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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
146/165

24-4.褒めても何も出ないよ?

 


 ふと、目の前を花びらがひらひらと落ちていった。


(おお……)


 この公園に来て、結構時間経ってるっぽい。

 来てすぐの時より風が少し強くなって、周りの空気も冷たくなってきた。




「でさ……静音ちゃんって、すごいよね」

「……へっ?」


 驚いて聞き返したんじゃなくて、今のは本当に聞こえてなかったのだ。

 あまりにいきなり過ぎて、耳がうまく音を拾ってくれなくて。


「千世君もすごいけど……静音ちゃんの方こそ、もっとすごい」

「え?なんで?さっきのは私関係な、」

「ううん。関係あるよ、思いっきり」

「無い無い、無いよ〜」

「あるってば」


 そう言って頬を膨らませる唯。

 可愛い通り越してあざとい。あざと可愛い。


「だって、千世君をあそこまで変えちゃうんだもん」

「いやいや、変えるほど影響力ないってば。それに、あそこまでって……最初どんなだったか知ってるの?」

「ううん。知らない」


 おいっ!適当かい!


「……でも、最初からああじゃなかったでしょ?そんな感じがする」

「え?ま、まぁ……そう……だけど……」


 まぁ見た目からしてモロ大人しそうだからね、彼。

 強く言われちゃうと言い返せないタイプ、誰が見てもそんな感じだから……


「きっと、もっと打たれ弱かった……でも、それからかなり努力してきたんだろうな」


 まぁ、それはそう。きっと見えない努力があるんだろう。


(まぁ、どのみち私関係ないんだけど……)




 目の前で桜の花びらがまた、風に乗って舞っていった。


「座ろ?立ち話もなんだし」


 そう言って指差した先……私の真後ろの、すぐそこに……ちょうど誰も座ってないベンチが。


(ろ、露骨……)


 花見シーズンだけあって、他はぎっちり埋まってるのに、ここだけわざとらしく空いている。

 流石はイベント……そこは抜かりない。



 言われるがまま座ると、唯もすぐ隣に座った。足をがばっと開いて。


「……」

「……」


 お互いの膝と膝がつきそうでつかない、絶妙な距離。


「……」

「……」


 唯はさっきから無言だ。視線もどこか遠くを見ているようで……何か考え事か、あるいは桜に夢中か。


 どのみちちょうどいい、私ものんびりさせてもらおう。

 せっかくこんな綺麗な景色が目の前にあるんだもん。




 ちょうど目の前には、とても立派な桜の大木がある。

 そこに一人ガシッと抱きついてもおそらく腕が届かないだろうってくらい、なかなか太い幹の。


 樹齢何年くらいなんだろう。

 分かんないけど、きっと相当……もう何百年も経ってるんだろうな。


(良き……)


 大量の花をつけ重そうな枝が、風に吹かれ心地良いリズムで揺れている……







 あ。


(そういや……なんか、喉乾いたな)


 今急に、自分の喉がカラカラなのに気づいた。


 ぼーっとしてたっていうのと、あの変な空気が終わってホッとしたっていうのもあるんだろう。


 あっ!もしかして、都合よく鞄に水筒入ってたり……?


(入って……る!)


 イェーイ!ラッキー!

 流石にこれはイベント関係ないだろうし、運が良かったってやつ?


(ちょっと一口、もらおっと)


 水筒のコップにお茶を注いで……それを飲、


「ねぇ、静音ちゃん……」

「む〜(ん〜)?」


 口に含んだまま、とりあえず返事をする。


「静音ちゃんってさ……魔性の女だよね」

「へ」




 ???




「っ!げほっげほっ!けほ……っ!」

「あ、突然ごめん!大丈夫?!」

「う、ううん……けほっ、大丈夫……ちょっと気管に入っただけ……」


 いきなりすごい事言うんだもん。


「……けほ、けほっ」


 お茶もう一口飲んで、深呼吸。


「……ふぅ」

「落ち着いた?」

「ま、魔性の女って……私が?」

「ある意味、だけど」

「え……そ、そんなぁ……」


 えっ、私……魔性の女だと思われてたの?


「わ、私、そんな……そんな、悪女……?」

「違う違う、そんな悪い意味じゃなくて」

「え〜?じゃあどんなよ?」


 もしかして、あれ?『おもしれ〜女』ってやつ?

 いや、それはそれであんまり嬉しくないぞ……


「いやさ、『他人(ひと)の生き方に影響与えちゃう人』って事」

「え、どういう事?」

「静音ちゃんの影響力がすごいって事」

「え???」


 魔性の女?影響力?

 全然意味分かんないですけど〜?


「彼にあそこまで変わるほどの力を与えてくれたんだ……すごいよ」

「違うって、あれは千世君が自分で頑張っただけだよ」

「ううん、静音ちゃんのおかげだよ」

「違う違う、そんなの私関係ないって」

「だってさ、頑張るったって理由がないと駄目じゃん?」

「え?まぁ、うん?」

「目的がなきゃ頑張れないでしょ?」

「うん……?ま、まぁ……そうかも?」


 話が見えてこない。


「でも、静音ちゃんはまさにその『理由』になってくれた」

「だから違うって、何もしてないってば」

「してるよ。多分無意識だろうけど」


 先が全然読めなくて、いまいち返答に困る。


(ええっと、つまり……?なんのこっちゃ……?)


「これは俺の想像だけど……普段よく喋ってるんでしょ?」

「え……?ああ、千世君とって事?」

「も、そうだし……他の人とも」

「え?他の人とは確かに話すけど……千世君は滅多に会えないし、ほとんど喋ってないかな」

「ううん。じゃなくて、LIMEとかで」


(うげっ?!)


 やり取りしてるのバレてる?!


「ま、まぁ……そう、ね……」


 LIMEしてないって言い切るのも変だし、ここは肯定せざるを得ない……


「……だよね。なんとなく気づいてたよ」


 うわ〜……そこもバレてたか。


「でも、そうやってさ……自分の気持ちを受け止めてくれる存在が、どれだけありがたいかって」

「ただダラーっと聞いてるだけだって」

「ううん、それでいいの……いや、それがいいの」

「もう、褒め過ぎ!褒めても何も出ないよ?」

「いや、ほんとほんと」


 そもそも、ほんとは私がLIMEしてた訳じゃないし。

 実際に気持ちを受け止めてたのは、ぶっちゃけ私じゃなくてあの爺さんな訳だし……



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