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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
150/165

25-1-3.不安しかないんですがそれは

 


「しっかしこの本棚、ほんとに漫画ばっかり……そんなに好きなんだ」

「まぁな」

「へ〜。ちなみにどんなの読むの?」

「どんなのって……まぁ、色々と」


 なにその煮え切らない返事。


「せっかくだし、読んでいい?おすすめある?」

「なんでそうなるんだよ」

「え〜、だって……どういう系が好きか知りたいじゃん、こんなの見せられたら」

「は?やだよ」

「おすすめのやつ、読ませてよ〜」

「やだ」

「しつこいなぁ」

「それは俺のセリフ……っておい!」


 腕を伸ばし、良い感じに目の前にあった漫画の背表紙に手をかける。


 だってだって、取ってくださいって言わんばかりに目の前にあるんだもん。


「お、おい!何勝手に……!」


 どんなに誤魔化そうったって、中身見ちゃえば丸わかりってもんよ……!


 さぁ、さぁさぁ!どういう系だい!君はどういう系が好みなんだいっ!


(うふふ、うふふふ……)


「ちょっと!ちょっ、ちょちょっ、待てって!ほんとに!」

「えいっ⭐︎」


 取れた!

 えっとタイトルは……なになに、『僕たちの彼女』?


 今にも泣き出しそうな顔をしたセーラー服の女の子と、顔がぼかされたチャラい感じの金髪の男が表紙に描かれている。

 色々はだけて下着や肌が見えてしまってる女の子に、だるっとした服着てなんとなく悪そうな若い男……つまりこれ……


(おっと……そういう系?)


「うっわ、まじかよ……よりによって……それ……」

「これもしかして……18禁?」

「ちげ〜よ」

「ほんとだ、15禁だった」

「もうやめろって!戻せってそれ……!」

「ふむふむ……で、肝心の中身は……」

「だ〜っ!だから読むなって!人が止めてんのに!」

「解読完了」

「はや」


 ごめんね、速読は得意なの私。

 今の数秒間、冒頭と最後の辺りをパラパラっと捲っただけだけど……おおまかな感じは大体分かっちゃった。


「なるほどなるほど、寝取られ系が好きなのね」

「好きじゃねぇよ!全然違うわっ!」

「それも結構リアル寄りの話が好み、と」

「違うって、だから!」


 いや、だってこれ……主人公の彼女がある日先輩と……な関係になるお話だったよ?


「ふ〜ん、こういうの好きなの?」

「違っ、こ、これは他の奴から勧められて……!」


 自分で選んだな。これは。


「違くて、今クラスで流行ってて……」

「……」

「いやほんと!ほんとだって!」

「じゃあ、なんて薦められたの?何が良いって?」


 我ながら意地の悪い質問。


「え……何って……いや、絵が綺麗で?女の子が可愛くて?みたいな?」

「それでそれで?」

「えっいや……その……」


 ん〜、これはダウト!


(はは〜ん、やっぱり自分で選んだな)


「ふ〜ん。で、読んでみてどうだった?」


 思ってた以上に反応が面白かったから、もうちょっと。


「え?」

「面白かった?」

「さっきちょっと読んで分かったんだろ?話の流れが」

「ううん、大まかな流れが分かったってだけだから……それより、このお話の面白いとこ教えてほしいな」

「え……なんでそこまで教えなきゃいけねぇんだよ?」

「そんなに面白いなら……私も読んでみようかなって」

「静音が読んでも、つまんないと思うぜこれ」

「なんで?」

「自分の彼女取られる話だよ?男じゃなきゃ分かんないっしょ流石に」

「分かるよ。私、本読むの好きだもん。性別の違いくらい、想像の翼を羽ばたかせて……」

「は?」


『何言ってんだお前』の顔。傷つくわぁ。


「で?どんなストーリー?」

「え〜、それ……俺に聞く?」

「うん、本気本気。ガチだよ?ほんとにこの本買おうかと思ってるもん」


 七崎史上最高の真面目な顔。


「え、まじ?」

「まじ」

「ガチ?」

「ガチ」


 あ、もちろんそういう演技だけど。


「その、なんていうか……バイトの先輩と彼女がさ、なんか最近やけに仲良いなって思ってたら……ある日店の裏でキスしてるの見ちゃって、みたいな……」

「ふんふん」

「それから段々エスカレートしてって……主人公の視線なんて気にしなくなって、堂々と昼間っから……」


 そのまま続きを言おうとして……ピタッと止まる。


 その先はおそらく(自主規制)とか、(自主規制)とかそんな感じが来るんだろうけど……どうやら気を遣って止めてくれたらしい。


「……なるほど、ありがと」

「ほんと、胸糞悪い話だよ。作り話じゃなかったらこれ、発狂もんだよ」

「発狂てw」

「いや、ほんとに」

「ふ〜ん」

「長く付き合ってたってのに、なんでぽっと出の男に取られなきゃなんない訳?まじふざけんなって感じ、途中から腹立ってしゃ〜ない」

「前言ってたドラマみたい」

「あれな……もう見てないや。途中で見る気失せた」

「あれ、そうなの?」

「きち〜んだもん、展開が。先輩とホテル泊まるシーン来て、即テレビ切ったわ。あれは無理」

「あらま、初恋の人劣勢?」

「違くて。先輩の押しが強過ぎんだよ、あと主人公流され過ぎ」

「そうなんだ……」


 その嫌なシーンを思い出してきたのか、ちょっと彼の空気がカリカリしてきたのでここで話題変換。


「あっでも……この漫画は最後まで読めたんだ?」

「こっちは確実に相手が悪いってはっきりしてるから、最後に何かしら救いがあんじゃないかって思って」

「救い……」

「だってこの主人公、何も悪い事してないんだぜ?報われて当然だろ?」


 ハピエン厨とまではいかないけど……ハッピーエンド派なのね、歩君。


「まぁ、うん……」

「だろ?」

「なるほど……シリアスだけどハッピーエンドって感じのお話なのね」

「いや、バッドエンド」

「えっ」

「完全に彼女が相手のもんになって終わり」


 報われんのか〜い!主人公ェ……


「あ〜!思い出したらなんか本気で腹立ってきた……!」


(相変わらず感情がジェットコースター……)


「ま、待って!」

「……」

「ちょ、ちょっと落ち着こう?」


 お互い一息ついて、カップをぐびりと……


(『ぐびり』……?)


 間違えた、お酒飲む時の効果音だなこりゃ。


(って……やっぱり私、おっさん……?)


 自分で思ってたよりおっさん化が進んでるようで。

 無意識でこんなのが口から出ちゃうくらいに。


 さっきの歩君の発言、割と本当だったのかも……


(ガーン……)




「あ、えと……ごめんね、嫌いな漫画の話させちゃって……」

「いや、いいよ。それに……」

「それに?」

「どっちというと好きだし、それ」

「え……嫌なのに?」

「うん。嫌な気持ちにはなるけど……なんかやめられなくて」


 大丈夫かい、それ。キマってない?大丈夫?


「こうはなりたくないって思えるから、好きなんだ」

「へ」

「こんな風にはなりたくないって、こんな結末は嫌だって……自分の気持ちを再確認できるから、好き」

「さ、早乙女……君?」

「……っと、これ以上は静音を困らせるだけだな。この辺にしとくわ」


 いやいやいや、これまででもう充分過ぎるくらい不安ですけど。


「わりぃわりぃ、なんでもない。今のは気にしないで」

「……」

「でもさ。リアルでさ、好きな人取られたなんつったら……気ぃ狂うよ、ほんとwマジ無理だわ〜w」


(えっ)


 草生やしながら『あくまで冗談です』みたいな風に言ってるけど……


 だって……もしかしたら最後、そういう話になるかもしれない訳じゃん?


 いや、歩君が『迷い人』だったんなら問題ないけど……

 違ったら、この彼だってごめんなさいしないといけない訳で。


 彼にとって他四人はほぼ接点のない『ぽっと出の男』。

 でもそんな彼らに……好きな人、私を取られるっていう事も十分あり得る訳で。


 『迷い人』の人、動き出してるらしいから……この先ついうっかり惚れてしまう可能性も……少ないけどゼロじゃないし。


 もちろん、私のスタンスとしては全員断るつもりではいるけど……

 『迷い人』の行動次第でうっかり……なんて可能性もあるにはある訳じゃん?


「え……」

「『え』って……そりゃそうだろ、普通。正気でいられる訳ないじゃん、そんなん狂うわ」

「狂うって……」

「気ぃ狂うじゃん……?」

「え、えと……ああ、つまりあれ?右目疼いちゃう系?」

「……」

「使い魔召喚しちゃったり?右腕になんか封印されてたり?」

「……」

「『くっ!魔力が暴走して抑えきれない……!みんな、早く逃げ……ぐわ〜っ?!』みたいな?」


 1ミリも笑わない歩君。


(あっ、これマジなやつ……)


「早乙女君……?」

「……」

「……ふざけてごめん」

「だってさ……好きな人だぞ?そりゃ落ち着いてなんかいられないだろ」

「いやいやいや……そこはさぁ、こう……穏便に……」


 この後に響きそうだから……それとなく制止をかける。


「無理無理。もしそうなったら……俺まじバチくそキレるぜ?」

「いやいや、駄目だって。リアルはちょっと……」

「そうは言ったって……」

「ほ、ほら……そうなったら、もしかすると警察沙汰とかなっちゃうかもじゃん?まずいじゃん?色々と」

「……」

「相手の子にも迷惑かけちゃうじゃん?ほら……」

「……そっか。それもそうだな」

「でしょ?でしょでしょ?」

「うん、そうだな……ありがとう。警察の世話にならない程度にしとかないと、後々問題になるよな」


 ん?んんん〜?


「程度ってもんを考えないとまずいって訳だな、うん」


(うん?うん……?)


 なんか物騒だな?

 これ以上深入りする勇気はないけど……蛮族みを感じるぞ?


 元の世界に生きて帰れるかな……今のでかなり不安になってきた。


(まさか、帰れるは帰れるけど……こっちで一度死んで、向こうでまた人生やり直すとかそういうパターン……?)


 よく小説とか漫画である、あれ。

 流石にそれは無いって信じたいけど……


(……)


 けど……


「……だよ?……な?」


「……が、……」


「……けど、……がさぁ、……」


「……」


(ああ、この変なタイミングで……意識が……)



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