23-1.エ◯ラのファンファーレ
エ◯ラのエ◯ラのエ◯ラのエ◯ラの……
ご〜ま〜だ〜れ〜♪
今回のイベントは……どこか学校の外で歩君から謎のプレゼントをもらうところから始まった。
「はい、これ」
綺麗なオレンジ色の夕焼け空に、ぐるっと見渡す限り周りは住宅街……
そんな景色からして、おそらく今は下校中のようだ。
「……え?」
「なんだよ」
「いや、もらっていいのこれ?」
「当たり前だろ?」
「……?」
「惚けてないでさっさと受け取れって」
「……?ああ、うん……」
突然リボンで可愛くラッピングされた謎の紙袋を手渡され、訳も分からないまま受け取る。
(???)
「開けてみなよ」
「え……うん」
中に入っていたのは、ウサギの顔の形をしたミニポーチだった。
真っ白で毛がもこもこで、しかもジッパーがまん丸な尻尾になってる……
(うっ……ガワ”イ”イ”……っ!)
久しぶりに(?)心臓を押さえて卒倒しそうになった。
某ネット画像みたく。
って……そういや確かこのゲームの主人公、大のウサギ好きだったっけ。
流石幼なじみ、分かってらっしゃる……
「嬉しいけど……でも、なんで?」
「え、今日なんの日か分かってるだろ」
分かってるだろって言われても……
「え?なんの日って……?」
「え?えっ、え……まじ?それ……まじ?」
まじだよ。
「ちょ、まじ……?んっふ、ぶ、ぶふっ!」
「え?え?」
「っは、あははっ、ははははははっ!ウケる!」
「……?」
「まじウケる!っはははっ!はは、あははははははっ!」
思いっきり吹き出したかと思いきや、爆笑がとまらない男。どしたの。
「やばい、やばいって……!自分の誕生日忘れるとか……!ウケる……!」
ああ、主人公の誕生日なんだ。
今日が一体何月何日なんだか全然分かんないけど、へ〜。
「そっか、私の誕生日か〜」
「なんだよ、テンション低いな」
「え〜、早乙女君のテンションが高いだけだよ」
「は?お前の誕生日だぞ?」
確かに……君達高校生からしたら、誕生日はそこそこ大イベントだもんね。
友達とか親からプレゼント貰えるし、今日生まれたっていうプレミア感があってなんだか楽しい気分になれる……そんな特別な一日。
(そっか……)
でも、そんな楽しいはずの日も……今やただの一日。
残念ながら歳と共に自分の誕生日ってどんどん価値が薄れていくのよね……悲しい。
私にもきっとそんな時期があったんだろうけど。
それから歳を重ねてもう何度も誕生日を迎えて……もうすっかり大人になった今じゃ、ただの節目にしかならなくなった……
(……あ、)
となると、まさか……!
焦って鞄を漁るも、さっき貰ったポーチか勉強道具しか見えてこない。
どうやら誕生日だからって何か他四人からは特に何もなかったらしい。
いや、まだ付き合ってもいないしあったら逆に困るんだけど……とりあえず良かった。
(ホッ)
「んじゃ、俺はここで」
考え事してる間にちょうど分かれ道が来て、歩君とさよならする事に。
(あれ?もう終わり?)
彼のイベントだったとしたら随分早い終わり……もしかしてこの後続けて他のキャラが来るって事?
「……」
「なんだよ、キョトンとして」
「ううん、くしゃみ出そうになっただけ」
「なにそれ。心配して損した」
半分嘘、でも半分本当。
「へっくしょっ!」
「うわ」
「うぃ〜……ズビズビ」
「風邪?気をつけろよ?」
「へいへい」
「ナントカは風邪引かないっていうけど、あれほんとに風邪引かないんじゃなくて『本人が気づいてないだけ説』もあるんだからな」
「へ〜きだって」
「やれやれ……じゃあ、またな」
「じゃ〜ね〜」
それから、何かあると身構えたままずっといたけど……何もないまま気づいたら主人公の家に到着していた。
(そういうのって逆に怖いんだよなぁ……)
家までの道順なんて正直全然知らなかったけど、とになく前へ前へと歩いてたらなんか見覚えのある家の前に着いていた。流石ゲーム。
(じゃあ次は家の中のイベントって事……?)
いつも説明ないし自分の推測が頼りだけど、今回は特にいまいち終わり方が見えてこない……はてさてどうなることやら。
ガチャ。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
久しぶりに聞いた、主人公のお母さんの声にちょっとホッとしつつ扉を潜る。
主人公として家の玄関を開けるのも、これまた超久しぶり。
あれからもうずっとなかったからね、登校のイベント。
(おおお、ここが玄関……)
改めて見ると、なんか新鮮。
外に出てる靴が一足もなくて、かつ床もピカピカ……まるで新居のように。
あ、えと……しっかりお手入れされてるって事だよね、うん!
(いや〜、やっぱどこまでもゲーム世界だなぁ……)
バッキバキの作り物感がなんだか面白くって。
ふざけて靴箱を開けたら、中空っぽだし。
傘立ての傘は背景の一部で、壁と一体化してて取れないし。
他にも開けたり引っ張ったりして遊んでたら……再び声がした。
「ねぇ、ちょっと!静音〜!」
「ほわぁっ?!」
冗談じゃなく、本気で飛び上がりそうに。
「あら何よ、そんなびっくりして」
「いきなりなんだもん!びっくりするよ!」
ん?あのお母さんに名前呼ばれたの、今が初めてだな……?
だからどうって訳じゃないけど。
「え、何?」
「あのね、お醤油買ってきてほしいの」
頼み事されてるけど、姿はない。今忙しいのかな?
タタタタタッとリズミカルなまな板の音、沸騰した鍋のコポコポ音……晩ご飯の支度中?
「え、醤油だけ?あとは?」
「お醤油だけでいいわ〜、お願いね〜」
「は〜い」
今回はお買い物のイベントなのかな?
分かんないけど、とりあえず引き受けておく。
ダラダラと歩きながら近所のスーパーへ向かう。
道順は正直分かんない。何も考えずただ歩いてる。
でも、どうせこれはイベントの中。違ったらなんらかの形で軌道修正してもらえるだろうから……まぁ、そのうち着くっしょ。
それでも自転車乗った方が早いって、後になって気づいたけど……もうだいぶ歩いてきちゃったし、いいや。超適当。
(ん〜……)
冬が終わり段々と春になってきた時の、この空気感……
柔らか〜いポカポカ陽気を全身に浴びて、気分はもうだるんだるん。
(やる気が出ぬぁ〜い……)
「……あ、静音ちゃん!」
「うわっ!」
曲がり角のところから、ヌッと現れたタンポポの妖精……じゃなかった、唯。
いや、ただ黄色い髪ってだけなんだけど。
この暖かい陽気と、その真っ黄色具合が合わさって……
(どう見てもタンポポです、本当にありがとうございました)
イケメン感台無しになるから、言わないべきか一瞬躊躇ったけど……もう駄目。
これやっぱタンポポの妖精さんだわ。
「どしたの?お買い物?」
「いやぁ、お母さんに醤油買ってこいって言われちゃってさ」
「お使いか〜。すごいじゃん、えらいえらい!」
「すごいって……私、高校生だよ?」
「あはっ、ごめんごめん。ついさっきまで姪っ子の相手してたから、つい……」
こうやって話していると、みるみる頭が冴えてくる。
弾けるような元気なその声がちょうど目覚まし代わりになってくれたみたいだ。流石妖精さん。
「ところで、唯は?何か用事?」
「俺?いやさ、静音ちゃんにプレゼントしようと思って家に向かってたの。サプライズで突撃ピンポンしちゃおうかと思ってて」
「あ、ほんと〜?すごい偶ぜ〜ん」
やたら間延びした口調なのはこのポカポカ陽気のせい。
そして、その『家に向かってたの』以降のナチュラルな問題発言にすぐに気づけず会話が進んでしまったのも、きっと陽気のせい……
「そうそう、だから……はい!」
「おお、ありがと〜」
手渡されたのは淡いサーモンピンク色が可愛い、手のひらサイズの袋。
触った感じビニールじゃなくて、柔らかい布袋のようで……ちょっとお高めか、何か良い感じの物の予感。
透けない質感の生地だけど、中に箱状のものが入ってそうなのがなんとなく形で分かる。
ここで唯の方をチラッと見ると、なにやら企み顔。
(彼もまた、受け取ったら目の前で開けてほしいタイプ、と……)
たまにいるじゃん?家帰ってから見てね!のタイプ。
でもこの彼の場合も見ちゃって良さそう……
いや、むしろ見て欲しそう……
「中身見ていい?」
「どうぞ〜」
やっぱり。
「なんだろ……」
ガサゴソガサゴソ……
「……」
テレレレテレレレ、テレレレテレレレ……
「……」
ご〜ま〜だ〜れ〜♪
「……?キーホルダー?」
可愛いな、おい。
彼の事だから香水とかネックレスとかそういうませてる感じの物かと思いきや、キーホルダーて。
ハイラル人もびっくりだ。
チェーンの先に横を向いたシルバーの猫がついている。
目にはダイヤモンド……いや多分、もどきのキラキラした石が埋め込まれていて。
(あっ)
その尻尾の妙なS字型具合……これ、あれだ!二人分合わせるとハートになるやつだ……!
(おうふ……)
これまた素晴らしい爆弾をいただいたようで……
かと言ってつけない訳にはいかないしなぁ。
どこにつけよう?ここは無難に通学鞄?
「あ、ありがと〜」
「どういたしまして。じゃ、俺はここで……お買い物行くところごめんね、気をつけてね」
「うん、姉小路君もね〜」
買い物中のおかげで、さっさと会話を切り上げることに成功。
キーホルダー同士くっつけるとかそういった話はせずに済んだ。
(もらっちゃったこれは……後でどこかにこっそりしまっとこう)
つけるとは言ってないからね。
受け取ってはいるけど、鞄につけるとは一言も言ってないから……
なんてことを考えているうちに、気づいたら帰宅完了。
家まで歩いたつもりはなかったけど、ふと気づいたら景色が切り替わっていた……もしかしてワープ?
「あら早いわね、おかえりなさい」
玄関を開けるなり声がした。
「ただいま〜」
靴の踵同士引っ掛けて脱ごうとしたけど、断念。
まだ靴が新しいのか、足がすっかり嵌っちゃってて。
仕方なく、横着しないで脱ごうと屈むと……視界の外、上の方からこっちに向かってニュッと手が伸びてきた。
「ちゃんと買えた〜?」
靴を脱ぐ手を一旦止めて、下向いたまま醤油のボトルを投げるようにパス。
「はい、ありがと〜」
すぐ受け取りに来たところからして、のんびりした口調の割に結構緊急だったらしい。
「外出たんだから、石鹸使ってちゃんと手ぇ洗うのよ〜?」
「は〜い……ってあれ?いない……」
靴脱ぎ終わって顔を上げた時にはもう姿がないっていう……移動早っ。
「うがいもね〜」
パタン!とどこかの扉が閉まった音がした。多分キッチンだろう。
「へ〜い」
懐かしいやりとりだ。
大人になった今じゃもう、全然聞けなくなってしまった……




