表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その差、一回り以上  作者: あさぎ
終わりへ向かっていく
148/188

25-1-1.GWデートラッシュ その1

ちょっと下品なお話。notシモ。

 


「おお〜」


 本棚に漫画がギッチリと……


「何だよ『おお〜』って」

「人ん家の本棚ってさ、なんかテンション上がるよね」

「そうか?」


 会話の感じからして、もうなんとなく分かるかもしれないけど……今回のイベントのお相手は歩君。


 目覚めたら今度はいきなり彼の部屋にいたのだった。




 低めの小さなテーブルを挟んで、二人で向き合って座っている。


(う〜ん、足がちょっと痺れてきた……)


 彼は胡座をかいていて、私は正座。

 別に足伸ばしたっていいんだけど、テーブルに対して座高が微妙に足りなくて……結局この形に。


(しっかし、もう部屋に呼んじゃうか〜)


 随分飛ばすなぁ。


 だってほら、そういうのって普通特別なもんじゃん?

 ある程度付き合って良い感じになって……ってやつじゃん?


 いや確かに……幼馴染みとして付き合ってきて、良い感じにはなってるけども。


(そうだとしても種類が違うというか……)




「……ってか、全く動じないのなお前」

「何が?」

「一応その……ここ、男の部屋なんだぜ?自分で言うのもなんだけど……」


 あっやっぱり気づいてた?全然びっくりしてないことに。


「あ〜ね」

「『あ〜ね』って……」


 多分、もっと違うリアクションが求められてるんだろうけど……今の私には単純に、ただの部屋としか認識できなかった。


 今の私じゃ初々しいリアクションがね、取れないのよ。


 やろうと思ってできるもんじゃないのよあれ。

 『こ、ここが男の人の部屋……!ゴクリ……!』みたいな、初めての異性の部屋を見たあの感動な。


 まぁ、そもそもぶっちゃけ初めてでもなんでもないしな。

 慣れてるってほど頻繁に見てる訳じゃないけど……新鮮じゃあないな。おばちゃんなんで。


 そう言う私も、おそらく当時は学生の頃はそういったピュアピュアな心を持ってんだろうけど……もうすっかりなくなっちゃったよ。


 比喩じゃなくてほんとに遠い目しちゃう。

 おばちゃんはもう駄目よ、擦れちゃって駄目。


 部屋だけじゃトキメキもな〜んもない。びっくりするくらいに。

 むしろ頭に浮かぶのは『高そうな家具あるな、いくらしたんだろ?』とか『あっこれ見た事ある、ニ◯リかな?』とかそんな碌でもない事ばかり。


(いくらガワが変わったって、中身までは偽れない……ってか)


「変なの」

「何が?」

「だってさ静音、男兄弟いるって訳でもねぇのに……」

「そりゃあね。中身、おばちゃんだからね」




(あっ)




 あっ、やば!しまっ……!


 言っちゃった!

 彼相手だと楽だからって安心しきって……!




「いや、お前の場合どっちかっつ〜とおっさんだろ」


(あっっっっぶな……!!!)


 バレてはいないみたいけど……なんか勢いよく斜め上行ったな……?


 バレるよりかは全然マシだけど……なんか、これはこれでまた……なんか、うん。


(ちょっと今みたいなの、今後は気をつけよっと……)




「どうした?また意識飛んでるぞ?」

「いや、おじさんって。ショックだわぁ……」

「え?事実じゃん?」

「違うし。勝手に性別の壁越えさせないでよ」

「そっちが勝手に越えてんだよ、俺が変えた訳じゃないし」

「なんでよぉ」

「だってどう見たっておっさんじゃん。態度といい、喋り方といい……もう、色々おっさん」


(おばちゃんじゃなくて、おっさんの方……)


 ガーン……


 いや、いいけどさ。


 自分の事おっさんとか言って自虐したりはたまにするし。

 それに若干自覚も……なきにしもあらず……


「ぶえぇっくし!……っあ〜!」

「ほら、おっさんじゃん」

「ぐぬぬ」

「納得した?」

「ぬ、ぬぬぬ……言い返せない……」

「だろ?」

「ぐぬぬぬ……」

「ほらもう確定じゃん、おっさんじゃん」

「確かに……居酒屋の排気口の香りすごい好きなんだけど、同い年みんな誰も賛同してくれないんだよな……」

「いや、だからそれもうおっさ……」


 ここまで言いかけて、はたと止まった。


「どうしたの?」

「は、排気口……?」

「うん、焼き魚とか焼き鳥の香り……」

「え……?」


 急になんだかトーンダウンした歩君。


「居酒屋さんもそうだし……あとほら、ラーメン屋さんとかも。そっちなら分かる?」


 焼肉屋さんでもいいよ。

『匂いだけでご飯3杯食える』……ほら、あれだよあれ。


「え……?なに、それ……?」

「え?何が?」

「排気口」

「ああ、言い方の問題?ほらダクトだよダクト、ダクトの事よ?」

「いやそうじゃなくて」

「あれ、そもそも知らなかった?ほら、あの空気が外に出てる菅……」

「いや、その説明じゃなくて!その行為について!」

「行為……?え、早乙女君だってたまに嗅いでるでしょ?ほらあの、食欲を唆る良い匂い……」


 ラーメンのいかにも体に悪そうなギットリとした匂いとか、焼き鳥とか焼き魚の少し焦げの混じった香ばしい香りとか……


「え……いや……しないし、普通に……なんか……引くわ」

「ええっなんで?!嗅がないの?!」

「逆になぜ嗅ぐ?!」


 え?!嗅がないの?!


 ほら……パン屋さんの前を通れば焼きたての香り、カレー屋さんの前を通ればスパイス臭、イタリアンならチーズとかガーリック臭……とかさ、色々あんじゃん、お店の匂いってやつ?

 とりあえず嗅ぐじゃん?


 嗅ぐつもりはなくても、鼻に入ってくるから結局嗅ぐじゃん?

 やっぱりどのみち嗅ぐじゃん?


「別に誰にも迷惑かけてないし、いいじゃん!」

「アウトだろ!店の前で鼻の穴膨らませてる時点で、見た目がもう駄目!通報!」

「膨らませてない!嗅覚に意識が集中してるってだけ!」

「どのみちヤベェ奴じゃんか!」

「やばくない!ダクト飯は流石にしてないよ私!」


 トゥース!(幻聴)


「同じだろうが!」

「全然違うし!」

「いやアウトだろ、常識的に考えて」

「いやいや!……ああ、もう!ここにおっさんがいたら……!いてくれたら……!」

「はぁ?」

「おっさんなら、これ絶対分かってくれたのに……!『それな』って!」

「いやただの変態だろ……お前に変に仲間意識持たれてるおっさんが可哀想だわ」




 なんともひどい会話である。


 これでも一応相手は攻略キャラで、その彼の部屋にいるはずなんだけど……

 なんかこれじゃただの同性の友達同士みたいで……なんの感動も緊張も無いのだった。全く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ