番外9-1言わせたい、あの言葉 その1
言わせたいだけ。
話が真面目な感じになってきたので、ここでちょっと休憩じゃ!
堅い話が続いて、作者が飽き……ゲホゴホっ!
失礼、作者がちょっと疲れてしまったみたいでのぅ。
すまんのぅ、完全にこちらの都合で。
またお前かよって?七崎出せよ?
それがのぅ、今回やりたい話がちと特殊で……ゴニョゴニョ……
え?そもそもワシ、この世界のキャラとあんまり関わっちゃ駄目なんじゃないかって?
そ、そうなんじゃが……その〜、それもまた色々ありまして……
お、おほんっ!
そんな裏事情はさておき!さておけないけどさておき!
今回の話は……『キャラ五人に好きと言わせてみたら……?』じゃ。
なんか、大喜利みたいじゃな。
しかし、一見簡単そうに見えるが……そのためには、シチュエーションをうまく作り出さねばならない。
となると……う〜む、どうしたものか。
そうじゃな……ワシがテレビ局のスタッフかなんかに化けて、彼らに取材するというのはどうじゃろうか?
うん、それがいい。そうしよう。
化けるとしたら……まずあれじゃ、彼らが話しやすいように親しみやすそうな感じの若い女性リポーターじゃろ。
それで、怪しまれないようにメガネとポニーテールの地味目な見た目で……でも、せっかくだからちょっとだけ美人にしておこうかの。
アイドルとか芸能人とかそこまでじゃないけど、平均よりは少し綺麗な人って感じ。
うむ、決まった。これで行こう。
バレないように機材スタッフに化けた部下も二人連れて、と。
はい、ワシ整いましたっ!
狙ったのは下校時間。
それも早乙女が居残り補習で、ちょうど七崎が一人で帰った日の。
これなら他四人はもちろん、早乙女も一人きりのところを狙えるって訳じゃ。
噂をすればなんとやら……
彼らの通学路をしばらくウロウロしていると、赤い髪の青年が歩いているのが見えた。
どれ、早速話しかけてみるとするか……
「あの〜」
「……」
「あ、あの!」
「あ"?」
おお、こわっ。七崎といる時とは大違いじゃ。
「すみません。私、テレビ局の者なんですけど……お話、いいですか?」
「……」
あっ、無視……
人間界で美人と言われる姿を模倣したつもりなんじゃが……それでも素通りか。
なかなかやるのぅ。
「あっ、あ……ちょ、ちょっと!一瞬で終わりますんで!」
慌てて駆け足で彼の前に回り込み、声をかける。
「あの!」
「……」
またスルー……(´·ω·`)
どれ、ちょっと微笑みかけてやろうか。意味深な感じで。
(にこっ)
「……」
ほれ、ほれほれ……ほら、振り向いた。
どうじゃ、気になるじゃろ?
「……」
あ、それでも無視……むむぅ。
……って、いかん!ふざけてる場合じゃなかった!
このままでは逃げられてしまう……
まずい、どうするか……
む、脇道がある!
ちょうど良い!ここの道は狭いからな、先回りして通せんぼうしてやろう!
「……待って!」
「うわっ?!」
両手を広げて〜⭐︎はい、通せんぼ⭐︎
「な、なんだ急に?!アンタ一体どっから……?!」
脇道から!
「どうかお願いします!どうか、ご協力いただけませんか!」
「え……なんか、えらい必死だなアンタ」
「一言!一言言うだけでいいんで!お願いします!」
「……しょ〜がねぇな」
おっしゃ!ワシの粘り勝ち!
「では!このマイクに向かって、『好き』と言ってください!さぁどうぞ!」
「は?何それ?」
「言い方は自由ですが……愛をたっぷり込めて、お願いします!」
「ええ……愛って……」
「なんなら、好きな人に告白するくらいの気持ちで!お願いします!」
「いや、こんな人前じゃ無理だって」
「いいからいいから!」
「よくね〜よ!」
「それじゃあ、行きますよチャレンジャーさん!はい、スタート!」
「おい!ちょっと俺の話……!」
「カメラ回ってますよ?」
「うっ……!」
観念したらしく、文句の声はここで止まった。
カメラ回ってるって言われちゃ、いくら彼だって変な事は言えんじゃろ。ふっふっふ。
「はい!それでは早速……このマイクに向かって、お願いします!」
彼の声の邪魔にならないよう、ワシの声は一旦ストップ。
マイクをずいっと突き出し、彼の口元に近づけて……ただ静かにその時を待つ。
「え、えっと……」
「え?えっ、ま、まじで?まじで言うの?ここで?」
「え?いや、え……?待って……ほんとに?」
「え、あ、いや……そ、その……」
「す、スキ……」
鋤かな?いや、これは隙かな?それとも紙漉きの漉き?
う〜む。清々しいほどの完璧な棒読みじゃのぅ。
『ちっが〜う!もっと気持ちを入れて!』って言いたいくらいじゃが……
だが、そんな事言おうものならきっと、余計に不審がられてしまう……今でさえ半信半疑でギリギリなのに。
仕方ない、ここは大人しく引いておくか。
悔しいのう、ぐぬぬ……
「わぁ!良いのが録れました!ありがとうございます!」
「は?こんなんで?」
「ええ!十分過ぎるくらいです!」
「へ、へぇ〜……」
またドン引き。
「んで、いつ放送すんのさ?」
あっ!しまった……!全然考えてなかった!
「ってか、どんな番組?俺知ってるやつ?なんてやつ?」
おおっと!ワシ、ピーンチ!
「え、えっと!KMSテレビの『とりあえず生ビールで』っていう番組です!」
「ケーエムエスぅ?どこの地方局だよそれ?」
「えっ、ご存知ないんですか?!KMS、カミ島テレビですよ!ほら!」
もちろん、今言った事どれも存在しない。
島の名前?ああ、それも架空じゃ。
今適当に作った。神様→カミサマ→カミシマ→カミ島……ってな感じに。
「は、はぁ……」
彼の顔にははっきりと『どこだよ』と書いてあった。
「……んで?そのなんとか島テレビ?の……?」
「『とりあえず生ビールで』、です。略して『とり生』」
「なにそれ……バラエティかなんか?」
「え、ええと……まぁバラエティ番組ですね。何かあらかじめテーマを決めて、それについて番組で検証していくって感じです」
「へ〜。で、今回はなんの検証?ってか目的は?」
「それはですね……」
「うん」
「あなたの他にも何人かこうやって声を録音させていただいて……その中から選んで、良かったものを……」
「良かったものを?」
え、ええっと……
考えろ、考えろワシ……もうなんでもいい、なんでもいいから良い感じの言い訳を……
「よ、良かったものを……サボテンに聞かせるって企画です!」
「え……」
呆れとドン引きの混ざった、なんとも言えない表情。
「……」
えっ俺、こんなのに真面目に応じてたって訳……?
今の彼の気持ちを代弁するなら、きっとこんな感じ。
「今回はですね、言葉の力を試すのが目的なんです!蕾が全然ない状態から、花が一個でも咲いたら成功!」
「いやそれ、何ヶ月かけるつもりだよ……」
「花が咲くまで粘ります!長期戦は覚悟の上!」
「へ、へ〜……」
心底どうでもよさそうな顔。
「あ!もしかして顔出しNGでした?!」
「聞くの遅ぇよ……もちろんNGだけど」
「なるほど!でも大丈夫です、分からないようにちゃんときっちりモザイクかけますから!」
「ああ……ならいいや」
なら(もうどうでも)いいや……心の声が漏れている。
「ちゃんとその辺はしっかりしてますから!どうかご安心ください!」
「あぁ、うん……」
おお!
ウンザリしたその顔!そしてその『もういい加減帰りたいんですけど』オーラ!
しめしめ、目論見通り……いいぞいいぞ、これで安全に撤収できそうだ。
「あっそうだ!せっかくですし、もう一言くらい何か……」
「や、もう……いいっす……」
「あ!ちょ、ちょっと!」
「……じゃ」
一言それだけ残して、彼はスタスタと去っていった。
背中にワシの視線を感じてはいたのじゃろうが、かといって一度も振り向く事はなかった。
「行ったか……ふむ……これで良し、と……」
あ、いかん!うっかり普段の口調が出てしまった!
綺麗なお姉さんの口から年寄り口調が……!
慌てて見回したけど、誰も反応してなさそうだったからセーフ。
さてさて、それじゃあ次じゃ次。




