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その差、一回り以上  作者: あさぎ
終わりへ向かっていく
151/188

25-2-1.GWデートラッシュ その2

 


「……ん?」


 流れてくる風が顔に当たって……なんだか気持ちがいい。


「ん……ここは……?」

「あ、こら。寝てたな?」


 この声……今度は唯のイベントのようだ。


「危ないから起きててねって言ったのに。もう、静音ちゃんは〜」

「ごめんごめん」


 すぐ目の前、後ろからハグでもするのかってくらいの近さに、あの黒いパーカーの背中があった。


(おお……やっぱり私より肩幅広いなぁ)


 見事な逆三角形……良い……!良いぞ……!

 いや、普通そういうもんなんだろうけど!それでも良いもんは良いんじゃい!(?)


 それと、そこから下に向かって腰までストーンと落ちるこの直線な……!

 雄みを感じさせる、このライン……!良き……!




 べしっ!


「ぶふっ?!」


(えっ?!なになに?!)


 強い風が吹いたと思ったら、一瞬で視界が真っ黒に。


「静音ちゃん?!」


 唯に助けを求めようと口を開いた途端、また風が吹いて……顔の前から何やら黒い布が去っていった。


(なんだ、パーカーのフードか)


「ううん、大丈夫〜」

「びっくりした〜。変な声出すんだもん」

「ごめんごめ〜ん」




 勢いよく流れていく景色に、この独特な振動……

 久しぶりにまたバイクに乗せてもらっているようだ。


「しっかし、すごいよね静音ちゃん。あんなガッタンガッタン揺れてても寝ちゃうなんて」


 今はほぼ真っ直ぐで綺麗に舗装された道路を進んでるせいか、ほど良い振動でむしろまた寝落ちしそうなくらい。


「え……そんな揺れてた?」

「そりゃもう、さっきまで急カーブの連続で〜!すんごかったんだから!」

「え、ほんと?!」

「ほんとほんと!道路も超ボコボコでめっちゃ揺れるし、流石にちょっと怖かったわ〜」

「そんなすごかったんだ……」

「運転してる俺ですらこれだもん、静音ちゃんなんてもっとだと思ってたのに」

「ん〜?どうだったかな?」

「もう、寝ぼけてんだから〜。まぁ乗ってるだけだし、眠くなるのも分かるけどさ……ぼーっとしててもいいけど、いざって時のためにも起きててよ」


 バイクで後ろ乗ってて寝るとか……随分とチャレンジャーね、主人公。怖いもの知らずってやつ?


 まぁでもここは……もうこれ言うの何度めか分かんないけど、ゲームの中だし。

 シチュエーション作るためにはなんでもありの世界、現実じゃあり得なくてもここでは普通に通用する。


 今の会話だって、本当はバイクの音で聞こえにくいはずなのに、めっちゃはっきり聞こえてるし。

 まるで声を後から当てたみたいに……いや、実際当ててんだけども。声優さんが。


(そう言う唯だって、そもそもノーヘルだもんなぁ)


「ずっと同じ景色で飽きてきちゃったかもしれないけど、ほんとにもうちょっとだからさ〜、ね?」

「そもそも、どこなのここ?前行ったあの山?」

「ううん、前とは違う場所だよ。あれよりもっとね、景色の良いところ」

「え、景色良いって……もっと遠いって事?」

「ふふ、どうかな〜」

「ってか、そこ行って大丈夫な場所なの?道すごいみたいだけど……」

「大丈夫大丈夫、前に一回行ってるから」

「ならいいけど……」




 ここでどちらともなくフッと会話が終わった。


 要は会話が途切れた訳なんだけど……なぜか変な感じはしなかった。

 唯の非言語コミュ力の高さよ……


「「……」」


 二人が黙ると、バイク音以外全くの静寂で。

 たまに木々が揺れる音や鳥の声、虫の声が聞こえてくるくらいで後はシーンとしている。


 唯一、エンジン音だけがその存在をアピールするかのように爆音を鳴らしていた。

 いや、実際は大した音量じゃないのかもしれないけど唯一の騒音がこれだけだからか、とんでもなく大きく聞こえて。


(まぁ、かといって耳塞ぎたくなるほどじゃないけど)


 あと、さっきからずっと登り坂続きで若干(バイク)の悲鳴も混ざってる気もする。

 が、頑張れ……!




「これ、あとどれくらい?」

「へっ?」


 急に聞いてごめん。


「ん〜と……あと〜、10分……くらい?」


(お、じゃあもうちょっとだ)


「ごめんね突然」

「ん〜ん、全然……んふふっ」


 何わろてんねん。


「な、何?なんかおかしかった?」

「ふふっ。そういうとこは気にするのに……んふっ、だって〜」

「なになに?そんなに面白い事?」

「だ、だって……ほんとに全然気づかないんだもん」

「えっ?」

「っ、ふふふっ」


 背中がプルプル震えてまくってるのが、手を介して伝わってくる。


 なんかめっちゃ笑ってるみたいだけど……


「え?え、何が……あっ!」




 ここで重大な事に気づき、慌てて手を離す。


 いや、ね?

 さっきまでぼーっとしてて、本気で気づかなかったんだけど……なかなかこう、彼の危険なところをホールドしてましてね?


 落ちないようにって彼のお腹の辺りを掴んでるつもりが、いつの間にか腕が腰の方まで落ちてて……

 股関節というか、足の付け根というか……なかなか際どいところをこう、両手でぎゅっと……


(ひぃ!じ、事故……!)


 常にやましい気持ちは多少あります!そりゃ〜ありますけども!


 でも、今のは完全に事故!

 わざとこうするつもりなんて、なかったんだよ〜!


(ほんと、ほんと!ほんとだよぉ!)


「あっ、えっ、あ、なんか……ごめんっ!」

「ず〜っと気づかないんだもん。これならもうちょっとくらい楽しんでてもよかったかなぁ」

「えっ、そんな前から気づいてたの?!」

「うん」

「早く言ってよ〜!もう!」

「ふふっ。今の、ほんとに無意識だったんだね」

「うん、ほんとに無意識。気づかなかった……」

「そっか。でも……静音ちゃんなら、いいよ」


(へ……?)


 止まる思考。


「え?いいって……?」

「別に……どこ触られたって、いいよ」

「へ」


 いや、いやいやいや!そのセリフ、あれじゃん!

『君なら、触ってもいいよ……(頬染め)』みたいな!そういうやつじゃん!


 これ、えっちなシーン始まっちゃうやつ……!

 ってかもうもはや導入じゃん、完全に!


 いや、そんなつもりは全然無いし!今移動中だし!


 それどころじゃないし!

 そもそも相手間違ってるし!私相手じゃ激萎え……いやもはや萎え死ぬぞ!




「静音ちゃんになら、別に俺……」

「えっ、えっ、えっ……?」


 駄目よ!体の安売りしちゃ!


「本当は俺的にはそういうの、男の方からと思ってるけど……でも、静音ちゃんがいいなら……」

「えっ、ちょっ、待っ……ええっ?!」

「そういうのも、ありかな……って」


(お……?)


 気づいたらどんどん減速していくバイク。


 え、どこかに停めるつもり……?

 まさか、薄い本みたくどこか木の影で青空教室 (オブラート)?


 いや、いやいやまさかそんな……


「え、え……?唯……?」

「……」

「え……いやいやいや!あの!ちょっと!」

「ん?焦ってる?」

「そりゃ焦るでしょ!」

「……ぷっ!」


 吹くな!こんな真面目なシーンで!


「もう、冗談だよ!すぐ本気にする〜!」

「あ〜!そうやって!」


 いや、まさか無いとは思ってたよ?そりゃ少しは思ってたよ?


 思ってたけど……あまりに言い方が本気みたいで、本当のようにも聞こえて……


「もう!いい加減にして!」

「だってだって〜、反応が面白いんだも〜ん」


 くそぅ、からかいやがって!おのれ〜!




「……」

「……」


 二人の会話はそこでまたピタッと止まり……その代わりとばかりに周りの情報が一気に脳に入ってきた。


(……)


 辺り一面緑、緑、そして緑……

 上を見ても、右を見ても、左を見ても……とにかく緑。


 鬱蒼と茂った新緑の中を通り抜けていくだけ、流れていく景色をぼーっと見てるだけなんだけど……それだけでもなんだか気持ちいい。

 普段、こうしてじっくり緑を見る機会なんてほとんどないから、余計になのかも。


 それに、気のせいかなんか今日はいつもより遠くの木が見えてる気がする。


 これで視力上がってたりして……?ないか。


(お、鳶が鳴いてる……時代劇みたい)


「……」

「……」


 私は周りの景色を楽しみ、彼は彼で運転や風を楽しんでいる……

 お互い別のことしてるけど、これはこれで悪くない。


 他のキャラなら『なんか言わなきゃ!』ってなるところが、彼の場合平気。


 なぜか無言が許されている……ような気がして。

 別に本人から許可もらった訳でもないけど、なんとなく。


(無言が苦にならないのは良いことだって、なんかに書いてあったっけ)


 相性がいい男女は無言の間すら心地いいって。


(……)


 歩君の時もそうだったけど……私もこの世界の住人ならなぁ。

『迷い人』探しなんてせずに、このまま自然の流れで普通に唯と付き合う……なんて未来(パターン)もあったのかもしれないのに。



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