19.ピアノがあるお家大体豪邸説
いつもつい癖で善人プレイしちゃって、なかなか生スタァァップ(?)が聞けない……
お喋りで可愛いよね、あの世界の衛兵さん達。
「ガード!ガード!」ですっ飛んでくる方も膝に矢を受けてる方も、どっちも好きです(言い方)
目覚めたら目の前は綺麗な夕焼けだった。
住宅地、コンクリートの道路を歩いている……学校帰りかな、これ?
よく分からないままぼーっと歩いていると、急にスマホが鳴った。
(お、秋水だ)
「もしもし〜?」
「……今、家?」
「ううん、今帰ってるとこ。どうしたの?」
「今週の土曜日……なんの日か知ってるよね?」
「へ?」
知ってるよねって……いや、知らんがな。
今週土曜?祝日でもなんでもない普通の土曜日だけど、何だろ。
初詣はもう終わったし、じゃあ……バレンタイン?
でもそれなら恋愛絡みだし、もっと他のキャラだってもう少しグイグイ主張してくるはず……
う〜ん、全然分かんない。
「……まぁいいや。ともかく、来てよね」
「えっ?!なん、え……どこに?!」
話の流れが急過ぎる。
「どこにって……はぁ〜〜〜……僕の家だよ」
電話越しにクソデカため息聞こえたけど……いや、だから分からんて。そんなの知らんて。
「え、神澤君の家?」
「いいから!」
「え?え?いや……なんで?」
「うるさい!理由なんていいだろ?!」
???
「えっ?えっ何、えっ?」
「どうせ暇だろ!それじゃあな!」
一方的に喋るだけ喋って、切られてしまった。
あの言い方と照れ具合……これはつまり、絶対何かある。きっと何か意味のある日のようだ。
(でも、なんの日?)
意味があるとはいえ……クリスマスはもう過ぎたし、体育祭とか文化祭ももうとっくに終わってる。
(学校関係のイベントじゃない……?)
本人にまつわるイベントで、かつ今の時期のもの。
こんな、外出たくなくなるような激寒の真冬にイベントなんて……ある訳が……
(……)
あったわ。誕生日。
(可能性はそれしかない。きっとそうだ)
本来なら学校でプレゼントを相手に渡して終わり、の短いイベントだけど……今、シナリオが絶賛脱線中の彼ならなんでもありだ。
ちょっと早いけど、前にピアノがどうこうって言ってた話の報告でもしてくれるつもりなのかもしれない。
どうだろ、うまくいったのかな。
(でも、そうならそうと言ってくれればいいのに……)
やれやれ……秋水語はまだまだマスターできそうにない……
(ちょっと分かるようになった!とか思ったら、これよ……)
ん?なんだろ、視界に白い何かが…ゴミでも入ったかな?
「うぅ〜ん……」
パチパチ、パチパチ。
目をこすりながら瞬きを繰り返す。
パチパチ、パチパ……
「ぅえっ?!」
目の前に豪邸が建っている。
(あ……あれ?さっきまでの道路は?あれ?)
どうやら次のシーンに飛んだらしい。
慣れてるはずだったけど、今のはなぜか気づけなかった。
「わ、わ、わ……わぁ〜……」
(わぁ〜……)
わぁ〜しか出ないほどの……巨大な敷地、立派な豪邸。
(ここ、多分秋水の家……って事だよね?だよね?)
説明ないけど、この感じは多分そう。
初めて来たけど、こんなだとは。
(ここ、ほんとに住んでるん……だよね?ホテルとかじゃないんだよね……?)
とりあえず目の前に見えてる屋敷の玄関目指して、レンガの敷かれたおしゃれな通路に沿って歩き出したところなんだけど……庭がこれまたくっそ広いお陰で、玄関が地味に遠い。
(そういえば、唯……大丈夫かな?)
あれから何の情報もないけど……ほんとに大丈夫なんだよね?だよね?
まさか、ほんとに家の事つらくなって自殺しようとして……いや、いやいやいや。そんなまさか。
(でも……つらそうだったしなぁ。もう無理って思っちゃう可能性も……)
いや、でも流石に……生きてるよね……?
メインキャラなんだし、いなくなるなんてそんな訳……
(……はっ!また唯の事考えてる!)
ぼーっとしているとついつい脳裏にチラつく、彼の顔。
初詣の日、脳裏に浮かんだあの悲しそうな表情。
これでも頑張って気にしないようにしてるつもりだけど……
どうしても、気にするなと言われれば言われるほど気になるっていうか……治りかけの傷みたいに、つい気になっちゃう……
記憶に触れたらさらに悪化するの分かってて、でもつい無意識に思い出して……
そして、余計に思い出すようになって……
(……)
よっし!歌お、歌お!元気出してこ!
といっても心の中でだけどね。
人ん家の庭で声出して歌う勇気はないから……
(遠く、遠く、離れていても〜♪)
無心で歩いてる時はなかなか歌が捗る。
あの事思い出さずに済むし、暇つぶしにもなるし、我ながらナイスアイディア。
曲名は言わずもがな、超有名なあの歌。
だって、玄関遠いんだもん。
(僕のことが分〜かるよ〜う、)
ブシャーッ!
(にぃっ?!)
突然の噴射音に驚いて音のした方を向くと、白いレンガでできた丸い噴水があった。
三段重ねになってて、一番上に乗ってる天使の石像が甕から勢いよく水を流している。
一番下の段は花壇になってて、なかなかおしゃれ。
今いきなり動いたって事は、時間で止まったり動いたりするのかもしれない。公園みたいに。
(おおお……めっちゃ拘ってらっしゃる……)
お父さんの趣味?いや、お母さん?
どちらにせよ、なんかすごい世界だ……
ポーン……♪
不意に聞こえてきたピアノの音。
曲ではなくて、ウォーミングアップとして鍵盤を鳴らしているような感じの、一音一音の繰り返し。
(おっ、練習してる?)
いいぞ、頑張れ頑張れ〜。
音色に気を取られていると、不意にどこからか声がした。
「……あら?どなた?」
「うわぁっ?!」
声のした方を見ると……庭木の影に丸々と太った人の良さそうなおばさんが。
「あら、驚かせちゃった?急にごめんなさいね……私、ここで働いてる家政婦なの」
「あ、あ……こん、こんにちは……」
安定のコミュ障である。
もう早速今のシーン最初からやり直したい気持ちでいっぱい。
(ううう……)
「あっ!あなた……もしかして、秋水君が言ってたお客さん?」
「アッハイ……」
ドーモ、ドクシャノミナ=サン。七崎です……ってんな訳あるかっ!
語彙力が来い!っていうか来て!
「ふふっ、そう。友達が来るとは言ってたけど、女の子だったのね……」
あっ、なんか勘違いされてるな……?
「案内するわ、いらっしゃい」
意味深なニコニコ笑顔に案内され、彼の部屋へ。
(違うんです、違うんです……そういうんじゃないんです……!)
だだっ広い玄関にこれまた広くて長い廊下、そしてなんか撮影でもするのかってくらい幅があり過ぎる階段を登っていって……
「お邪魔しま〜す」
部屋のドアを開けると……目の前には部屋いっぱいの大きなピアノと、その奥に……
「……遅い」
ピアノの音色が止まると同時に、不機嫌そうな声が。
「ごめんごめん……って、うわすごっ!」
(トロフィーめっちゃある……!)
まず目に入ったのは、部屋の入り口の棚にギチギチに並べられたトロフィー達だった。
もしやと思って視線を横にずらすと……
(おおお……!)
壁にも賞状がこれまた隙間なくびっしりと……
「ああ、それ?コンクールのトロフィーだよ」
「へぇ、すご〜い!……って、あれ?」
一番手前に置いてあった金色のトロフィーが夕日を反射してキラキラと輝いている。
「うわ、すごいテカテカ……!これ、もしかして最近のやつ?」
「うん。昨日の地方コンクールのやつ」
「昨日?!」
まじか!最近なんてレベルじゃなかった!
「あっ!ってことは……!」
「うん。やっと見つかったんだ、自分なりの答え」
「おおお〜!早いね!てっきりもっと何年もかかるもんかと思ってたよ!」
「ははっ、それは僕も思ってた」
お、笑った!珍しっ!
「いつだったか、急にしっくりくるやり方が見つかってさ……今はもうそれで落ち着いちゃった」
「おお〜」
「だから、約束通り……まず最初に君に聞いて欲しいんだ。あれから変わった僕の音色を」
「そういや言ってたね、そんなこと」
「うん、お待たせ」
「わ〜い⭐︎」
お喋りもそこそこに、彼はすぐに弾き始めた。
私も知ってるようなクラシックを一曲。
前に話してた感じからしてジブ◯とかゲームとかそういう系弾くもんだと思ってたから、ちょっとびっくりだけど。
相変わらず上手いし、前と何が変わったのか素人にはさっぱりだけど……でも、一つだけはっきり違うのが分かった。
彼の表情の違いだ。
前と違ってどこか余裕があって、なんだかとても楽しそうで。
目がキラキラしてて、口角がふわっと上がってて、なんか見てるだけでワクワクするような空気があって……
「どう、かな……?」
「相変わらずうまいね〜」
「まぁな」
「でも……前よりすごく楽しそう。変わったね、見てるこっちまで嬉しくなっちゃった」
「ありがとう。技術の面はまだまだ未熟だけど……でも、やっと少しずつ伝えたい事を表現できるようになってきたんだ」
「……」
「曲に込められた『嬉しい』『楽しい』『悲しい』『つらい』……そんな色んな感情を受け止めて、それを元に僕が感じた気持ちをアウトプットするんだ」
「……」
「意識する部分が変わった分、前より正確性は劣るけど……でも、弾き方が良くなったって周りからよく言われるようになってさ」
嬉しそうな彼の顔に思わず私までニッコリ。
「それで……実は今日もまた、君に言いたいことがあるんだ」
「え〜今度は何?地方優勝したから、次は全国目指します宣言?」
「いや、そうじゃなくって。その、君のこと……」
「……!」
ややっ!これは……嫌な予感……!
ま、まさかこれは……こ、告白?
待って!頼む、待って!スタァァァップ!
(それは駄目〜!)
「な……名前、さ」
「名前?」
「うん。その……静音って呼んでいい?」
セーフ……!嬉しさよりもまずそこだった。
「呼び捨てって事?」
「うん」
「え、全然いいよ」
「そう、ありがとう……」
ありがとうって言う割には、速攻でそっぽ向く秋水。
(あれ?)
「し……」
「し?」
「し……し、静音……」
『ありがとう、静音』って続けて言いたかったらしい。
でも、変に間が開いてなんとも言えない感じに。
そっぽ向いてても耳が端まで真っ赤っかなのが見えて、私もまた顔がじゅわじゅわと……
「……」
「……」
突然扉がスパーンと開いた。
「お二人とも〜!」
さっきの家政婦さんだ。
そのふとましいナイスバディですぐに分かった。
「ディナーの準備ができましたよ!なんと今日は……ってあら?」
しまった!家政婦さんに真っ赤な顔見られた!
「あら、あらら?」
わ〜っ!わ〜っ!違うんです!違うんです!
「うふふっ、仲良しなのね」
仲良し(意味深)。
「ち、違っ!これはそうじゃなくて……!」
「あらあら、お顔真っ赤ですよ?」
「う、うるさい!ぼぼ、僕は後で行くからっ!二人は先にリビング行ってて!」
そういって彼は部屋を飛び出していってしまった。
「あらあら……」「えええ……」
「……まぁ、ああ言ってるんですし、私達は先に行きましょうか」
「は、はい……」
それからお手伝いさんの意味深過ぎる笑顔と共に、私は彼の誕生日を祝った……んだけど。
笑顔の圧が強過ぎて、どんな話したのか全く記憶にないのだった……