20-3.みんなの心にチンチラが(いません)
心のチンチラ……そう、心の中にチンチラ飼ってるってだけであって、別に全然下品な話とかじゃな……うわなにをするやめr
「バイク事故……あ、あ〜!もしかして、あれ?意識不明で重体とかってやつ?」
「そう!それ!」
「あ〜、あれかぁ」
「そう!だから、私……てっきり……!」
てっきり死んじゃったかと思って……!
居ても立っても居られなくて……それで……!
「いや〜、あれさぁほんとわざとらしいよね〜?俺でもすぐ分かったもん」
うん……?
「わざと……?」
「うん。結局、そんな事しても視聴率大して上がんなかったんだってさ」
視聴率???
「あれ?知らないの?あの『天国のアイツへ』ってドラマ」
知らんがな!!!
「あれ?知らない?」
「ご、ごめん。ちょっと分かんないや……」
「え〜?今テレビでやってんじゃん、下校中にいきなりトラックに撥ねられて〜ってやつ」
だから知らんて!
そんな、ね?知ってるでしょ?って顔されても……
「『幼馴染みの彼とはいつもずっと一緒だった。だから当然、これからもずっと一緒にいられると思っていた……そう、あの時までは……』って、なんか主人公の独り言……そ〜ゆ〜のなんつうんだっけ?どくはく?」
そう言って、いきなり視線で私に尋ねてくるもんだから……とりあえず頷いておいた。
「……まぁ、なんかそんな感じで話が始まるやつよ」
よく分かんないけど、大事な人を突然亡くしちゃう系?
「ほら、最近CMそればっかやってんじゃん。その冒頭の事故のシーンばっかで……」
いや、だからそう言われても知らないんだってば。
「あれぇ?うっそ、まじ?ほんとに知らない?」
「うん、知らなかった〜」
「そう?まぁいいや、とにかく……その後主人公が『僕、本当はアイツのこと好きだったんだ』って気づいて、魔法で時間を巻き戻して気持ちを伝えに行く……みたいな?そんな話だよ」
「へぇ、面白そ〜」
え、なにそれ普通に面白そう。
やり直しのお話かぁ……いいなそういうの。
下校って事はきっと学生、つまり青春の話でしょ?
甘酸っぱい恋とかさ、色々キュンキュンするようなエピソードがあるって事でしょ……?
いいねぇいいねぇ。
……ん?『僕』?
あれ、待てよ……さっき幼馴染みの『彼』って言ってなかった?
(おや?)
『僕』『アイツのこと好きだったんだ』……?
あれ、これって……もしかして……?
七崎の脳内に電流走る……!
「だけどなぁ……こういうのもなんだけど、二人の思い出の回想シーンがもう、なんか彼氏彼女の会話なんだよなぁ」
(おや?おやおや?)
「『青春友情物語!』とか謳っておきながら、な〜んか違うっていうか……友情超えてるっていうか……」
(おやおやおや……?)
「男同士のはずなのに、なんか違和感すごいんだよあれ。喋る時やたら距離近いし……」
はい、確定しました。何がとは言わないけど。
(いや、でもな……三次元だもんなぁ……)
リアルなやつはちょっと……二次元よな、やっぱりそこは。
「あ、そうだ!ちょっと待って、漫画の方探すから……えっと……」
そう言ってスマホを弄りだした唯。
「え?漫画の方って?」
「そのドラマ、元々漫画でさ……もしかしたらそっちなら知ってるかもって思って」
いまいちピンと来てない私のために、ネットで画像を検索して見せようとしてくれているようだ。
「あ、ほらほらこれ!」
(あ)
一目ですぐ分かった。これはやばいと。
気が強そうだけど色々なところ()が弱そうな吊り目男子と、雰囲気穏やかだけど若干メンヘラ入ってそうなタレ目男子……!
それも、どっちもちゃんと年相応の骨格してるやつ……!
受けって、結構な確率で女子みたく華奢に描かれがちだけど……これは普通にどっちもそこそこガタイが良い……!
そういう層向けのやつだ……!
キラキラできゅるんきゅるんの恋愛❤︎とかじゃなくって、友達のつもりが事故ってうっかり始まっちゃうやつだ……!
本人達的にめっちゃ不本意なやつ……!
一般受けするか微妙だけど、一部にめちゃくちゃブッ刺さるやつだこれ……!
(ひぇ……!主人公も相方もどちゃくそ好み……!)
偏見だけど、主人公は首筋とか耳とかあちこち弱くて大変そう。色んな意味で。
反対に相方の方は、いかにも重そうで依存してるように見せかけて、あの手この手でうまく依存させてそう。めんどくさそう(褒め言葉)。
(ぬ、沼が……!私を誘っている……!)
見える、見えるぞ……沼から出る無数の手が……
手招きしてる……私を呼んでる……
「まじか……本当に全然知らない感じ?」
(はっ!)
ここでスッと唯がスマホを引っ込め、私の意識は現実に引き戻されていく。
「え?」
ごめん、なんだっけ。
突然現れた沼に興奮し過ぎて会話飛んじゃった。
「漫画の方も知らない?」
「あ〜……うん、ごめん。全然知らないや」
「そっか、ざんね〜ん」
ありがとう唯。
君のおかげで、新たな沼にはギリギリハマらずに済んだよ……
しっかし、どこ行っても油断もへったくれもないな!
一寸先は沼!(?)気をつけないと!
「静音ちゃんって……ほんと、漫画好きなんだね」
「え?まぁ好きっちゃ好きだけど……なんで?」
「今の、ちょっと見ただけで元気になったから」
「そう?」
「うん。最初ここ来た時すごい顔真っ青で、目もなんだか虚ろで……本気で具合悪いのかと思ったよ。ああ、良かった……」
「唯……」
「そうだよね、やっぱ普通そうだよね。仮病使ってサボりに来ただけだもんね、良かった良かった」
む?聞き捨てならんな?
「いや、別に仮病じゃ……」
「え?違うの?」
いや、そんな純粋な目で見つめられても……
「いやいやいや……ってかむしろ唯、仮病使ったりしてるの?」
「え?いつもそうだよ?」
そ、そんなあっさり……
「え?だってだって先生が〜、具合悪くなきゃ保健室いちゃ駄目って言うんだもん」
そりゃそうだ。
「たま〜に追い返されそうになった時は、カイロでおでこあっためて熱出た事にして来るんだ〜」
「えええ……」
「あとそう、運良くこめかみのおできからすごい大量に血が出た時があって〜。どっかで頭ぶつけたって言った事もあるよ」
え、えっと……どこから突っ込んだらいい?
「そ、そっか……」
「うん。だからよくある話だよ」
「う、う〜ん……人による、かな……」
仮病じゃなくって本当に具合悪かったんだけど……
でも彼のいう通り、もうすっかりいつもの自分が戻って来ているようだ。
彼の無事が分かって安心したおかげで。
あの凹みモードの自分はどこへやら……こんな単純でいいのか私。
(無事ならなんかもういいかなって……駄目?)
しかも、だ。
そうやって安心した上に、今度はBLの……それも結構アレなお話が供給された……
そりゃあもう、元気にならない訳がないよね!心のチン……チラが!
可愛いよね、うさぎみたいでネズミみたいなあのモフモフ。
え?下品な話?してないですよ〜やだな〜。
「で、話戻すけど……なんか〜、原作描いてる人が元々B、B……なんだっけあれ、男同士の……」
「BL」
「あっそう、それそれ!静音ちゃんよく知ってんね〜!」
(しまった……!)
自分にとっては当たり前過ぎて、いやいやそんなの常識でしょ!ってくらいの勢いで答えちゃったけど……これ多分、いや絶対冷静に考えて全然常識じゃない……な?
周りにオタク友達しかいない生活うん十年続けてたら……もはや正常が分からなくなってきつつある……
(でも、多分……そう、なはず……)
「……」
「……」
まずい、これ以上深掘りされたら……本性がバレる……!
「……」
「……」
(ドキドキ)
別に、ここでバレたからってどうかなる訳じゃないんだけど……
だってここ、何度も言うけどゲーム内だし?
もしやらかしてもどうせいつか元の世界に帰っちゃうんだし?
でも、しばらく気まずくなるっていうか……なんていうか……
いや、やっぱそう考えると影響あるな?結構でかいな?
「で、それでさ〜……」
(せ、セーフ……!)
散々焦ったけど、即答したことに対する突っ込みはなかった。
空気読んでくれてありがとう、唯。
今のは流石に無意識だろうけどほんとありがとう。
それでさらに、初めて聞く単語を尋ねてくる子供みたくキラキラした目で、それどこで知ったの?!なんて聞かれちゃった時にゃ、もう……
「んで、普段その……BL?描いてる人だとかで、最初っからなんかず〜っと変な雰囲気なんだよね」
「変な雰囲気?」
「さっき言った距離近いのもそうだし……棒アイスは食べずに長々しゃぶってるし、シャワーやらプールやらやたらと濡れるシーン多いし……」
「ほう、ほうほう……詳しく?」
(回想多すぎでしょそれ?!)
「……静音ちゃん?」
あっ、いっけね!本音と建前逆になっちった!(๑˃̵ᴗ˂̵)てへ⭐︎
「あ、いやぁ〜その……普通に面白そうだなって思って、つい前のめりに……」
「……」
(うっ。反応が微妙……)
ドキドキドキ……
「で……でも、やけに回想多いね。そればっかりじゃ話進まなくない?」
「そう、そうなんだよ!主人公のやつ、過去を思い出してばっかりで肝心の現状の話が薄っぺらでさ……」
ギリ回避……!もう、そんなんばっか!
「しかもさ、一番意味分かんなかったのは……主人公が風邪引いたからって、まさか二人一緒に布団に入るなんて……」
ベッドに二人、ぎゅうぎゅうに?!
男二人、狭いベッドの中で密着……?!触れ合う肌と肌……?!(※言ってません)
火照り汗ばむ二人の身体、そして至近距離の荒い吐息……!(※だから言ってませんってば)
(な、なんと……!けしからん!けしからんぞ!)
「ん?どうしたの?息が……」
これは鼻息荒くならざるを得ない……!
「あっごめん、今ちょっと風邪気味で鼻詰まっててさ……フンスフンス!」
「え、大丈夫?」
「へーきへーき!それより私、続き聞きたいな!」
いいから続きを!続きはよ!
「え……あ、うん。大丈夫ならいいけど……」
続きを全裸待機!服着てるけど気持ちは全裸!(?)
「え〜っと……それで……」
「うん、それで?!」
フンスフンス!フンスフンス!




