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その差、一回り以上  作者: あさぎ
終わりへ向かっていく
153/177

25-2-3.不発に終わる

 


 そうして、唐突に二人きり。


(結局なんだったんだ、今の……)


 勝手に話しかけてきて勝手に去っていった、そんな嵐のような展開に呆然としている私と……

 ちらっと横顔見ただけでもう分かってしまうほどの、すごく嬉しそうな唯。


「……」

「……」


 似合ってるって言われたの、よっぽど嬉しかったらしい。


 いつもニコニコしてるけど、今のはもっと……ニコニコというよりポヤポヤみたいな……全身から嬉しさが溢れ出てるって感じ。




「……静音ちゃん」

「ん?」

「んふふ、なんでもないよ」

「なによ〜。めっちゃ嬉しそうじゃん」

「いつも通りだよ……それよりさ、どう?この景色」


 そうだった、そうだった。

 そもそも景色が良いからってここに来たんだった。


 普通にお喋りして帰っちゃうとこだった、危ない危ない。


「うん、自然多くて良いね。マイナスイオンって感じ」

「でしょ〜?」

「ありがとね、連れてきてくれて」

「お礼なんていいの。俺が連れてきたかったんだから……」


 また顔が緩んでポヤポヤしてる。思い出し笑い的なやつ……?


「唯って、こういうところ好きなんだね。意外〜」

「え、意外?そう?」

「うん。だってもっと都会とか派手なところ好きだと思ってた」

「あはは〜。見た目これだもんねぇ」


 自分でも分かってたんだ……見た目チャラいって。


「まぁね、そういう騒々しいところもたま〜に行きたくなったりするけど……基本的にはこういう静かなところが好きだな」

「へ〜。そうなんだ」

「身の回りが騒がしいからさ……静かになりたい時とか、ある訳よ?」


 身の回り……家の事かな、きっと。




「ちょうどベンチあるし、座ろ?」


 一瞬、どうでもいい事が頭をよぎった。

 唯のイベント、だいたいベンチあるなぁなんて。


 まぁ彼の場合、観光地とか公園とか場所が場所だし特に変って訳じゃないけど……彼のイベントって座ってじっくり話す感じのが多いなって。


(だからどうしたって話だけど……)


「でさ、あそこ……見える?」


 こちらに話しかけつつ、そのベンチに座る唯。

 私は彼が座ったのを見届けて、そのすぐ隣に腰掛けた。


「え?どこどこ?」


 あれ?なんか、近くない?


「そこだよ、そこ」


 そう言って唯は、私から反対の方の手で遠くのどこかを指差した。


 それと同時に、腕を突き出したおかげで体が斜めになって……まっすぐ前を向いていた唯の体が少しこっちに向く形に。


(や、やっぱり近いって!)


 その一連の動きで誤魔化しながら、しれっと近づいてきてる感が……あるような、ないような……?


「あ……」


 ああ、ほら。

 やっぱり今、膝同士ぶつかった。やたら近いんだもん。


「ん?ああ、ごめんごめん」


 ここでふと、目が合って……


(……!)


 目が、違う。


 普段とどこか違う。

 いつも以上にキラキラしてる。涙目とかそういうやつじゃなくて、熱が篭ってる感じの輝き方。


(あっ、これもしかして……)


「あ、葉っぱついてる」

「え?」

「前髪に……取ったげる、じっとしてて」


(やっぱり……!)


 女の勘ってやつ?

 いや、女じゃなくても気づく人は気づくだろうけど。


 これは……あれだ。分かってしまった。

 目を閉じてじっとさせるって事はつまり……あれだよ、あれ。


(でも、『それ』をするって事は……)


 告白?しちゃう感じ?このタイミングで。


 お似合いだよと言われた後の良い感じの空気、非日常の場所っていう特別感、そしてこの開けた景色の解放感……


 何パーセントとまでは言えないけど、めちゃくちゃ可能性が高いのは分かる。


(間違いなく来る……来るぞ、これ)


 ここまでうだうだ一人で考えてる訳だけど、実際はものの数秒。


 このまま動かなかったら、多分……来る。


(でも、私は……)


 バッと目を閉じると、案の定彼の体がさらに近づいてくる気配が。


 静かに、慎重に、ゆっくりと……


「……」

「……」


 顔の真ん前に人の気配。目は閉じてても、はっきり分かる。


 そんな咄嗟の判断が求められるこの瞬間、私は……


(ごめん!)


 顔をふいっと横に大きく逸らした。




「……っ!」


 息を飲むような音。

 唯の驚いた声だ。驚き過ぎてもはや声になってないけど。


 そして横向いたまま目を開けて、


「へっ、へっ……!」

「え?!」

「へ〜くしょん!」


 くしゃみ……のつもり。演技下手くそかよ。


 流石にちょっとわざとらしかったかな?と思って彼の方を見ると……いつもの顔があった。


「あれ?静音ちゃん寒かった?」


 およ?いつも通り……?


「ううん、へ〜きだよ」

「でも、くしゃみしてたんだし……体冷えたんじゃない?」


 すごく普通だ。


 ほんの数秒前にあれほどキスの前触れ的なの醸し出しておきながら、今めっちゃ普段通り。


(気のせい……じゃないはずだけど……)


「ただの土埃だって〜。大丈夫だって」

「ううん。心配だもん、もろそろそろ帰ろう。確かにここ、山の上だから気温低いんだよね」

「で、でも……もうちょっと景色見てたいな。せっかく来たんだし」


(あっ)


 今……ふっと一瞬、悲しそうな顔した。

 見過ごしそうなほどのコンマ数秒の変化だったけど、やっぱり確実に表情が翳ったのが見えた。


 なんて事ない普通の会話の、それも途中。

 何一つさっきの出来事と関係ないけど……本音が一瞬チラッと。


「え〜。じゃあ、俺のパーカー着る?」

「いいっていいって。それじゃ唯が風邪ひいちゃうよ。ほんとに寒くないってば」


 それでも会話はあくまで普通、いつも通りの感じ。


(これって……)


 という事は、だ……やっぱりキスしようとしてたな?

 で、失敗したな?今の。


 あれから葉っぱについて話がない事からして、それっぽい。

 本当に付いてたら、また何か言うだろうし。


「ほんとに大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。それより、せめて写真一枚くらい撮って帰らないと。もったいなくない?」

「そこまで言うなら……分かったよ。でも、風邪ひかないでよ〜」

「は〜い」


 あっ、またその顔……


(唯……)




 前から思ってたけど、唯っていつも遠回しだなって。

 何ってその……気持ちとか意識を伝えるのが。


 はっきり言えないっていうか……

 なんだろ、直接言って断られたトラウマとかあるのかな?

 それっぽい態度とかしてくる事もあるけど、毎回私をからかってる風にふざけて終わっちゃう。


 今回のもまた……そうなんだろうな。

 告白しようと彼自身決心して……でも、結局いつも通りの感じになって。


 結果的にうまく伝わらず、躱わされて……


(そうは言っても、そういう私も大した人間じゃないんだけど)


 だからって……こうした方がいいなんて説教じみた事、できないし。


 内心ぶつぶつ言ってるけど、本人には言えないよなぁ。

 何様やねんってなっちゃう。


 唯自身が気づかない限り、きっとこのままだ。

 彼が自分でもっとはっきり言わなきゃ駄目だって気づいて、心を変えない限りは……


(どこかで改めなきゃ、駄目だろうな……)




 ちょうどいい感じに意識がボヤボヤしてきた。

 今回はこれで終わりらしい。


(改心、か)


(そうは言っても……だよなぁ)


(ちよちゃんぐらい思いっきり変わろうとしない限り厳しいだろうな……)


(むしろ、そう思うとちよちゃんすごいな)


(あと、歩君の安定感な……良くも悪くも)


(……)



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