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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
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26-1.線香花火は最後に

 


 今日は8月最後の日。

 間違ってはいないはず、さっきテレビでそう言ってたから。


(……)


 意識が戻ると、自分の部屋にいて。


 しかもなぜかテレビがついていて、目覚めてからずっとどこかの花火大会の映像を見せられている。


 花火大会イベントと思いきや、それに行けなかったパターンまで用意されてるなんて。

 いや、攻略対象を誘わなければ確かにイベントは発生しない訳だけど……


(なんだこれ……)


 なにこれ。なんの時間?これ。

 休憩タイム?そんなのってあり?


(暇……めっちゃ暇……)


 やる事がないとかえって駄目な体になってしまった。


(お、落ち着かない……)




 ヒュー……


(おっ)


 ドドーン!


 おお、また花火が上がった。


(今度は柳みたいな垂れてくるタイプか、へ〜)


 これの前に上がったのは、ババババババ!と火花散らしまくるもっと激しいやつだった。

 個人的にはそっちの方が好きかも。




 ブーッ、ブーッ。


「……うおわっ?!」


 テレビに集中してたら、突然携帯が鳴り出した。

 やっと来たらしい。イベントが。


(しゅ、秋水からだ……)


 花火大会の日、LIMEじゃなくてあえての電話。

 ここから推測できる事は……


 なんだろ、『今から来て』的な?


(考えられるのそれくらいだもんな……)


 やだなぁ、浴衣着て草履で全力疾走はもう勘弁よ?

 前回ので懲りたよ私?




 ブーッ、ブーッ、ブーッ。


 はいはい、諦めて出ますよ〜。


「あ〜、もしもし?」

『あれ?その感じ……まさか今、家?』

「うん」

『え……誰にも誘われなかったの?』


 省略されてるけど、おそらく花火大会の事。


「ま、まぁ……」

『えっ、誰も?』

「そうだけど……」

『そう……』


 そんな悲しい声出さないで……哀れまないで……


『……じゃあ、さ。可哀想だし……うちで花火してやるよ』


 可哀想て。そう言う君も誘われてないじゃん。


『どう?』

「え?じゃ、じゃあ……行く」

『それじゃ、こっちで適当に花火用意して待ってるから』


 なるほど、なるほどね。

 花火のイベントではあるけど……今度は手持ち花火かぁ。


 懐かしい響き……あれやったの最後いつだろう。

 多分、相当小さい頃の……







「うわっ?!」


 電話切ろうとすると、目の前がチカチカっと点滅して……


 眩しくて目を瞑り……また目を開けると、あたり一面緑色に。


「あれ……?」


 大量の花やら観葉植物やらに囲まれて……ここは植物園?

 いや……ここ、見たことある。庭だ。あの誰かさんの庭。


(また来ることになるとは……)




「何キョロキョロしてんだよ」


 秋水の声でハッと我に返った。


「ああ、ごめんごめん……」

「いいから、早く出して?」

「……出すって?」


 はあぁぁ〜と深いため息が辺りに響く。


 どうやら期待に応えられなかったらしい。


「もういい。貸して、それ」

「どれ?……あっ」


 いつの間に私、なんか手に持ってるんですけど。


『わくわくパーティ花火セット』と書かれた紙が入った、透明な袋だ。

 中には細い棒がこれでもかってくらいぎっしり詰まって……


(あっ、これを袋から出してって事?)


「貸してってば」

「あ、あ〜……ごめん、そういう事か。出すわ、出す」

「まったく……ほんと、鈍いんだな」


 今のはごめん。まじで。




 という事で。

 袋から出していって、取りやすいよう適当に地面の上に広げていく。


(えっさ、ほいさ……)


 こうして見ると、色々あるなぁ。

 定番の線香花火に、変色花火、ススキ花火……


 極太……?これなんだっけ、忘れた。

 太いってわざわざ書いてあるくらいだから、きっと火花が相当太いって事なんだろうけど。


(懐かしいなぁ……)


 そんなこんなで一つ一つ懐かしがりながらダラダラと作業していたら……

 全部出し終わる頃には、彼も彼で水の入ったバケツやらチャッカマンやらを用意してくれていて、準備万端だった。


「遅い」

「ごめん!」


 ほんとごめん。

 片付け中にアルバム見入っちゃうタイプで……


「まぁいい……ともかく、これでいけそうかな」

「うん、揃ったね」


 そして、地面に並べた中からお互い適当に一本選んで……


 いざ、着火!


(ファイヤー!!!)




「……え、いきなり線香花火?」


 え、駄目?!


「いいけど……残りまだあるよね?」


 そう言う彼のチョイスはというと、ロケット花火。


「えっ、残り?」

「最後の二本は残しといて、つってんの」

「二本くらいはまだ全然ありそうだけど……なんで?」

「だって、最後にそれやって終わりたいじゃん。静かな感じでさ」

「ああ〜あのちょっと寂しくなる感じ?」

「そうそう」


 へ〜。そういうとこ、結構こだわりあるのね。流石芸術家肌。


 でも、言われてみれば分かるかも。




「あ……終わった」


 と、ここで秋水の一本目終了。

 最初から激しいだけあって、あっという間だった。


「終わった?早いね」

「早いな。昔はもっと長持ちした気がするけど」

「思い出補正じゃん?」

「んな訳あるか」

「あるある、あるって結構……あっ」


 喋ってたら、私の花火の方もなんだか元気がなくなってきた。


 シュボボボボ……


 弱々しい音と、まだ必死に光ろうとするその様子がなんとも哀愁を誘う……


(が、頑張れ……!)


 ジュ……


(ああ……)


 終わっちゃった。


「……」

「……」


 その儚い終わり方に、その場の空気も少ししんみりしてきた。


 確かにこれ、最後に回した方が良かったかも。

 大勢でわいわいやるならそうでもないだろうけど……二人きりで静かにやってるとこれ、一気に雰囲気が暗く……




「そろそろ……卒業だな」

「ね〜。早いなぁ」


 ああ、やっぱり……

 なんか今すごく『終わり』って空気感……


 これがドラマとかなら、良い感じの曲と一緒にスタッフロールが流れてるよ絶対。


(うう、選択ミスった……)


「終わるんだな、高校生活」

「そうだね……」


 終わっちゃうんだよな、ここでの生活が。


(はっ!待てよ、という事はつまり……?)


 告白ラッシュがもはや秒読みって事だよな?

 来るぞ来るぞとあれほど警戒してたあれがようやく……


(うげ……やだな〜)


 しかし、やっとか。やっと来るのか。

 前々からずっと気にしてた訳だけど、いざ待ち構えてるとなかなか来ないんだもんな。


 そういった緊張する系……試験日とか発表日とか、何か乗り物の発車とか、注射の刺さる瞬間とか……って、待ってるとそれがなかなか来ない。


 試験日とかはなかなか日数が進まないし、乗り物はエンジンかけたまま出ない、注射は腕を台に置いた辺りからが気持ち的に結構長い……




 そりゃあ別の世界に帰るんだし……答えは一択、お断り。

 そこははっきりしてるから悩まなくていいんだけど。


 問題なのは、それをどうやって伝えるか。


 私、コミュ障よ?かなりの。

 ハードル高過ぎない?ってか無理じゃない?


 例えばほら、歩君。拒否ったらめんどくさそうな人代表。

 彼との会話をシミュレーションしてみるなら、こう……


『静音、好きだ!』

『ごめんなさい!』

『なんで?!こんなに想ってるのに?!』


 え、もう早速返事難しいんだけど。


『え、えっと……その、ごめんなさい!(二回目)』

『なんでだよ?!そんな言えない理由なのかよ?!』


 あっ駄目だ。

 これ、逆ギレされて収集つかなくなるやつ。


 じゃあ、別パターンで……


『好きだ!』

『ごめんなさい!』

『なんで?!』

『早乙女君にはもっと良い人がいるから……』

『いねぇよ!俺が好きなのはお前!』


 はい論破〜……じゃなくて、駄目〜。


『実は私、よその世界の人で……帰らなきゃいけなくて……』

『俺もついてく!』


 このパターンも駄目。


『私も早乙女君の事好きだけど、それは友達としてで……』

『って事は、まだ可能性はあるって事だよな?嫌いじゃないんだよな?』

『え……』

『まだいけるって事だよな?な?』


 詰んだ。一番駄目な流れ。


 中途半端に期待させるのは一番駄目だ。

 変な解釈始まって、堂々巡りし出すから……



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