23-3.異世界生活延長します
「すぐにでも送り返してやるつもりだったんじゃが……どうやら『迷い人』本人がお主に相当惚れ込んでしまったようでな」
えっ?惚れ込んだ?どういう事?
「いやぁ、流石にそれにはワシも驚いた。しかもそれだけじゃない、なんとさらにその者はこう言ったんじゃ……」
『助けてくれたその女性、使命があるが故に今までは無理して演技をしていた場面もたくさんあっただろう。だが、帰れるようになった今……これからは無理に好きになろうとする必要はない』
そりゃあ、もう帰るんだしね。
『つまり、今は誰とも無理に好意的に接する必要がない……彼女本来の、素の状態。それならば……自分の力だけで彼女を振り向かせてみたい』
(……っ!)
思わずドキッと心臓が大きく跳ねた。
『振り向かせてみせる』という言葉に思わず動揺してしまって。
チョロ崎さんなので(?)。
『だから、帰るのはもう少し後……卒業式が終わるまで期間を延ばしてもらえないか?』
「……とな。厳密に言うと口調は違うが……まぁ、大まかな内容はざっとこんな感じじゃ」
むむむ……つまり、要約すると。
異世界生活延長しますって事と、誰かさんがこれからモーションかけます(死語?)宣言したって事?
「その彼とてワシが神であることは知っている。だと言うのに、まさか面と向かってそう言ってくるとはなぁ……なかなか度胸があるのぅ」
(それって、舐められてるだけなんじゃ……)
「だから……ここはその彼の強い想いに免じて、その意思を尊重してやろうと思ってな」
「……」
「それで……君はどうじゃ?どうしたい?」
「へっ?ど、どうしたいって……」
「それでも今すぐ帰りたいと言うのなら、無理強いはしない。彼に諦めるよう伝えるが……」
「え、いいのそれ?お願い聞いといて、それありなの?」
「ああ。なにせ君は、この世界の滅亡を防いだ救世主……感謝してもしきれんほどじゃ。だから君が帰るまでは、この世界の全てにおいて君の意思が最優先よ」
そういや私、この世界救った事になったんだっけ。
なんか知らないけど、いつの間に。
「で、どうする?」
「う〜ん……」
う〜ん。今までも充分面倒だったけど、なんかより一層ややこしくなってきたぞ。
まさかこの世界で告白したい、だなんて。
(でもその人だって私と同じで、他の世界の住人なのに……わざわざなんでここで……)
あ、そっか。戻ったら会える確証なんてないもんな。
今でこそ同じ学校だから会えてるけど、私が元の世界に戻っちゃったら多分離れ離れ……永遠の別れってやつ?
なら、ここで告白しちゃおうって事か。
ここで一旦恋心にビシッと決着つけて、納得してから別れようって。なるほどなぁ。
(でもそんな事言ったの、誰だよ……)
歩君?唯?いっちー?秋水?ちよちゃん?
でも全員そういう事言うイメージがなくって、なんだか変な感じ。
神様が言ってるんだし、嘘じゃないんだろうけど……ほんと誰……
可能性高いのは歩君……?
でも、そんな勿体ぶるくらいならすぐ告白してきそうだしなぁ。
真面目な感じからして、いっちー?
う〜ん、でもなんか違う気がする……
「『迷い人』が誰なのか知りたい、とな?」
だから、しれっと勝手に人の心読むなって。
「そうじゃな……実は、『迷い人』に自分で伝えるまでは黙っていてほしいと言われておってのぅ……だが、何度も言うが君が最優先じゃ。君が望むなら彼の名前を教えてあげよう」
「……」
「『迷い人』、その者の名は……」
「……ま、待った!やっぱストップ!」
「む?やめるのか?」
「やっぱり、いいや。その人が自分で言いたいって言うんならそれで……正々堂々勝負したいって事だろうから、ここは秘密にしてあげて」
「そうか……」
「うん、お願い」
「ふむ。しかし……という事は、だ……つまり、君はまだこの世界には残るつもりなのじゃな?」
「うん」
「卒業まで今の生活をさらに続けていく事になる……本当に良いのか?」
「うん。私もその誰かの気持ちを大事にしたいから……もうしばらくここにいようと思う」
「そうか……分かった」
帰れるなら今すぐ帰りたいって気持ちも、もちろんあるけど……
でもそれ以上に、この話が結局最後どうなるのかが気になっちゃって。
その『誰か』……つまり『迷い人』は一体誰なのか、とか。
向こうから動いてくれるらしいから、何もしなくても自然といつか明かされる事になるんだろうけど。
あと、結局シナリオ全体としてどういう結末になるのか、とか。
ゲーム世界の外の人間が関わってきてて、エンディングになんの影響もないとは思えないから……むしろ本来のエンディングとは別の終わり方になるんじゃないかって。
(と言いつつ、本来のがどうだったかなんてもうすっかり忘れちゃったけどさ……あはは……)
それと、あと……本人達には悪いけど、結ばれなかった彼らが結局どういう道を辿っていくのか、も。
ここまで来ておいて……みんなが納得してくれるような終わり方ってあるのかなって。
『迷い人』だけ満足して、他四人悲しませたまま帰還……ってなるのだけは避けたいなぁ。
(せっかく貸しができたんだし、爺さんの力借りてどうにかできないかな……)
今咄嗟に思いついた事……これまでの私なら全然意識がいかなかったと思う。
もうこれ以上ここに滞在しなくても良いと言われたからこそ……余裕ができたからこそ、出てきた興味。
別に私が知らなくても全く問題ない。むしろ知らなくていい。
だけど、知らなくていいって思うと逆になんだか気になっちゃって……
「ではもうしばらく続けるとしよう。じゃが、何度も言うが君は救世主……お礼として、できる限り協力させてもらうぞ」
「おお、やった〜!」
「なんかすごい喜びようじゃな……」
「じゃあ!じゃあさ!早速だけど、私の見てないところで勝手に話進める謎機能止めて!LIMEとか!」
「それ、前からずっと気にしておったな……ワシとしてはその方が楽に過ごせるかと思って、代わりに進めていたんじゃが……」
「うわ、やっぱり?!やっぱあれ爺さんのせいだったんだ?!」
「神、な。ワシ、神。アイアムゴッド」
うっさい、じじぃ!
「じ、じじぃ……」
ん?なんか前にも似たようなやり取りしてたような……う〜ん、忘れた。
「いやいやいや!あんなのありがた迷惑よ!いきなり知らない話出てくるの、ほんと焦るんだから!」
「ありゃ、駄目?」
「駄目!全っ然嬉しくないよ!」
「なんと……!そうかそうか、それは悪い事をしてしまったな」
「ほんとだよ!もう!」
つまり、LIMEとか自分が意識してない時のやり取り、全部この爺さんが代理でしてたってことでしょ?
(まじか〜、うわ〜……)
「すまんのぅ」
「やめてよね、そういうの。もうこの先は勝手に話を進めな、「しかしなぁ」
被せてくるやん。
「う〜む、しかし……話の都合上どうしても君のイベントとその会話を同時に進めないといけないタイミングがあってな……」
「え?なにそれ?」
「例えばほら……君が早乙女とどこかデートしている間に、LIMEで神澤と会話しなくてはならない時」
「そんなのあるの?」
「あったわ。今まで散々」
「ええ〜……」
「それら全てを君に任せてしまうのは簡単じゃが……それでは今まで以上に気が休まる暇がなくなる、本当に潰れてしまうぞ?」
確かに。
「え〜……そういう事?分かったよ……でも、じゃあまだこの先も勝手に話進めるってこと?」
「ああ。その方がおそらく君のためじゃ」
「それならさ、せめて連絡ちょうだいよ?こんな話したとかさ」
「いいんじゃが、君はその時イベント中よ?」
「ん?というと?」
「君の意識があるのはイベント中のみ。そんな時に、ワシの言葉をゆっくり聞いていられるほど余裕があるとは思えんが……」
「じゃ、じゃあ……イベントの終わりにそれまでの会話をまとめて事後報告……」
「意識がフェードアウトしてる時に?」
そうか。イベント中の暇なタイミングってそれくらいだもんな。
(とはいえ、そんなぼーっとしてる時に大事な事言われてもなぁ)
「……やっぱ今の無しで」
「ふむ、承知した」
どのみちそういった会話の把握はできそうにない。
ならいいや、もうこの際。
その辺は諦めよう、今までなんとかなってるんだし。
いきなり知らない話題出てきて不意打ちされるのが嫌なんだけど……それはその時か。とほほ。
「あとはあれか……今まで通り無駄な時間は極力省き、体力・気力温存できるようにしてやろう……日常生活とか移動だけのシーンは全てカットじゃ」
「えっ、それって……あの怪奇現象も爺さんが?!」
「怪奇現象?」
「いきなりシーンが切り替わったり、突然フェードアウトしたりするあの現象!」
「ん?ああ……その事か。もちろん、そうじゃ」
良かれと思ってやってたんか〜い!超ありがた迷惑!
むしろてっきり試練的な何かかと思ってたよ!
「無駄は全て飛ばして、少しでも彼らとのイベントに集中できるようにと思ってな……なかなか楽だったじゃろ?」
おう……せやな……(白目)
「ふむ、しかし……困ったな。君達が卒業するまで、もうワシはただ見守るくらいしかやる事がなくなってしまった」
「暇人じゃん」
いやここは……暇神ってか!やかましいわ!
「仕方ない、ここはしばらくの間眠らせてもらうとするか」
「え?なにそれ、眠りってまさか……」
むむっ、この流れ……!オタクセンサーが反応している……!
まさか封印?封印なの?
えっやめてよ、RPGとかだとめんどくさいやつじゃん。
アイテム必須とか、何かしなきゃ目覚めないとか、そういうさ……
「な〜に、心配はいらん。軽〜く一眠りするだけじゃ。君達でいうところのうたた寝みたいなもの。封印とかそういった類のものじゃない」
「なら良かった……でも、大丈夫なのそれ?寝過ごさない?」
神様が寝過ごすなんて、って普通ならなるけど……この爺さんの場合は別。
むしろ不安しかない。
まだ何かやらかしたって訳じゃないんだけど、なんかなぁ。
「ああ、その辺は大丈夫じゃ。『迷い人』の気が済んだ頃に必ず起きる」
「ほんとかよ〜」
「ほっほ。心配はいらん、ちゃんと目覚ましはセットしたからな、寝過ごす事はないはずじゃ……多分」
多分って!!!おい!!!
ほらやっぱり!そういう発言すると思った!
だから信用ならないのよ、この爺さん。
それに、目覚ましって……ますます不安なんですけど、それ。
「『迷い人』が君に愛を伝えたら、鳴るようになっておる。それに、もし止めてもスヌーズ機能がついてるから安心じゃ」
スヌーズ機能って。いやそれ、絶対寝ぼけて止めるやつ……
「ふわぁ〜あ……それでは、幸運を祈るぞ……」
え、あっ、もう寝るの?!このタイミングで?!ちょっ、早……
「う〜ん……むにゃむにゃ……」
もう寝てる?!
『迷い人』探しとしてのお話はここで終わりです。
名前は伏せてますが、この話がもうほぼ答え。
っていうか、もうすでに充分バレバレなんですがね!え〜ん、私の下手くそ〜!。゜(゜´ω`゜)゜。
『迷い人』の時と他キャラの時の話の力の入れ具合の差よ……調整が絶望的に下手過ぎる……
ミステリー作家の人ってすごいよなぁ(?)