24-1.えっ、君……誰?
「あの……今日、一緒に帰ってくれませんか?」
えっ。
「あ、えと……ごめんなさい、こんな急に……」
いや、その、ええと……
「や、やっぱり……駄目、ですか……?」
え……えっと……
いや、その……君、誰……?
「え、えっと……?あなたは……千世君……で合ってる?」
見た目はそうなんだけど。
でも……私の知ってる彼じゃない。
「……?は、はい」
(う〜ん、なんか違う)
「……」
じーっと無言で見つめてみるも……
「せ……先、輩……?」
違和感の原因は分からず。
それでもやっぱり何か変……何かが確実に前会った時と変わっている……
何が違うの?って聞かれると困っちゃうんだけど……でもやっぱり何かが違う。
「あ、あの……」
「……」
「その……色々と都合とかあると思いますし、無理には……」
「……」
「あ、や、やっぱりごめんなさい……忙しい、ですよね……?」
この自信のない感じ、イメージ通りの彼だ。
(でも、なんか違うんだよなぁ……)
いやさ、前にもあったにはあったよこういう事。
LIME交換しようってなったあの時……あれも結構向こうからグイグイ来て、ああやっぱり乙女ゲームのキャラなんだなぁと思わされた訳なんだけども。
そうなんだけども……
「でも、もしこの後何もないなら……一緒に帰りたい、です……」
「……」
「その……できれば、ですけど……」
だけど、こんな公共の場で……そう、まだ説明してなかったけどここは学校の正門の真ん前。
人の邪魔にならないように端の方に寄ってはいるけど……どのみちどこに立ってたって、正門前っていう目立つ場所なのは変わらない訳で。
そんな所でこうも堂々と……しかもまさに下校時刻、みんながワサワサ通ってるそのすぐ横で……こんな面と向かって誘ってくるとか……
これが他の、例えば唯とか歩君とかあの辺だったら分かるけど……だって、あのちよちゃんよ?
むしろ『見た目はちよちゃんだけど、中身は唯でした〜!ドッキリ大成功!』なんて言われた方が……いや、それはそれで充分意味不明だけど……でもそっちの方がまだ納得できる。
「千世君、一つ聞いていい?」
「え?は、はい……」
「どうして誘ってくれたの?」
ここは思い切って聞いてみる。一人で考えてても答え出そうにないし。
「え?」
「いや、どんな風の吹き回しかなって」
「理由、ですか?」
「うん」
「ええっと……そ、そうですね」
「……」
「えと、その……先輩って、あと一年で卒業じゃないですか」
卒業ですねぇ。
「だ、だから……もうあまり時間がなくて」
「……」
「それまでには……先輩の事、もっと知っておきたいんです……」
「知って、どうするの?」
「え?」
「私の事、知ったところで……じゃない?もうすぐ卒業でいなくなるんだし」
「そ、それは……」
「でしょ?」
「でも……今のまま、何も知らないままで……お別れしたくないんです……」
口調は相変わらず弱々しく、特徴的な分厚い前髪も健在……だけど、その視線は強く真っ直ぐで。
(やっぱりなんか……なんか違う……!)
変だ。やっぱり違和感……前と全然違う。
なりすました別人かってくらいに、全く違う。
(なんだろ、二年生になったから?)
彼なりに何か成長したって事なのかもしれないけど……久しぶりに会った私からしたら、なんだか違和感がすごくて。
あまりにイメージの乖離が著しくて、本人には申し訳ないけどなんかちょっと不気味……
「え、えっと……」
一向に返事が返ってこない相手を前にして、さっきからずっと彼はモジモジしながら待っている。
いや、別に一緒に帰っても全然問題はないんだけど……
(でもなんで?)
そもそもの話、なんでよりによってこの彼と……?
歩君とか、唯とかなら全然分かるけど、なんでこのチョイス?
まぁ、そういうイベントって言われちゃそうなのかもしれないけど……あまりに唐突過ぎて。
LIMEのやり取りはそこそこしてたんだろうけど……こうやって会うのは今が初めてだし。
これまでそういうの全然無かったから、なんか……なんか……うん。
(……あれ?そういや歩君は?)
下校イベントといえば、彼。
今感じてる違和感の、その原因のうち何%かは多分そのせい。
(あっ!)
ま、まさか……歩いてる途中で歩君がフッと現れて、かち合っちゃうパターン……?!
(げ!それはまずい……!)
慌ててスマホを取り出し、LIMEを確認する。
『わり、先生から呼び出されたから先帰ってて』
おお……ナイス回避。
うまいこと調整するなぁ、あの爺さん。
いや、違うか。今寝てんだっけ?
じゃあゲームシステム自体が自動的にかち合わないようになってるって事?
それはそれですごいけど。
先生から話……なんか不穏だけど、ゲームだと割り切ってほっとく事にする。
あんなでもきっと卒業できるはず……多分。
よく分からないけど……
ここで一人騒いでても仕方ない、一緒に帰るか。
なんか前と変わり過ぎて違和感すごいけど、それはきっとこのまま過ごしていれば何か手掛かりが見えてくる……かもだし。
「……じゃ、一緒に帰ろっか」
「……!あ……あ、ありがとう、ございます!」
この初々しい後輩感よ……いつもと違ってなんか新鮮。
「あっ」
「ん?」
「あの……公園、寄ってもいいですか?」
「公園?いいけど……」
「今ちょうど桜が満開だって、朝ニュースでやってたので……」
その先は言わなかった。
まぁ言わずとも、一緒に見たいって事なんだろうけど。
途中からモニョモニョして言わない……というか言えない?のがなんともまた彼らしい。
(やっぱりちよちゃんだ……そういうとこが)
でも……
(でも、なんか違う……!)
なんかこう……うまく言えないけど、なんか変!やっぱりなんか違うんだよぉ!




