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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
135/165

21-4-3.ガムテープへの厚過ぎる信頼

 


 コン!コロコロコロコロ……


 突然、何か小さい物が床に落ちる音がした。


 音の出所ははっきり分からないけど……多分ここからそんなに離れてない。


「あれ?誰かまだ残ってんだ?」

「みたいね」

「市ノ川があれほど必死に注意して回ってたのに……まだいたんだな」

「ん?そういや唯も帰れって言われたんじゃ……?」

「言われて大人しく帰ると思う?」


(いっちー……)




 コンコン!コロコロコロコロ……


「また……」

「まただ……」


 めっちゃ落とすやん。




 カン!カンカラカンカラカン!


「……俺、見てくるよ」

「私も行く」

「え、すぐそこだから……」

「ううん、私も気になるから行く」

「多分廊下の角曲がったとこ……ほんとにすぐそこだと思うんだけど……」




 彼について行く形で一緒に廊下の角を曲がると、そこには……


「あ……」


 怯える子犬……じゃなくて、怯える青年がいた。

 紫色の髪の、あの……


(久々過ぎて忘れてた!ここでちよちゃん来るか……!)


 バッティングは嫌だからってあれほど焦ってて……で、結局かち合うっていう……

 まだ大人しめというか、マシな組み合わせではあるけど。




「あれ、そのバッジ……一年生じゃん。なんでこの階に?」

「え、ええと……教材室にコンパスをしまいに……」


 彼の手には懐かしのクソデカコンパスが。


 木でできた、黒板とかホワイトボードに円を描く時用のコンパス。

 大体経年劣化でネジが緩んでユルユルになってるやつ、あれな。


 例に漏れず、今ちよちゃんが握りしめてるのもヨレヨレのぐにゃんぐにゃん……


 手を離したら速攻で二本の棒が曲がっちゃ駄目な方向に曲がっちゃうやつだ。

 ピースの形してなきゃいけないのに、人の足みたいに前後に動いちゃうやつ……




 コン!カンカラカンカン……


「あぁ……っ」


 か細い悲鳴が上がった。


 見ている目の前で、コンパスの足先についた金具が落ちて転がっていく。

 音の正体はどうやらこれだったっぽい。


「ああ、また……」

「どうしたの?緩いの?」


 ちよちゃんの方に駆け寄り、コンパスの具合を見る。


「……なるほど」


 二本の足の先にそれぞれ針とチョークを挟む用の金具がついていて……その針の方の金具がさっき取れたらしく、固定がなくなった針が今にも落ちそうにグラグラしている。


 もはやネジが効かないほど劣化していて、それでもどうにかガムテープを貼ってその金具を止めてたけど……って感じらしい。なるほどなるほど。


 浮いたガムテープがぷら〜んと貼り付いてて、まさに今さっき取れました感がすごい。


(いやこれ……ガムテ程度じゃ駄目だと思うんだけど……)




「あの……何か分かりました……?」


 ええ、分かりましたとも。色々駄目って事が。


「ええ〜と、どうすっかな」

「……」

「ネジはもう駄目……ならしょうがない、教室にガムテープあった気がするから新しいの巻きつけとこっか。持っていく間くらいなら持つと思う」


 ザ・応急処置!


 後の事は……知らん!

 ほんとはもっと本気で、留め具から何から根本的に交換したり修理したりしなきゃいけないパターンだけど……なんとかなるっしょきっと!

 だってこれ、イベントだし。




「あっ」


 教室に戻ろうと体の向きを変えたところで、やっと失態に気づいた。


「静音ちゃん、その人誰?知り合い?」


 いつもよりやや険しい唯の声が、失態を確信に変える。


 さっきの話の後にこれ……!

 他の奴と近過ぎって言われた後にこれ……!


(し、しまった……!)


「え?え、ああ……うん、知り合い……だよ」

「へ〜。下の学年にも知ってる人いたんだね」

「う……うん。ま、まぁね〜」

「部活やってないから、てっきり同学年しか付き合いないのかと思ってたよ」


(うっ)


「あ、あはは〜そうなんだよ〜」

「バイトだって、確か静音ちゃんが最年少なんでしょ?前言ってたよね」


(むっ)


 まずい、知り合いでいる理由が……!

 学年違う、部活の後輩でもない、バイト先の関係でもない……となると、もう説明できない……!


 これ、恋愛がらみだって悟られちゃう……!


 ピーンチ!




「あ、あの……」


 お、ここで助け船が……?!


(って……!し、しまった……!)


 ループじゃないよ?これは二回目。

 同じ発言だけど、今度は……今話しかけてきたちよちゃんに対して。


(わ〜!『静音ちゃん』って呼ばれてる場面、バッチリ見られた〜っ!)


 前髪がもっさりしてて……その表情はいまいち読めない。

 けど、雰囲気的にはそこまで何か変化があった訳でもなさそう……か……?


(ただの仲の良い先輩達って思われてるだけ……だといいけど)




「どうしたの?」

「あの……知り合ったきっかけの事、なんですけど……以前、困ってるところを助けてくださって……その後も何かと色々ご相談させていただいているんです」

「助けた……?静音ちゃん、すごいね」

「ま、まぁ……ね」

「でも、静音ちゃん話聞くのうまいもんな〜。そりゃ相談したくもなるかぁ」

「そう……ですね、ほんとは同じ学年の人とかに相談できればいいんですけど……」


 風が吹いたらかき消されそうな声量の小ささ……気が弱いところは相変わらずのようだ。


「その……なかなか親身になって聞いてくれる人がいなくて……それから度々相談させていただいてます」

「へぇ、そうなんだ〜」


(お、おう……せやな……)


 同学年に仲良い人いないからって、何の繋がりもない上の学年のよく知らない人に相談……なんて、普通ないと思うんだけど……

 それについて特にツッコミはないようで……流石は乙女ゲーム、なんでもありの世界だ。


(むしろなんか納得しちゃってるし)




「……静音ちゃん?」

「え?あ〜、いや……昔そんな事もあったなぁ、って色々思い出しちゃってさ」


 嘘乙。


「あの時は入学したてで頼れる人が周りにいなかったので……本当に助かりました……」

「あ〜分かる〜。最初って心細いよね〜」

「誰でもいいから、藁にもすがる思いで……」

「……」

「あっいや、誰でもいいって先輩がどうでもいいって訳じゃないんですけど……」

「分かるわ〜」


 三人の会話ってごちゃごちゃになるよね……っていうか、現在進行形でなってる。


 一応解説しとくと……

 軽くてなんか間延びしてる感じの話し方が唯、言葉と言葉の間が長くて敬語なのがちよちゃん……そして、その残りが私。


「心細いって……唯もそういう時あるの?意外〜」

「え?そりゃあるよ〜」

「例えば?」

「例えば、う〜ん……初めてクラブ行った時とか?」

「く、クラブ……?!」


 サラッと言うけどなかなかのパワーワード。


「ええっ?!ハイになって踊っちゃったり……するの……?」

「俺?」

「うん」

「ははっ、しないしない。付き合いでついてくだけだから、付き合い程度にちょっと飲むだけ」


(いや、飲んじゃ駄目だろ未成年……)


 ちよちゃんは不安そうにひたすら私と唯の顔を交互に見ている……




「そうかそうか……変に突っかかって悪かったね、ごめん」

「いえ、僕も突然すみませんでした……」


 お、仲良し?


 ちよちゃんと唯、全然タイプの違う物同士の不思議な組み合わせだけど……意外と合うのかも?


「……ところで君さ、好きな人いるの?」


 前言撤回。おい!!!


「……え?」

「あ、違うの?相談って言うから、てっきり恋愛関係かと思った」


 初対面ですごい事言う。


「女の先輩に相談なんつったら……もしかしてそういう系なのかなって思って……俺の勘違い?」

「恋愛相談では……ないです……」

「そうなんだ。二年生の誰か好きな人がいて……とかそういう話かと思っちゃった」

「いや……違います……」

「なら良かった。静音ちゃんの事気になってて、探り入れてるとかだったら……俺とライバルって事になっちゃうもん、焦ったわ〜」

「……」

「いや〜、早とちりだったわ」


 わ、わ〜……露骨ぅ……


 きっとこれ、好きかどうか探り入れてんでしょ?

 そして、流れるように今度は釘を刺す……


「……」


 あれからちよちゃんの返事はない。







(……あ)


 ブブブ、と誰かのスマホが鳴った。


 私のかと一瞬思いかけたけど、振動がなかったから多分違う。


(となると……)


「ん?俺……?あっやべ、姉ちゃんだ」

「あらま、なんか用事かな?」

「やべ、頼まれてんの忘れてた……!ごめん、今日はこの辺で!じゃ!」


 それだけ言って唯はそそくさとどこかへ行ってしまった。


 何忘れたんだから知らないけど、その焦りよう……姉ちゃん怒ってんぞ〜きっと。




「……で、では……僕もそろそろ……」

「待って」


 待ちたまえ。


 君にはまだ渡せてない……つまり、このイベントが終われない。


(これを渡したら終わるんでしょ?さぁ、これでフィニッシュを……!)


「あ、あの……ガムテープの場所は探せば分かると思うので、後は自分で……」

「いや、違くて」


 わざとらしく間を置いたけど、手は全く動かず。

 まさかもらえるとは思ってないらしく……受け取る雰囲気にはなりそうにない。


 これが他のキャラ……といってもいっちーは駄目そうだけど……だったら、なんとなく察して、受け取れるように多少身構えてくれるんだろうけど。

 このまま無理矢理手に渡そうとたら、多分そのまま落ちるパターン。訳も分からず。


「……?まだ何か……?」

「はい!」


 仕方なく、勢いよく彼の目の前にチョコを突き出す。


「……!こ、ここ、これ……って……!」


 見た目の通りでございます。


「……あ、あ、えっと……!」


 あまりに急にじゅわじゅわと赤くなるもんだから、いつか見た溶鉱炉の鉄の映像が脳裏に……

 あれとは違う赤さなんだけど……その色付き方が似てる気がして……


 一応攻略キャラなのに例えが鉄ってごめん。

 でもやっぱり似てる。なんか似てる。


「あ、あの……あ……あああ、ありがとうございますっ……!」


 それだけ言ってダッシュでどこかへかっ飛んで行った。

 それはもう、まるでライオンから逃げ出すシマウマみたいな素晴らしい走りで……


 前髪のおかげで表情はほとんどよく分からなかったけど、赤いのだけは分かった。

 もっと言うと赤くなるほど……なのは分かった。超分かった。


(しっかし今の早かったな……)


 なんか普段運動してるのかな?


 走り方が速い人の走り方だったから。

 モタモタ……じゃなくて、シュタタタ!みたいな。


 何かやってるのかもしれない。

 運動苦手そうな見た目だけど……人は見かけによらないって言うし、ね。




(あ、ちょうどここで……いつもの、が……)


(今のでやっと、終わったんだ……今回の、イベントが……)


(意識、が……遠のい、て……く……)


(……)



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