番外9-3言わせたい、あの言葉 その3
次じゃ次!神澤 秋水!
「は?何それ?」
「そこをなんとか!」
説得からして超苦戦。
そんな番組あり得ないと冷静に言われ、ワシ超ピンチ。
「胡散臭っ」
「あ〜、あはは……それよく言われます……」
「そんなしょうもない企画、視聴者に受けると思ってる?」
「いやぁ、実は……それがですね……」
「何?」
「私、実はこれでもこの業界長いんですけど……未だに大きな番組やらせてもらえなくて……」
「へぇ」
「頑張ってるつもりなんですけど、いつも雑用ばっかりで……それでも、修業だと思って毎日毎日頑張ってるんです」
「……」
「けど、メジャーな番組はみんな他の同期が担当で……私にもやらせてくださいって、何度も上司に言った事もありましたがいつも却下……」
「……」
「だから、もうこの際実力で納得させるしかないと思って……だって、自分で企画した番組で視聴率取れたら認めざるを得ないでしょ?」
「確かにな」
「でしょ?」
「……」
「だからどうか……ここは、協力してもらえませんか?」
「……」
「どうか、お願いします……!これ、最後のチャンスなんです!」
「……」
「どうか……お願い、します……っ!」
詐欺師ばりの素晴らしい嘘八百。
我ながら、この場で捻り出した割にはなかなか良い話じゃないか。
いや、真っ向勝負で駄目ならここは手を変えて攻めようと思ってな……
情に訴えてみました、ワシ。(๑˃̵ᴗ˂̵)てへ⭐︎
押して駄目なら引いてみろ、みたいな?あるじゃろ?
「……ふん。言いたい事はそれだけ?」
「……!は、はい……」
むむぅ、やはり駄目か……?説得失敗か……?
「でも、僕だって今日は早く帰りたいんだ……さっさと終わりにしてよね?」
「え……?」
「さっさと撮れって言ってんの!ほら早く!」
はい、ワシ大勝利〜!
独特な口調でいまいち分かりにくいが、どうやら納得してもらえたようじゃ。よかったよかった。
「では!どうぞ、お願いします!」
彼もまた姉小路の時のように手で軽く髪を整えて、キリッとした表情に。
「……」
そして……
「……す」
「すす、す……」
ストーブのヒーターみたく、じわじわ〜っと赤くなっていく顔。
「す……」
「……っ!」
おお、恥ずかし。顔真っ赤っかじゃ。
見ているこっちも恥ずかしい……
「す、すす、す……!」
と思ったら、今度は急に勢いがついた。
いいぞいいぞ!そのまま、そのままその勢いで……!
「す、す……!」
行け〜!
「しゅき……」
噛んだ〜!肝心なタイミングで噛んだ〜!
恥ずかしさが限界を超え、涙目の彼。
まだまだ赤くなり続ける顔のまま、キッとこちらを睨む。
「っ、ふ……」
笑っちゃいかん、耐えろワシ。吹いたら殺される。
「……っ、ひ」
駄目だ、ここで笑ったら……
「お前、何笑ってんだよ?!」
ほら、怒られた〜。
「あ、いえ、その……」
「お前が変な事やらせるから!ふざけんな!こんな、こんな……!」
かなりご立腹の様子。
フシャー!という空耳が聞こえてくるレベル。
「ま、まぁ、まぁまぁ……」
「ふざけんなお前!」『シャー!』
背中の毛を逆立てて怒り狂ってる猫の幻が……見える、見えるぞ……
「あ、あ……えと!では私、この辺で……!」
「は?!お前、逃げる気?!」
「あ、う〜んと……その、あ、ありがとうございました〜!」
三十六計逃げるが勝ち!シュタタタタタ……!
ほい、ラスト!千世 龍樹!
「……」
「あ、あの〜……」
「……」
「録音、始まってるんですけど……」
こちらが喋るたびに前髪がもさもさと揺れる。
真っ赤な耳して俯いたまま、両手を組んだり指先を擦り合わせたりしながらひたすらモジモジしている……
「あのぉ〜……もしも〜し?」
「す、すみません……」
「やっぱり、やめときます?」
「いえ……やります」
「あの……無理には……」
「やるって言ってしまった以上、途中で中途半端に棄権して今以上にご迷惑かける訳にはいかないので……」
「な、なるほど……」
「……」
「ええと、じゃあ!一旦深呼吸しましょうか!深呼吸!」
吸って〜吐いて〜。また吸って〜。
「……どう?落ち着きました?」
「は、はい……ごめんなさい、途中で止めてしまって……」
「いえいえ。緊張しますよね〜こういうの」
「本当に申し訳ないです……ご迷惑をかけてしまって……」
「迷惑だなんて、とんでもない。こんな突然のお願いを二つ返事でサクッと引き受けていただけたのはあなただけ……むしろありがたいです」
五人の中で一番話の進みが早かった。
ほとんど細かい説明も質問もなしで、あっさりOK。
相当嫌がるかと思っていたんじゃが……この反応は意外だった。
「で、でも……僕なんかがこんな……」
ずもももも……と効果音がつきそうなくらいに重くて暗い空気が辺りに漂っている。
「あ、やっぱりやめときます……?」
「いや……やります。最後までやらせてください」
おお、気合い十分。
「分かりました……はい、では……改めて!どうぞ!」
さっきまでより頬をより一層赤くして、何かに怯えるような顔をしながら……
「……す、す、す、」
「す、す……」
「……す、好き、です……っ!」
でも、その目はしっかりとこちらを向いていた。
(おお……)
怖がってるんだか強気なんだか。
「……ど、どうでしょうか……?」
「はい、とっても良いのが撮れましたよ〜!」
「ほんとですか……?」
「ええ!」
「……よかっ、たぁ……!」
照れ臭そうにはにかむような……でも、心から嬉しそうな笑顔に思わずこちらまでニコニコに。
「おかげさまで、最高のが撮れました!」
「僕なんかが、お役に立てたみたいで……よかったです……!」
健気じゃのぅ。
「あ〜っ!さっきの人じゃん!」
げっ。
声と共に黄色い髪の男子生徒がこちらに向かってズンズン歩いてきている。
歩いてきているというか、こうして観察してる間にもう、到着……
「やっぱり!なんか似てんなぁと思ったら、やっぱさっきの人だ!」
着いた途端、会話に勝手に参加。
「へ〜、まだやってたんだこれ」
「はぁ、まぁ……」
(せ、せっかくのふんわりムードが……!)
彼の乱入のおかげでガラガラと崩壊していく……
「あれ?君もしかして、この前の……?」
「ひっ……!」
駄目だ、完全に怯えてしまっている……
それでも目はちゃんと声の主を見つめてはいるけど……恐怖で見開かれている、といった感じ。
大人しい彼とは明らかに真逆のタイプ……そうなるのも無理はない。
「えっと〜?う〜ん、名前忘れちゃった!ごめん、誰だっけ?」
いやそれ、本人に面と向かって聞く?
「ち、千世……です」
「あっそうそう!千世君だ!あはっ、やっと思い出した!」
笑って言うけど、なかなかひどい。
「ところで……ねぇ、お姉さん。さっき聞きそびれちゃったんどけどさ……」
「え?なんでしょう……?」
「あのさ……」
「ぼ……ぼぼ、僕!すぐ帰らなきゃいけないので、この辺で……!す、すみませんっ!」
勇気を振り絞った、必死な声で突然そう言って……どこかへ逃げるように走り去っていった。
居心地悪い状況に必死に耐えていたようじゃが、どうやら彼の限界が来たらしかった。
自分が会話から抜けたと分かった瞬間に、猛ダッシュで逃げていった。
「あらら。逃げちゃった」
あららって……君のせいじゃよ、もう!
「まぁいいや、でさ〜」
「わ、私もじゃあこの辺で!」
あの彼に倣ってワシも逃げるとしようか。
こやつの相手ワシでも危険……これ以上深掘りされたら、ワシでも堪らん。
「では、ではでは〜!」
「お、お〜い!ねぇって……」
目標は達成したし、もうここにいる必要はない……
じゃあの!
「ねぇ、待ってってば……!」
「二人とも逃げることないじゃ〜ん!ねぇ!」
「ちぇ〜。ちょっと揶揄って遊ぼうと思っただけなのにぃ」
だから、それが危ないんじゃって。
男だろうが女だろうが、そうやって軽率に沼らせるから……




