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その差、一回り以上  作者: あさぎ
終わりへ向かっていく
158/188

25-5-1.GWデートラッシュ その5

 


(キャラメルか何かの、甘〜い香り……)


 ここは……?

 ポップコーンやら飲み物やら片手にウロウロする人達に、サイネージに次々映る映画の広告……


「せ……せ、先輩!」


 推測する間もなく、目の前に見知った顔が現れた。

 どうみても映画館だし、推測も何もないっちゃないけども。


「あ……え、えと、千世君!」


 お待たせ!って言おうとしたけど、待たせてたのかむしろ向こうが後から来たのか分かんなくて、『お待たせ』とは言えず。


 かと言って他の挨拶が思いつかず、名前しか呼べなかったでござる。

 開幕早々ピンチ。助けて。




 そんなコミュ障力が遺憾なく発揮されたところで……


「……って、あれ?」


 相変わらずもっさりしてる前髪の、その隙間から……目の下に濃い影があるのが見えて。


 最初前髪の影とかかなぁとも思ったけど……やっぱりなんか違う。


「もしかして……寝不足?」

「え?」

「目の下、クマがあるよ」

「わ、ほんとですか?!」

「うん」


 よくよく見たら結構くっきり黒い。

 なんか、心配になってきた……


「そうですね……実は、ちょっと寝不足でして……」

「あ、やっぱ寝不足?」

「ちょっと……その……よく眠れなくて」

「え、大丈夫?じゃあもう帰る?遊んでて、途中で倒れたなんてなったら大変だし……」

「いえ!大丈夫ですっ!」


 近くにいた何人かが、何事かとこちらを振り向いた。


「あ……声、大き過ぎちゃいました……」


 ええんやで。


 ……と言いたかった私、ひたすら愛想笑い。


(みんな!オラにコミュ力を分けてくれ〜……!)


「恥ずかしい思いさせてすみません……僕の、不注意で……」


 振り向いた人達がバラバラとまたそれまでの行動に戻っていく。


「ううん、大した事ないよ」

「本当に申し訳ないです。年甲斐もなくはしゃいでしまって……」


 君、高校生やで?箸が転んでもおかしい年代やで?

 というツッコミは胸の中にしまっておく……


「明日七崎さんに会えるんだって思ったら……目が冴えちゃって」


 可愛い事言って、心を揺さぶろうと?そういう作戦か?

 そんなものに、この私が魅了されるとでも思うか……?


「昨日から楽しみで楽しみで、ワクワクしちゃって……その、つい……」


(うひひ……!めんこいのうめんこいのう……!)


 即落ち二コマ。チョロ過ぎるよこの人。




「あっ!ご、ごめんなさい……そんなの言ったって気持ち悪い……ですよね……」

「そんな事ないよ〜、楽しみって事でしょ?むしろ嬉しいよ」


 可愛いから全然オッケー⭐︎なんてアホみたいな事言えず、適当にそれっぽい事言ってみる。







 早めに集合したから、映画が始まるまでだいぶ時間があった。

 チケットはというともう彼が買っておいてくれたらしい。準備周到。


 だから、私達はひとまずポップコーンとか飲み物を買いにカウンターへ向かった。


「何食べよっか?」

「あ、えと……僕は……何でも……」

「そう?う〜ん、悩むなぁ」

「ち、違うんです!」

「へ?」


 二度目のシャウト、そして何やら切羽詰まった顔の彼。


「え?ど、どうしたの?」

「違うんです……その、七崎さんに選んで欲しくて。自分の好きなのを」

「……?」


 ん〜?どういう意味?


「僕、まだあなたの好みが分かってないから……僕が選んだんじゃ、好きな物じゃないかもしれないから……」


(なるほど分からん!)


 頭の中がはてなマークでいっぱい。


「そ、その……僕、七崎さんに喜んで欲しいんです。好きな映画見て好きな物食べて飲んで、喜んで欲しくて……その……」


「でも僕、女の人と付き合った事なくて……どうしたら喜んでもらえるのかまだ全然分かんなくて……」


「でもだからって、勝手な自分の推測で好きでも無いもの押し付けたくないんです……七崎さんは優しいからきっと何でも受け入れてくれるとは思いますが、無理に気を遣わせたくなくて……」


(うおっ!眩しっ!)


 素直な良い子要素とチェリーなボーイ要素()の合わせ技……!眩しいぜ……っ!


 ふむふむ、なるほどなるほど。

 あんまり接点なくてよく知らなかったけど……

 この彼、すっごい素直で心の中で思ってることそのまま口に出しちゃうタイプだな。


 なんだけど……ベースがすごく真面目で謙虚だから、そこに嫌味とかマウントとかが一切ないタイプの直球さ。


 今、彼のそんな光属性ビームを不意打ちで思いっきり受けちゃった訳だ。そりゃ眩しいわ。


(ぐわ〜っ!)




 さっきから無言の私に気づいた彼は急にハッとした顔になった。


「あ……!ご、ごめんなさい!そんな事言われても困っちゃいますよね!変な事言いました!今のは忘れてくださいっ!」

「あ、いや別に変な事じゃ……」

「ところで……先日は本当にすみませんでした」

「先日……?なんだっけ?」


 また増え始めたはてなマーク。


「僕が勝手にお花見に誘ってしまって。姉小路先輩いるのに……」


 え?あれの事?


「いや、全然勝手じゃないよ〜。向こうが後から来たんだし」

「で、でも……」

「むしろ謝る必要あるのはあっちだよ。約束だって何にもしてなかったんだから」

「だ、だけど……」


 なんとも煮え切らない反応。

 それに、声の感じも段々元気がなくなってきてる。


「ほんとほんと、千世君は何も悪くない。むしろ怒っていいレベル」

「で、でも……お二人は……」

「え?」

「その……付き合ってるん、ですよね?」




 ???


 ??????


(お、おおお……?おおおおお?)


「いや、付き合ってないけど……?」

「あれ?そうなんですか?」


 おのれ!あのキーホルダーが紛らわしいばかりに!


「うん。ただ仲良いってだけで……別に……」

「そうなんですね、てっきりお付き合いされてるのかと……」


 あ、なんかちょっと嬉しそう。声のトーンが明らかに違う。


(見える、見えるぞ……!)


 ブンブンと勢いよく揺れる尻尾が見える……!

 彼のお尻の後ろにモフモフの太い尻尾が……見える、見えるぞ……!


(くぅ〜!ワンコ系でもあるとか……!)


 目隠れ、根暗、後輩、敬語、素直、女性慣れしてない、そしてワンコ……

 どんだけ要素詰め込むつもりなの?殺す気?



ついに彼、大きい声を出せるようになったんです。

っていうところまで、本編で説明したかったけど……文章力……


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