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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
125/165

20-2.棚があるととりあえず全部調べがち

人ん家の戸棚は勝手に覗くわ、ゴミ箱は平気で漁る、壺がありゃバリンバリン破壊する……

RPGあるある……ですよね?

 


 運動場から保健室までの行き方は大体分かる。

 体育祭の時に連れてきてもらった時の景色、なんとなく覚えてるから。


(ここを曲がって……と)


 そうそう。あの時は唯に抱えられて、心臓バクバクになりながらここ通ったんだっけ。


(あの時、か……)


 ああ、また。


 な、泣いてないよ?

 ただ……視界がなんだかやけに霞むもんだから、擦らずにいられなくて。


(……)


 ……ほんとだよ?泣いてないよ?


(あれ、ちょっと目から汗が……なんちゃって)







 しばらく記憶と相談しながら歩く事、数分。

 若干目がヒリヒリしてきたところで……


(あ!)


 突如、明らかに他とは違う白っぽい部屋を発見。

 明らかに壁が白い。いかにも保健室って感じの純白。


(ここ……っぽい?)


 部屋の前、視線を上げて室名の札を探す。

 廊下にピョコンと出てるやつ、あれね。


(『保健室』……やっぱここだ)


 思っていたよりすぐ近くにあった。いや、むしろ近過ぎなくらい。


(こんな感じだったっけな……?)


 あの時、ドキドキしてて実際より長く感じたとはいえ、もっと時間かかってたはず。


 なのに、今のは保健室の方から近づいてきたんじゃないかって思うくらい近かった。


(流石にそれはないと思うけど)




「し、失礼しま〜す……」


 恐る恐る引き戸を開けると……

 電気はついていたけど、先生は留守のようで。


「……」


 机の上に、『すぐ戻ります』とだけ書かれたメモが置いてあった。


(お。これ、もしかしてチャンス?)


 いつ戻ってくるのか分かんないのが気になるけど……でも、これならいい感じに誰にも気づかれず脱出できそうな。


 イベントサボるなんて、あの爺さん的には大問題かもしれないけど……こんな状況だし、今は許してほしい。


(いや、むしろそれで怒って私に話しかけてきたらチャンス……唯の状態はっきり聞けるかもだし)




 堂々とサボる女、七崎。むしろ開き直ってるまである……


 私が本当に高校生の頃は、結構真面目な方だったから……サボりなんて、多分した事なかったと思う。

 むしろサボる人を見て、なんて悪い奴!なんて言って怒る側だった。

 色々と知恵がついたのは、もっと後の話……


 だって言うのに……こんな同じ高校生の姿で、同じように授業受けてて。

 でも、今ならこんな悪い事も全然平気でできちゃうんだよな……なんて、思ったりして。

 図々しくなったともいうけど。




(で?え〜っと?)


 足音を忍ばせながら、目的の場所を探す。


(どれどれ、出口は〜?)


 気分はまるで泥棒だ。別に何か盗むわけじゃないけど。


(お!あったあっ……オオゥ)


 出口らしき扉はあったにはあったけど……しっかりと鍵がかけられていた。そりゃそうか。


 残念。仕方ない、今度は鍵探しだ。

 そうこうしてるうちに先生帰ってこないといいけど。


(薬品棚は……全滅か)


 ゲームの世界なんだし、こういうの見ちゃうとつい部屋中の戸棚を片っ端から開けたくなるけど……


 残念ながら全部の戸にちゃんと鍵穴が付いていて……見た感じ、多分全然閉まってそう。


(ちっ、駄目か〜)




 という訳で向かったのは、ベッド。


 平行に三つ並んだベッドのうち、一箇所だけやけにきっちりキツくカーテンが閉じてて、露骨にそこだけ『何かありますよ〜』オーラが出てるから。


 ここまで露骨に怪しいのも、なんか気持ち悪い。

 気乗りしないけど……多分見ないとイベントが進まないってことなんだろうな、これ。


(……)


 それに、ほんとに誰か具合悪い人が休んでるだけかもしれないし。


 でももしそうなら、寝てるとこ覗いちゃって申し訳ないけど……まぁ、チラ見程度ならきっと許してくれるっしょ。

 だってここゲームだし、ね?







 唾を飲み込み、呼吸を整えて……


(……えいっ!)


 シャーッ!


 しっかりと閉められたカーテンの端を掴み、左右に勢いよくオープン。


 案の定、まず視界に入ったのは真っ白なベッ……




「やぁ⭐︎」




 えっ。




 目の前にはにへらっと笑う青年が一人……ベッドの柵を背もたれにして、両膝立てて座っている。

 手には何かの漫画本。


「えっ、ゆ……?え、えっ?え……?」

「ん〜?」


 いや、『ん〜?』じゃなくって。『ん〜?』じゃなくってさ。


「え、え、あ……え……?」

「……?」


 ちっが〜う!『ん〜?』が駄目だからって無言で首傾げても駄目!


 可愛いけど!可愛いけど、そうじゃなくって!


「ゆ、ゆゆ、唯……?!え?ほんっ、ほ、ほんとに……?!」

「……?唯ちゃんだよ?✌︎( ¨̮ )︎︎❤︎︎︎︎︎」

「え、ああ、うん……」


 知っとるわっっっ!!!


 君が唯ちゃんなのはもう重々知ってるよ!可愛いのも知ってる!


 そりゃもう、めちゃくちゃ知ってる!知ってるけど……!


「✌︎( ¨̮ )︎︎?」


 あとそのポーズやめて?

 頭弱そうなチャラ男のピースっていう要素、ピンポイントで私に効くからやめて?


 アホ可愛いを前面に出してこないで?可愛いが過ぎるから軽率にやるのやめて?




「えっ?!なっ、え……?!」




 え?え……どういう事……?




 え、これ……




 い、




 い、い……




 生きてる……って事?つまり無事って事?







「えっえっ、何、なん……えっ?」

「しっかし珍しいね〜静音ちゃんもここ来るなんて。ここおいでよ」


 まさか死んだと思われてたとはつゆ知らず……

 いつものゆるいノリでぽんぽんと自分の横を手で叩き、座るよう促す唯。


「え、えっと……?え……?」


 この場の色々なことに対して頭がまるで追いついてないけど……あんまりナチュラルに誘導するもんだから、気づいたら彼の横に座っていた。体は正直(?)。


「せっかくだし、添い寝したげる」

「……」

「……?どうしたのさっきから?なんかやばいもん見ちゃったみたいな顔して……」


 いや、だってやばいもん見ちゃったんだもん。見ちゃってるんだもん。


「え、なん、なんで?無事なの?やっぱ別人ってこと?なんで?」

「へ?なんて?」


 そしてこの支離滅裂具合である。


 うん、自分でも何言ってるか分かんない。ほんとごめん。


「え?なん……えっ?」


 攻略キャラが死ぬ訳ないと思いつつ、あの噂は本人かもしれないって思う気持ちが強過ぎて……私の心の奥底ではもう駄目だとばっかり思っていたらしい。

 脳内絶賛大混乱中。


「生きてる……の?」

「……?え、そりゃ……生きてる、けど……?」


 そもそも死んでたら、こうして呑気にお喋りなんてできない訳なんだけど……

 混乱してる女とアホの子、それを冷静に指摘できるような人なんて誰もいなかった……


「え、なん……え、バイクは?」

「バイク?」

「バイクで……なんか派手に事故ったんじゃ……?」

「事故?え……なんのこと?」

「え……?」


 少し落ち着いてきた脳みそに、ようやく視覚情報が流れ込んできた。


 普段通りのどこも変わってない、唯の姿が目の前にある。

 ほんとに全然元気そうだし、いつもの感じだし……怪我なんてしてなさそう。


(……?)


 え、えっと……これは……よかった、んだよね?

 これ……つまり噂は別の人で、彼は無事だったって事……だよね?



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