24-3.やさいせいかつ
「お疲れ様⭐︎」
「うわっ?!」「わぁっ?!」
ホッとするのも束の間、目の前にいきなり黄色が飛び出してきた。
「唯ちゃんだよ✌︎( ¨̮ )︎︎❤︎︎︎︎︎」
ん〜可愛い!優勝!
……じゃなくて!
知っとるわい!
何回目だよそれ!そりゃ何度でも可愛いけど!
「唯……どうしてここに?」
「今日たまたま公園の前通ってさ。なんとなくそっち見たら、静音ちゃんが変なのに絡まれてんだもん。びっくりしちゃったぁ」
「そうなんだ〜。ほんと助かったよ、ありがとう」
私がそう言い終わるのを待って、ちよちゃんが口を開いた。
「あ、あ……た、助けていただいて……ありがとうございます……」
「いえいえ〜」
(む、またこの組み合わせか……)
お互い穏やかな方だし揉めはしないだろうけど、またあの妙な牽制始まっちゃう……
次の発言をしようと唯の口が開く、その瞬間……
(言わせないよっ!)
「ねぇ、唯」
すかさず言葉を挟む。
変な事言われる前に先制攻撃(?)だ。
「あの二人さ……」
「ん〜?」
「一年生っぽかったけど……なんか、知り合いなの?」
「うん」
うん。
〜完〜
何か話題をと思って、気になってたから聞いたんだけど……うん、て。
唯からの説明はそれ以上無し。
やっぱり、思った通り悪い知り合いの可能性高いぞこれ。
「……だけどさ、もうすぐ二年生だからか最近ちょっとアイツら生意気で〜」
「へ〜」
「色々引っくるめて、さっきお灸を据えてやったの」
『生意気』『色々』『お灸を据える』……
(こわ……)
彼らの関係性を知った上でそのセリフ聞くと、なんかめちゃくちゃ不穏な響き……
気になるけど、これきっと突っ込んじゃ駄目なやつ……
「はは、は……」
ちよちゃんはというと、リアクションに困って苦笑いしている。
「でも……さっきはすごかったね、君」
そう言って、今度はちよちゃんの方を向いた唯。
「え?僕……ですか?」
「うん。途中、押されそうだったけど……なかなか粘るじゃん。ナイスガッツ♪」
「い、いえ……今のは、先輩が二人を追い払ってもらえたからで……」
「ううん、結局追い払ったのは君だよ」
「……?」
「三人目、あのリーダー格の奴を追い払ったのは君なんだから……実質君が三人とも追い払ったようなもんじゃん?」
おお、先輩っぽいこと言う!
ぽいっていうか先輩なんだけど!良い事言う〜!
「あ、ありがとう……ございます……?」
「あははっ、めっちゃ謙虚〜」
「あ……ええと……ごめんなさい……」
「ううん、別に駄目って言ってるんじゃなくって」
「……」
「もっと自信持ちなよ、ほんとにすごかったんだからさ」
超良い先輩じゃん、唯。
側で聞いててなんか嬉しくなっちゃった。
「……」
お?無言だけど、ちよちゃんも少し笑ってる……?
(うふふ……)
やさいせいかつ……じゃなかった、『やさしいせかい』じゃん。まさに。
ほんわかムードが漂い始めたその時、
「あ……」
ふとここで、ちよちゃんが何かに気づいた。
「ん〜?」「どうしたの?」
「あっ、えっと……いや、なんでもないです……」
「ん?ああ、これ?」
そう言って唯が指差したのは、彼の通学鞄だった。
そこについてるキーホルダーを見てるみたいなんだけど、こちらからはちょうど鞄の陰になって見えない……
「「「……」」」
突然無言になる三人。
『とも』といっても、一人だけ意味が違うけど。
他二人は何か察しての無言、私はまだ話についていけてない無言。
(……?)
「あ……あの、ごめんなさい……邪魔してしまって……」
「いやいや、いいよ。むしろ邪魔したのは俺の方だし……」
お、おう?
「いえいえ……」
「いやいや……」
おうおうおう、なんだいなんだい?
何が起きたってんだい?
「ちょっと、用事思い出したので……そろそろ僕……」
「いや、いいって。俺たまたま寄っただけだから、俺の方こそ……」
謎の譲り合いが始まった。
なんかどちらかが撤収しそうな雰囲気。
「い、いえ!今日は桜が綺麗ですし、お二人でゆっくりされてください!」
「でも、君……先に約束してたんじゃ……」
ここでちよちゃんがくるっとこっちを向いた。
「七崎先輩、本当にごめんなさい……!そうとは知らず誘ってしまって、失礼しました……!」
「え、え?失礼?なんのこと?」
「え、えっと!で、では……お二人ともすみませんでした!失礼します!」
「え、ちょっ、待っ……千世君……!」
誘ってくれたちよちゃんがなぜか帰ることに。
(えええ〜っ?!)
どういう事?いや、まじで。誰か説明して?
「「……」」
唯からの説明は無し。無言。
(いや、いやいやいや!)
いや、おかしいって普通!誘ってきてくれたのに帰るって!
なんで?!意味分からんって!
「……ごめんね。なんか、俺が割り込んだみたいで……」
「あ……う、ううん……」
わ〜ん!『いや、駄目でしょ今のは!』って言えなかった〜!
私の馬鹿!いくじなし〜!
でもやっぱり普通に考えてちよちゃんが優先よ、今のは。
この後、唯絡みで何か起きるのかもしれないけど……だけど、そうだとしても……
(う〜ん、なんかモヤる……)
空気読めるキャラのはずだったのに、唯。
いつもの如くあくまでゲームだからっつったって、それにしては話の切り替えが不自然過ぎるし。
これがもし本当に本来のシナリオなら、多分プレイヤーみんな『え?』だ。ついていけない。
だからって……これまさか唯自身の意思?
だとしても、どうして……?
(……)
ちよちゃんの変貌っぷりから今の唯の割り込み参加まで、腑に落ちないことばっかりだ。今回のイベントは。
「……納得、いかない?」
(うっ)
不審がってるの、思いっきり本人にバレてるっていうね……あはは……
「え?いや〜、別に……」
「無理に言わなくていいよ」
「あ……ええと……」
「……ほんと、ごめんね。邪魔しちゃって」
なんだか今回はだいぶ重めの空気。
「静音ちゃん、あのさ……」
「……」
「俺……決めたんだ」
「え?」
「はっきりと、自分の中で……決めたの」
「決めた?」
「うん」
「え……」
「もう、決めたからには動かないとだ」
「え……ええと……」
返す言葉に悩んでいる間にもどんどん彼の言葉が進んでいく。
「もう……様子伺ったり、変に躊躇ったりしない」
「もっと自分に素直に、堂々と行こうと思って」
「今までの自分とは、さよならしようと思ってさ……」
「どういうこと……?」
やっとどうにか捻り出した返事がこれである。
散々悩んだ意味……
「いやさ、まさにそれを話そうと思って来たの。いや、『話そう』じゃないな……『話さなきゃいけない』か」
「……」
「それで明日にでも会って話そうかなって思ってた時に、たまたま公園の側通ったらいたから……ちょうど良いと思って」
「……」
「でも……まさかあの後輩クンがいるとはなぁ。約束してたみたいだし申し訳ないけど、大事な話だから帰ってもらっちゃった」
なるほど、そういう訳ね。良いか悪いかは置いといて。
「なんて言って帰ってもらおうかと思ったんだけど……ちょうど、いいアイテムがあったからさ」
「いいアイテム?」
「これだよ」
鞄をくるっと回して、見やすいように私の方に向けてくれた。
「え、これ……」
「見覚え、あるでしょ?」
(猫のキーホルダー……!まさか!)
それは……私が前にもらったキーホルダーとなんだか似てて。
恐る恐る自分の鞄のファスナーを見る。
(まさか……いや、まさか違うよね……)
悪い予感は的中した。
(わぁぁ!やっぱり〜っ!)
二つ合わせて一つのハートになるやつ……これ、唯のがまさにその反対側……
イベントだから強制退場したってさっき勝手に考えてたけど……この可能性は全然頭に無かった。
(う、うわ〜……!)
ちよちゃんが逃げるように帰っていったのはこのせいじゃん!
100パーこれじゃん原因!
(げ〜!まじか!)
滅多に会えないキャラだけに、誘ってくれてちょっと嬉しかったのに。
『ちょっと仲良い先輩』くらいには仲良くなれそうだったのに。
こうなるから、絶対袋から出さずにしまっておこうって思ってたのに……ああ……
自分の中じゃ完全に封印したつもりだったのに、勝手に鞄に付いてるとか……まじ……
(システムは時に非情……ううう……)
「……あれ?駄目だった?」
悲しそうな声がして、ふと現実に返る。
「え?」
「それ、気に入らなかった?」
「なんで?」
「いや……なんか今、嫌そうな顔してたから」
そりゃ、嫌だけどね!
だって、全自動誤解生成機だもんこれ!
唯の気持ちは嬉しいし、キーホルダーの猫ちゃんも可愛いけど……とはいえ爆弾は爆弾よ?!
見た者全員をもれなく誤解させる、激ヤバアイテムよ?!
しかも自分もちゃっかり付けてくるとか……!
またそうやって、す〜ぐ牽制かける……!
(可愛い顔して……ほんと、そういうところだよ!)