこか先の地面を見つめている。


(それって、つまり……)


 考えるより先に口角が上がっていく。


「何その顔」

「むふふ」

「な……なんだよ。別に誰とは言ってないだろ」


 言わなくてもバレバレなんだよな〜、それが。

 これを可愛いと言わずしてなんと言う。


「おい、何ニヤニヤしてんだよ」




 ここで急にピタッと彼の動きが止まった。


 いや、そこまで動き回ってたって訳じゃないけど……なんだか『彼としての動き』が止まってしまった感じ。


 例えるなら、彼にそっくり似せた人形。

 本人から急にその人形にすり替わったかのような、すごく似てるけどなんか違う感じ。


 なんか、ピタッという擬音がしっくりくる感じの不自然な止まり方……いや、変わり方?……をしている。


「……?あれ?」

「……」


 瞬きはしてるけど、体の軸が一ミリもブレない。

 普通なら僅かにずれてもいいものを、全く動かず。


 ちゃんと呼吸はしてて肩も上下してるけど、見えない何かに固定されてるかのような、なんだか不自然な動き。


「神澤君?お〜い、お〜いってば」

「……」

「もしも〜し?」


(これって、もしかして……!)


 可能性を確信に変えるべく、彼の髪をそっと触ってみる。


「……な、何……?」


 もしかしたりした。


 嫌がる顔に反して嬉しそうな声、ピンク色の頬……これは……アレだ。

 そう、久々の……アレだ。


(お触りタイムぅぅ〜!フゥー!)


 テンション爆上がり〜!フゥー!




(じゃ、じゃあじゃあ!早速!)


 まずは手始めに……手のひらでほっぺたさすって〜。


「……!なん、だよ……!」


 はい、可愛い〜!初手ほっぺた大正解〜!


「や、めろ……っ!」


 やめませ〜ん。可愛いので、やめられませ〜ん。


「くっ……そ……!」


 もにもにしてて気持ち良いってのもある!それはもちろん!


 けど、でも!それ以上に……!

 本当は嬉しいって気持ちが見え隠れどころかモロ見えしてるの、ほんとこれ……!


「離せってば……お、おい……!」


 この世界に来る前に友達が熱く語ってた、アレだよ!アレ!


 つまり、アレがこれだよ!

 嫌がりながらも実はめちゃくちゃ喜んでるや〜つ!


 アレだのこれだの、こそあど言葉ばっかりでめちゃくちゃだけど……つまりは、そうなんだよ!

 そういう事なんだよ……!


 あの時言ってたアレが、今!今のこれなんだよ……!


「ちょっ、やめ……っ!やめろ、って……!」

「やめて……いいの?」

「……」




 ほら〜!

 ほら、やめちゃ駄目じゃ〜ん!


 恥ずかしくて拒否したい気持ちでいっぱいだけど、嬉しくてやめて欲しくない気持ちもあっていまいち強く言えない……そういうとこだよ!


 そうやってすぐ人を沼らせる!

 もうすぐこのゲーム終わるってのに!いけない子……!(?)




「や、やめろってば!ペットじゃないんだから!」

「そう?じゃあ、やめちゃお」

「……」


 目を逸らすだけで、返事はなく。

 でも、気のせいか若干体が近づいてきてる……


 そう、これだよ!これ!

 やめろってワーワー騒ぐくせに、本当は……っていう、この……!この……!


(あ〜!尊い……!)


 尊すぎて溶ける。


 いやもう溶けてたわ。もうとっくに私、液体だったわ(?)




「……」

「あ、ごめんごめん」


 何か言いたげな視線がこっちに……放置してごめん。


(今度はじゃあ、なんだ……?肩揉んでみるとか……?)


「凝ってますねぇ、お客さ〜ん」


 もにもに。もにもに。


 こう言っておいてなんだけど……それほど凝ってないね、君。

 流石高校生。若い。


「は?何してんの?」

「え?肩揉みだよ?」

「何、今更媚び売るつもり?」

「違うけど……なんか嬉しそうだね?」

「嬉しくなんかないし」

「そう?じゃあやめちゃおうかな」

「むぅ……」


 むくれてる……

 あざとい通り越して、リアクションが古くて普通ならドン引きするはずが……めちゃくちゃ可愛いんですが。


(うふふ、うふふふ……)




 じゃあ今度は……

 胸とか頭とかは怒るかもだから……背中を……


「……何してんの?」


 うん、それ私も思った。


「お背中流します的な?」

「なんで僕に聞く?」

「やっぱり背中、広いね」


 めっちゃ広いって訳じゃないけど、それなりに。

 やっぱり女である私と違って、彼もちゃんと逆三角形なんだなって。


「広くはないよ、普通でしょ?」

「いや、私より広いよ。男の人なんだなって感じ」

「……っ!」


 あっ、照れた。


 顔が……真っ赤ってほどじゃないけど、ほんのりピンクに。


(うひひ、せっかくだしもっと触っちゃお)


 触り心地というより、彼のリアクション目当てで。




 さわさわ、さわさわさわ……


(さわさわ……って、ん?)


 なんか今、ボコってした。


 背中のどこか……上から下へスイスイ勢いよく触りまくってたら、どこかに出っ張りがあった。

 できものとかそういう大きさじゃなくって、もっと大きい……硬い骨かなにか、そういった出っ張りが。




「……何?」


 不審そうな顔して、首だけ振り向く秋水。


「ううん、なんでもないよ」

「手、止まってたけど?」

「いやさ、華奢に見えて意外とゴツいんだな〜って」


 嘘じゃないぞ。


「ふ〜ん。ならいいけど」


 ふいっとまた前を向く秋水。

 でもややトーン高めの声が全てを語っていた。




 さわさわ……


(で……さっきのは確か、この辺……)


 さわさわ、さわさわ……


 ボコッ。


(これ……!なんか、ここにある……!)


「そこ……やっぱり気になる?」

「わっ?!」

「なんだよ、びっくりして」


 嫌そうな顔がゆっくりとこちらを向いた。今度もまた首だけで。


「え……気づいてた?」

「そりゃ触られてんだから、分かるよ」

「ところで、『やっぱり』って?」

「いや、僕も気になってたから」

「なんかの怪我の痕?」

「ううん、肩甲骨だよ」


 骨……?


「肩甲骨がさ……人より出っ張ってるんだ、僕」

「へ〜」

「でもね、変なんだ」

「何が?」

「これに気づいたのは、君と出会う少し前……つまり、二年生になる前辺り」

「……」

「でも、こうなった原因が全く思い出せないんだ」

「そうなの?骨が出てきちゃうって、結構な大怪我っぽいけど……」

「怪我、なのかな……?」

「え?違うの?」

「いや……本当に分かんないんだ。怪我なのかどうかすら、分かんない」

「でも、怪我じゃなかったら変じゃない?急にこうなるなんておかしいじゃん?」

「うん、そうなんだよな……多分やっぱり何か怪我したんだろうな、僕」

「……」

「きっと何か、大変な目に遭ったはずなんだけど……考えても考えても、全然思い出せない……」

「私と会う前……って事は、私がなんか関係してたりする……?」

「いや、してないと思う。タイミングが近いってだけで別に」

「そうなんだ……」

「……」


 あっ、なんかまたしんみりしてきちゃった……




「ね……ねぇ、」

「ん?」

「あのさ、も……もう一度、触ってくれない?」


 情けなく下がり切った眉、切なく潤む瞳、モジモジとした態度……


 なんだろうこの背徳感。

 別に全然やらしい事してる訳じゃないのに、なんだこのピンクムード。


「え……い、いいの?」

「触ったら、何か思い出せるかもしれないから」

「いい、けど……」


 彼が前を向いたのを合図に、背中のそれに向かって指を伸ばす。


 健康的で触り心地の良さそうな肌の、その出っ張りに向かって……


(そ〜っ……)




 チカチカ!


「うわっ?!」


 目の前が急に点滅して、思わず叫んでしまった。


 カメラのフラッシュみたく、白くて細かい点滅。

 それも、眩しすぎて目が開かないほどの激しいやつ。


 チカチカチカ!


「な、何?!」


「何が……起……てるの?!」


「な……なの?!」


(あ、意識がフェードアウトしてく……これで終わりって事?)


 今回はなんだか……いつもと違って、無理矢理終わらせたかのような強引な終わり方だった。


(そんなに触っちゃ駄目な場所だったのかな、あの骨)



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