3-4.それでも、元の世界に帰るために
とにかく、慎重に進めろって事なんだろうけど……う〜ん。
その『迷い人』が誰だか分かんなきゃ、分かるまでみんななるべく平等に扱うしかない……
この人は『迷い人』じゃないから距離置いとこう、とかもできない……
(という事は……なんか嫌な予感……)
全員と仲良くするじゃん?
それで、好感度がやたらと上がりやすいこのゲーム、カンストなんてすぐだから……
「どう頑張ったって、全員告白イベント起きちゃう……」
でも、相手は『迷い人』一択で他は選んじゃ駄目で、しかもわざわざ他全員ちゃんと断らないといけない……
「つまり、いずれは『絶対に断らなきゃいけない』告白イベントが4人分、確実に4回来る……!」
(うわぁ……地獄……)
告白されるのはいいんだ。むしろ楽しいしそれは何回でも大歓迎。
でも、断れって……
断る事がメインの乙女ゲームなんて、聞いた事ないぞ。
そ〜っとフェードアウト……とかなら分かるけど、わざわざ言葉に出して振れって事でしょ?つら……
ネタとしてふざけてやってる人はいるかもしれないけど、そもそもそれが目標でやってる人なんて……いる?
推しを泣かせたいドSの人とか?
(うわ……断らなきゃいけないのか、彼らを……)
『迷い人』判明するまで気のありそうな素振りし続けて、恋人一歩手前ぐらいの雰囲気出しといて。
で、いざ告白受けたら『そういうつもりじゃなかったの、ごめんなさい』ってバッサリ切り捨てる……って。
暴君にも程があるっていうか、なんていうか……あれか、オタサーの姫かな?
とにかく、めちゃくちゃ精神的にタフじゃないとキツいぞこれは。
(ただでさえ修羅場ゲーなのに、なんかどんどんハードル上がってない?)
「そうじゃな、あまりいい顔はされんだろうが……それも世界のため……」
いやいや!いい顔されないとかそういう次元じゃないから!
恨まれて刺されてもおかしくないレベルだから……!
乙女ゲームの主人公たる者、男振り回してなんぼってか?
女王様プレイ万歳ってか?
いやいやいや!無理無理無理!絶対無理……!
「まぁ、つらいじゃろうな……君も、彼らも。じゃが……苦しいのは、あくまでその告白の時のみ。その難所さえどうにか乗り切ってしまえば、元の世界に帰れるのじゃぞ?」
「……」
「君には他に何の試練も与えていない……能力値を上げろともミニゲームをやれとも言っていない。ただ流れに身を任せておれば良い。そんな簡単な条件で帰れるのじゃから……やってみる価値はあると思うがの?」
簡単な条件(簡単じゃない)。
全然簡単じゃねぇ!むしろベリーハードだわ!
「もしや、帰りたくないのか?」
「いや、そりゃ……元の世界には帰りたいよ……」
まだまだ色々やりたい事だってあった訳だし、ずっとここにいるつもりはない。
「帰りたいけど、でも……」
なんの罪もない青年達を弄ぶ、オタサーの姫プレイに挑戦するか。
それとも、この異様な世界に永遠に残り続けるか。
(究極の選択……!)
元の世界に帰りたくないな、なんて思うような瞬間はたくさんある。
なにせ、毎日のように顔の良い青年達が間近で拝めるんだから。
眼福、そして耳福(?)。
だけど、毎日毎日そういった非日常シーンばっかりだと、新鮮で飽きない代わりになんだかいつも落ち着かなくて……
なんて事のないかつての日常が、逆に今恋しくなってきつつあった。
でも、かといって……元の世界に帰るためとはいえ、こんな私でも一応人の心はある。
自分のためだけに彼らの心を弄ぶなんて。
それも相手は思春期の高校生。
精神的に不安定で多感な時期……そんな彼らが、断られた後にちゃんと自分を律してさっと身を引けるか……
(いや、多分……そんなすんなりいかないだろうな……)
これが現実世界の高校生ならまだ可能性はあったけど、彼らの場合はちょっと……いや、だいぶ変わってるから……
乙女ゲーム特有のあの盲目的な感じ。
ゲームだからか、キャラみんなやたらと想いが強くって……現実の人間よりも一途と言うか、極端に盲目的と言うか……なんていうか、重くって。特に歩君……
そうやって毎日毎日募らせていって溜め込んできた想いを、いざバッサリ断られたなんてなったら……
(……)
見事に不安しかない。
ただその場で怒ったり泣いたりするだけならまだマシ……いや、泣かれるのも充分嫌だけど……それ以上にキャラ同士のリアルファイトとか、お互い恨み合って深い溝が……とかなったらもっとキツい。
あと、逆にヤンデレ化とかも勘弁願いたい……こんなとこで死にたくないぞ、私。
「して……どうするのじゃ?」
でも、やるしかない。元の世界、あるべき場所に帰るために。
『迷い人』を探して恋人になって。
そして、鬼のような告白お断り四連チャンを……
(わ〜ん!これ、絶対やばいじゃん終盤の方!やりたくな〜い!)
でも、それでも……元の世界に帰るためにはやるしかない。
それしか、ない。
「……分かった、やってみるよ」
「うむ、その意気や良し!」
全然良くない。泣きたい。ってかもう早速逃げ出したい。
「では、よろしく頼んだぞ……!」
満足げにそう言ったのを最後に、声は聞こえなくなった。