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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
145/165

24-3.やさいせいかつ

 


「お疲れ様⭐︎」


「うわっ?!」「わぁっ?!」


 ホッとするのも束の間、目の前にいきなり黄色が飛び出してきた。


「唯ちゃんだよ✌︎( ¨̮ )︎︎❤︎︎︎︎︎」


 ん〜可愛い!優勝!



 ……じゃなくて!


 知っとるわい!

 何回目だよそれ!そりゃ何度でも可愛いけど!


「唯……どうしてここに?」

「今日たまたま公園の前通ってさ。なんとなくそっち見たら、静音ちゃんが変なのに絡まれてんだもん。びっくりしちゃったぁ」

「そうなんだ〜。ほんと助かったよ、ありがとう」


 私がそう言い終わるのを待って、ちよちゃんが口を開いた。


「あ、あ……た、助けていただいて……ありがとうございます……」

「いえいえ〜」


(む、またこの組み合わせか……)


 お互い穏やかな方だし揉めはしないだろうけど、またあの妙な牽制始まっちゃう……




 次の発言をしようと唯の口が開く、その瞬間……


(言わせないよっ!)


「ねぇ、唯」


 すかさず言葉を挟む。

 変な事言われる前に先制攻撃(?)だ。


「あの二人さ……」

「ん〜?」

「一年生っぽかったけど……なんか、知り合いなの?」

「うん」


 うん。


 〜完〜




 何か話題をと思って、気になってたから聞いたんだけど……うん、て。


 唯からの説明はそれ以上無し。

 やっぱり、思った通り悪い知り合いの可能性高いぞこれ。


「……だけどさ、もうすぐ二年生だからか最近ちょっとアイツら生意気で〜」

「へ〜」

「色々引っくるめて、さっきお灸を据えてやったの」


『生意気』『色々』『お灸を据える』……


(こわ……)


 彼らの関係性を知った上でそのセリフ聞くと、なんかめちゃくちゃ不穏な響き……

 気になるけど、これきっと突っ込んじゃ駄目なやつ……


「はは、は……」


 ちよちゃんはというと、リアクションに困って苦笑いしている。




「でも……さっきはすごかったね、君」


 そう言って、今度はちよちゃんの方を向いた唯。


「え?僕……ですか?」

「うん。途中、押されそうだったけど……なかなか粘るじゃん。ナイスガッツ♪」

「い、いえ……今のは、先輩が二人を追い払ってもらえたからで……」

「ううん、結局追い払ったのは君だよ」

「……?」

「三人目、あのリーダー格の奴を追い払ったのは君なんだから……実質君が三人とも追い払ったようなもんじゃん?」


 おお、先輩っぽいこと言う!

 ぽいっていうか先輩なんだけど!良い事言う〜!


「あ、ありがとう……ございます……?」

「あははっ、めっちゃ謙虚〜」

「あ……ええと……ごめんなさい……」

「ううん、別に駄目って言ってるんじゃなくって」

「……」

「もっと自信持ちなよ、ほんとにすごかったんだからさ」


 超良い先輩じゃん、唯。

 側で聞いててなんか嬉しくなっちゃった。


「……」


 お?無言だけど、ちよちゃんも少し笑ってる……?


(うふふ……)


 やさいせいかつ……じゃなかった、『やさしいせかい』じゃん。まさに。




 ほんわかムードが漂い始めたその時、


「あ……」


 ふとここで、ちよちゃんが何かに気づいた。


「ん〜?」「どうしたの?」


「あっ、えっと……いや、なんでもないです……」

「ん?ああ、これ?」


 そう言って唯が指差したのは、彼の通学鞄だった。


 そこについてるキーホルダーを見てるみたいなんだけど、こちらからはちょうど鞄の陰になって見えない……


「「「……」」」


 突然無言になる三人。


『とも』といっても、一人だけ意味が違うけど。

 他二人は何か察しての無言、私はまだ話についていけてない無言。


(……?)


「あ……あの、ごめんなさい……邪魔してしまって……」

「いやいや、いいよ。むしろ邪魔したのは俺の方だし……」


 お、おう?


「いえいえ……」

「いやいや……」


 おうおうおう、なんだいなんだい?

 何が起きたってんだい?


「ちょっと、用事思い出したので……そろそろ僕……」

「いや、いいって。俺たまたま寄っただけだから、俺の方こそ……」


 謎の譲り合いが始まった。

 なんかどちらかが撤収しそうな雰囲気。


「い、いえ!今日は桜が綺麗ですし、お二人でゆっくりされてください!」

「でも、君……先に約束してたんじゃ……」


 ここでちよちゃんがくるっとこっちを向いた。


「七崎先輩、本当にごめんなさい……!そうとは知らず誘ってしまって、失礼しました……!」

「え、え?失礼?なんのこと?」


「え、えっと!で、では……お二人ともすみませんでした!失礼します!」

「え、ちょっ、待っ……千世君……!」


 誘ってくれたちよちゃんがなぜか帰ることに。


(えええ〜っ?!)


 どういう事?いや、まじで。誰か説明して?


「「……」」


 唯からの説明は無し。無言。


(いや、いやいやいや!)


 いや、おかしいって普通!誘ってきてくれたのに帰るって!

 なんで?!意味分からんって!




「……ごめんね。なんか、俺が割り込んだみたいで……」

「あ……う、ううん……」


 わ〜ん!『いや、駄目でしょ今のは!』って言えなかった〜!

 私の馬鹿!いくじなし〜!


 でもやっぱり普通に考えてちよちゃんが優先よ、今のは。


 この後、唯絡みで何か起きるのかもしれないけど……だけど、そうだとしても……


(う〜ん、なんかモヤる……)


 空気読めるキャラのはずだったのに、唯。


 いつもの如くあくまでゲームだからっつったって、それにしては話の切り替えが不自然過ぎるし。


 これがもし本当に本来のシナリオなら、多分プレイヤーみんな『え?』だ。ついていけない。


 だからって……これまさか唯自身の意思?

 だとしても、どうして……?


(……)


 ちよちゃんの変貌っぷりから今の唯の割り込み参加まで、腑に落ちないことばっかりだ。今回のイベントは。




「……納得、いかない?」


(うっ)


 不審がってるの、思いっきり本人にバレてるっていうね……あはは……


「え?いや〜、別に……」

「無理に言わなくていいよ」

「あ……ええと……」

「……ほんと、ごめんね。邪魔しちゃって」


 なんだか今回はだいぶ重めの空気。


「静音ちゃん、あのさ……」

「……」

「俺……決めたんだ」

「え?」

「はっきりと、自分の中で……決めたの」

「決めた?」

「うん」

「え……」

「もう、決めたからには動かないとだ」

「え……ええと……」


 返す言葉に悩んでいる間にもどんどん彼の言葉が進んでいく。


「もう……様子伺ったり、変に躊躇ったりしない」


「もっと自分に素直に、堂々と行こうと思って」


「今までの自分とは、さよならしようと思ってさ……」




「どういうこと……?」


 やっとどうにか捻り出した返事がこれである。

 散々悩んだ意味……


「いやさ、まさにそれを話そうと思って来たの。いや、『話そう』じゃないな……『話さなきゃいけない』か」

「……」

「それで明日にでも会って話そうかなって思ってた時に、たまたま公園の側通ったらいたから……ちょうど良いと思って」

「……」

「でも……まさかあの後輩クンがいるとはなぁ。約束してたみたいだし申し訳ないけど、大事な話だから帰ってもらっちゃった」


 なるほど、そういう訳ね。良いか悪いかは置いといて。


「なんて言って帰ってもらおうかと思ったんだけど……ちょうど、いいアイテムがあったからさ」

「いいアイテム?」

「これだよ」


 鞄をくるっと回して、見やすいように私の方に向けてくれた。


「え、これ……」

「見覚え、あるでしょ?」


(猫のキーホルダー……!まさか!)


 それは……私が前にもらったキーホルダーとなんだか似てて。


 恐る恐る自分の鞄のファスナーを見る。


(まさか……いや、まさか違うよね……)




 悪い予感は的中した。


(わぁぁ!やっぱり〜っ!)


 二つ合わせて一つのハートになるやつ……これ、唯のがまさにその反対側……


 イベントだから強制退場したってさっき勝手に考えてたけど……この可能性は全然頭に無かった。


(う、うわ〜……!)


 ちよちゃんが逃げるように帰っていったのはこのせいじゃん!

 100パーこれじゃん原因!


(げ〜!まじか!)


 滅多に会えないキャラだけに、誘ってくれてちょっと嬉しかったのに。

『ちょっと仲良い先輩』くらいには仲良くなれそうだったのに。


 こうなるから、絶対袋から出さずにしまっておこうって思ってたのに……ああ……

 自分の中じゃ完全に封印したつもりだったのに、勝手に鞄に付いてるとか……まじ……


(システムは時に非情……ううう……)




「……あれ?駄目だった?」


 悲しそうな声がして、ふと現実に返る。


「え?」

「それ、気に入らなかった?」

「なんで?」

「いや……なんか今、嫌そうな顔してたから」


 そりゃ、嫌だけどね!


 だって、全自動誤解生成機だもんこれ!

 唯の気持ちは嬉しいし、キーホルダーの猫ちゃんも可愛いけど……とはいえ爆弾は爆弾よ?!

 見た者全員をもれなく誤解させる、激ヤバアイテムよ?!


 しかも自分もちゃっかり付けてくるとか……!

 またそうやって、す〜ぐ牽制かける……!


(可愛い顔して……ほんと、そういうところだよ!)



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