3-2.さらっとエグい事言う〜
待てよ。でも……という事は、だ。
「って事はつまり……『迷い人』から告白されるまでは、何してもいいって事……?」
普通の乙女ゲームと違って必死に好感度稼ぐ必要がない、このゲーム。
好感度なんてどうせそのうち溜まるし、わざわざ誰かのルート選んで攻略……なんてしなくていい。
って事は……逆ハー三昧って事じゃん?!
最後の告白だけ気をつければ……あとはもう細かい事考えず、好きなだけ楽しんでいいって訳じゃん?!
テンション上がってきた!フゥ〜!
元の世界に帰れるって確定した今、なんの懸念も心配もない!
この私を縛るものなんて何もない……!つまり、やりたい放題!
イケメンに囲まれたキラッキラの学園生活を、心ゆくまで満喫できる!
(やば!最高かよ……!)
なにこれ乙女ゲームかよ!いや、乙女ゲームなんだけどさ!
例えば、ほら……
『やめて!私のために争わないで……!(トゥンク)』
『そんな事言われても……!私には、決められた人がいるんだから……!(ドキドキ)』
「……みたいな!そういうシーンがさ!あったりしちゃうんだろ?!」
「お〜い……」
「え〜やば!途中で帰りたくなくなったらどうしよ〜!」
「おいっ!」
「うわ、びっくりした!急に大声出すから……」
「君の方が断然やかましかったぞ」
「で、何?」
「なんだか盛り上がっているところすまんが……残念ながら、君の言う逆ハーレムとやらは駄目じゃ」
が〜ん!
今時死語だけど、思わず無意識に口から出ちゃうくらいショック。
「え、いやほら……一応『迷い人』の誰かさんのエンディング目指せって事だったから、別にハーレムエンド目指したいって訳じゃなくって、だよ?」
「うむ」
「だからそうじゃなくて、今のはその途中経過でハーレム楽しもうって話だったんだけど……」
「駄目じゃ」
それも駄目なの?!
せっかく五人もイケメンいて?!せっかくみんな好感度上げやすいのに?!
あんな逆ハーレム目指してくださいと言わんばかりの環境で?!
(わ〜ん!私の逆ハーレム計画〜!)
「で、でも……なんで?」
「君はこの世界を救うための存在であり、傍観者。あんまり夢中になって、彼らとの恋愛にのめり込んではいかん」
え〜、あくまで傍観者に徹しろって事?ちぇっ。
「でも、でもさ。逆ハーレムするなっつったって……攻略キャラ五人いる訳だし、学園生活一緒に過ごす訳だし……どうしたってときめいちゃう時とかあるじゃん?」
「それはまぁ仕方ない……じゃが、それに乗って君の方から好意を示すのは絶対に駄目じゃ」
……?ん、ん〜?
(あ〜……なるほど。なんとなく感じが分かってきたぞ……)
何かときめくようなシチュエーションが来ても……それに反応して『好き!』って言っちゃったりとか、自分から彼らに何か好意の分かるような事(なんだろ、ハグとか?)しちゃ駄目って事か。
まぁ、それもそうか。そこまでやったら……引き際を見失っちゃうもんね。情が移っちゃうもんね。
だから、あくまで傍観者らしく常に受け身でいろと。
(なるほど、そういう事かぁ……)
まぁ受け身でいたって、イケメンに囲まれてりゃ逆ハーレムって事に変わりはないんだけど……なんか、それじゃあ味気ないよなぁ。コレジャナイ感がすごい。
「ん?あれ?そういや……逆ハーレムがどうのなんて声に出してたっけ、私?」
「ああ、心の中でな」
「ナチュラルに人の心を勝手に覗くな!」
「おお、すまんすまん。神じゃから、全部筒抜けで聞こえてしまってのぅ」
「なんだよ、変なところだけ神様ぶりやがって!」
「神様ぶるっていうか……ワシ、神じゃぞ?」
「うっさい、じじぃ!」
「じ、じじぃ……」
なんかショック受けてるらしいじじぃ……じゃなかった神様は、スルーするとして。
ともかく、逆ハーはNGらしい。
私の野望が……ううう……
「おほんっ!ともかく……いずれ好感度が貯まり、五人全員から好かれるようになる。そうなったら、彼らは君の気を引こうとあれこれ仕掛けてくるじゃろう……」
「……」
「じゃが、君はその気になってはいかん。きちんと自分を律し、常に『迷い人』の事のみを考えて行動するように。よいな?」
お、おう……
「いかなる状況であろうとも、君はあくまで他の世界の人間……この世界の傍観者であるという事を忘れてはいけないのじゃ」
そりゃそうだけど。そうなんだけどさ。
だけどさ……
ううう……
私の逆ハー計画……私の楽園……(まだ言ってる)
「それと……『迷い人』以外からの好意は、分かり次第完全に断つんじゃぞ」
「へ?好意を……断つ?」
「危ないからのぅ。『迷い人』以外からの告白は、全てはっきりと相手に断りの意志を伝えるように」
え?告白保留して、ほどほどの距離感とか狙っちゃ駄目な感じ?
よく言えば曖昧な関係、悪く……というか直球で言うならキープ。それすら駄目って事?
「え〜っ。その辺はなんかさ、こう……ゲーム終わるまでなんとなく誤魔化し続けてちゃ駄目?」
きゃっきゃウフフはしっかり(?)しつつ、お付き合いとか真面目な話はうまくかわして……みたいな。
なんか遊び人みたいな言い回しだけど。
「うまくこう……最後までなんとか五人みんなと仲良く……とか、駄目?大団円エンドとかさ……」
「駄目じゃ」
が〜ん!本日二回目。
「ほんのわずかであっても、間違った選択をする可能性がある限りは決して安全とは言い切れない。だから、危険な要素はきちんと潰しておきたいのじゃ」
わお。『潰す』とか、まさか神様の口からそんな物騒なワードが飛び出すとは。
「だから……どんなに可哀想だろうと、君がどんなに心を動かされようとも、『迷い人』以外からの好意はどこかのタイミングで絶対に断わらねばならん……相手を絶望の底に突き落としてでも、な」
ん?ん?ん〜?
今、なんかすごい事言ったな?サラッと結構エグい事言ったな?
「恋愛は心の動き。君達自身ではどうしようもない、生命としての自然な衝動。それを無理矢理コントロールするという事……それは君達人間にとって、なかなか惨いことなのは分かっておる」
「……」
「じゃが……これは仕方のない事なのじゃ」