番外9-2言わせたい、あの言葉 その2
しかし、今回実はそんなに時間がなくてのぅ。
他の彼らに話しかけるまで、これまたそれぞれ一悶着あったんじゃが……その辺はカットで。
ここからは、ちょっと巻き気味でお送りします……
次の狙いは……姉小路 唯!
「それではお願、「ちょっと待って!」
了承を得て、早速始めようとしたら突然ストップが。
「ごめん、こんな急に始まるとは思ってなくて……ちょっと準備させて?」
「え?あ、はい……」
そう言って手櫛で念入りに髪型を整えて……
「……いいよ」
「はい、では改めてお願いします!どうぞ!」
「あ、今いい?カメラ回ってる?」
なんだか俳優とかの受け答えみたいじゃのぅ。
緊張もほとんどなく、余裕綽々といった感じ。
「はい、今録ってますよ!」
しっかりと目線はカメラに真っ直ぐ、でも自然な感じの表情。
目を少しにっこりさせて、口角きゅっと上げ……そして、首に角度を少しつけて……
「……好きだよっ!」
(むっ?!)
あっ、いかん。こりゃいかん。
七崎が言ってたあれだ、『駄目なやつ』だ。あかんやつ。
(なんと……!)
これは驚いた。
神すらときめかす、その笑顔の力……なんと凄まじい……
しかもワシ、男神じゃぞ。なんならじじぃじゃぞ。
だというのに、うっかり一瞬自分がうら若い乙女かのように錯覚させられてしまった……
(な、なんという事じゃ……!こやつ、やりおる……!)
「あ……あ……えっと……あ、ありがとうございましたっ!」
「あれあれ〜?その感じ、もしかして……」
「な、なんでも……ないっ、です!」
「ドキッとしちゃった?」
「なっ?!ち、ちちち、違います!」
「え〜?ほっぺたピンクだよ?」
「揶揄わないでください!もう!」
「ふふっ、お姉さん面白〜い」
ぐぬぬ……!揶揄いおって!
ワシはこれでも一応男……!それもこの世界の最高神じゃぞ?!
まずい、これ以上いたら何かに目覚めてしまいそうな気がする……ここは、逃げろっ!
「そ、そそ、それじゃっ!」
「え、待ってよ!」
「アリガトウゴザイマシタッ!」
「待って!ねぇ今のってさ、いつ放送……あれ、行っちゃった……」
はい、次!市ノ川 聖!
「はい!マイクに向かって、お願いします!」
「……」
「どうぞ!」
「いや、そんなので花が咲くとは到底思えないんですが……」
一応初対面だし、気を遣ってくれているらしく敬語。
前二人とは大違いじゃ。
「でも、可能性はゼロじゃありませんから!」
「えっ……だ、だけど……」
無言で彼の顔をじっと見つめる。
「え……ほ、ほんとにやるつもりですか?」
じー。やるんです、もちろん。
「文句を言うようで申し訳ないですが……やるだけ無駄なような気がして……それでもやるんですか?」
じー。そこをどうかお願いしま〜す。
無言のまま、再びマイクを突き出す。
「う、嘘だろ……」
「まさかほんとにそんな事する気なのか?正気か……?」
思わず敬語が消えるほどの動揺っぷり。
ちなみにワシは正気じゃよ。
「こんな事したって……何にも……」
じー。早よせい、もうマイク入ってるぞ。
「……」
「あ、ええっと……」
早よ。早よ早よ。
「その……す、す……」
視線をあちこちに泳がせて、しばらくモゴモゴした後……
「す、すすす、す……」
「好き……」
と、最後に急にボリュームを抑えて小さくぼそり。
言い終わるなり、顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
「はい、お疲れ様でした!」
「……」
「おかげさまで、すごく良いのが録れました!ありがとうございます!」
「……」
しばらく下を向いたまま黙り込んでいたが……やがて気持ちが落ち着いたのか、ゆっくりとその顔を上げた。
「あの……あんなので良かったんですか?」
「はい!バッチリでしたよ!」
「そ……そう、ですか……」
顔中、そして耳の先まで真っ赤にして……
こちらを向いていながらも、その視線はどこかあらん方向を見つめている……
もう高校生、体は立派に大人の男のそれじゃが……なんだかどこかまだ可愛らしい。
「いや〜ほんとお疲れ様でした!」
「……じゃ、じゃあ、この辺で」
「はい、突然すみませんでした!」
お、放映の事とか聞いてこないのか。なんだ、珍しいパターンじゃな。
なんて感心してる間に、彼の姿は消えていた。
走ってるのかってくらいの超ハイスピード早歩きでスタスタスタスタ!とワシの前から速攻でいなくなってしまったのだった。
……って、おや?
よく見たら……向かっていったのは学校の方じゃないか。
今の時間、家に帰ってる途中なんじゃなかったのか?
まさか……道間違えた?いや、いやいやいや。
そんなまさか。彼に限ってそんな事……
……あるか。前例あったわ。なんてこった。
呼び戻す?いや、やめとこう……余計悪化するかもしれん……




