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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
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18-5.顔で語る系男子

 


 喋るのに夢中で、気づいた時にはもう賽銭箱の前。


 まずはお賽銭入れて……


(で……えっと、ニ……礼?だよね?)


 二礼二拍手一礼、って毎回パターン同じなのに……いざやろうとすると混乱するよね。え、しない?


 ってな訳でまずは二礼して、そして二拍手。

 で、最後に頭を下げてお願いを……


(どうか無事に元の世界に帰れますように、と……)




「……あれ?」


 顔を上げると、隣にはまだ頭を下げ続ける歩君が。


「……」

「……」


(え?まだ何かお願いしてる……?)


 まさか気絶してる……訳ないよね?

 お辞儀の格好で流石にそれはないよね?


「……」

「……」


 あの〜、もしもし?


「……」

「……」


 お〜い?生きてる〜?




「……っと、これでよしっ」


 あっ生きてた。


「長いね、早乙女君」

「え?俺いつもこんなもんだけど」


 長ぇよ!


「逆にお前、そんな短時間で何お願いしたんだよ」

「短時間じゃないよ、むしろ普通このくらいだよ」

「短けぇって。それ絶対一言二言くらいしか言えてねぇじゃん」

「いいじゃん簡潔で」

「え〜何、そんな簡単に伝わるような事?」

「え?いやそれ、内容言っちゃ駄目でしょ」


 だってほら、口に出したら叶わないって言うじゃん?


「言えないよ〜流石に」

「ざっくりでも?」

「ええっ、ざっくりって……それもうほぼ言った事になっちゃうじゃん」

「それはほら、言葉をちょっと変えるとかしてさ……」


 なかなか引き下がらない。


(えっ、え〜……そこまでして聞きたい?)


「あ〜、いや〜……ほらその……『穏やかに過ごせますように』的な?そんな感じのやつ?みたいな?」


(無事に元の世界に戻って)穏やかに過ごせますように。

 意味違ってきてる気もしなくもないけど、誤魔化すのはこれが限界。


「は?なんでそんな疑問系なんだよ」

「だ、だって……ざっくりって言うから……」

「そうだとしてももっとはっきり言えるだろ」

「……」

「なんだよいきなり黙って」

「ああ、いや〜……その、色々と……」

「おいおい、大丈夫かよ。俺みたくちゃんとはっきり分かるように祈らないと神様だって困っちゃうぜ?」


 いや、君の場合細かく説明しすぎだろ!そっちのが困るわ!

 むしろ途中からなんの願いだか分かんなくなってるってそれ!




「俺はさ……」

「へ?う、うん」


 まさか話続いてるとは思ってなくてちょっと焦った。


「毎回毎回同じなんだ」


(あ〜うん……)


 だろうな。彼のお願いの内容はなんとなく見当がつく。


 恋愛成就、そしてその先の……って事だろう。

 いつだったか、前にも言ってたやつ。


「そ、そうなんだ……」

「うん」

「へぇ〜……」

「間違えられないようにちゃんとはっきり言ってるから、いつかは絶対叶う……」


 目を軽く伏せて儚げな顔、そしてまたあの無駄に良い声で。


(……!)


 これだけ見たら普通の人はドキッとするんだろう。

 というか、した。私も。一瞬だけだけど。


 でも、私は彼の普段を知ってる身……トキメキはそのほんの一瞬で終わった。中身なぁ……




「って……そう、信じてるんだ」


 やけに溜めるなぁ。ドラマの俳優か、君は。


「……」

「……」


 分かってるよな?と言わんばかりの微笑みがこっちを向いている。


「……」

「……」


 無言なのに、圧が強い。強過ぎる。


(む、むむむ……)


 いや、知ってるよ。そりゃ君の想いは充分知ってるけど……




「あっ」

「どうしたの?」

「あそこで並んでるの、おみくじじゃん?」

「え?」


 ここからじゃちょっと遠くてよく見えないけど……なんか行列があるのは分かる。

 だから、あれがそう……なのかな?


(目良いんだか悪いんだか……)


「せっかくだし俺らも運試ししようぜ」

「うん、やろやろ!」


 とりあえず助かった。

 ナイスおみくじ、話題変更のネタありがとう。




「おお!くじ引きタイプか!」


 近づいていったら、思ってたのと違ってびっくり。


 ここ、結構歴史のありそうな立派な神社だったからガラガラ振るやつかと思いきや……箱に手を突っ込んで取り出すタイプだった。


 木の箱におみくじが入ってて、端の小銭一個分くらいの隙間にお金入れたら、あとはご自由にお取りくださいってやつ。

 これなんて言うんだろ、セルフおみくじ?


「何が?」

「ここさ、てっきり棒を引くタイプかと思ってたの。ちょっと意外〜」

「なんだよ、そっちの方が良かった?」

「いや、いいんだけどね。アレはアレで楽しいけどこっちもこっちでお手軽だし〜」

「……」


 およ?およよ?表情が陰ってく?


「……早乙女君?」

「今まで一緒に行ったところ、確か全部これだったよな?」

「へ」


 ん?んん〜?ごめん、ちょっと何言ってるか分かんない。


「ん〜と?どういう意味?」

「これ以外のタイプ、やった事ないだろ俺ら」




 ん?



 ん???



 ん〜???どゆこと〜?




「……」

「……」


 ヒントを求めて彼の方を見ると、眉間に皺寄せていかにも嫌そうな表情。


 彼の表情以外ノーヒントの、超難関クイズが勝手に始まった。


(ええっと……?これ、嫉妬って事で合ってる?)


「……」

「……」


 うん、これは多分そうだ。

 どうやらあんまり考えずに言った発言が彼には怪しく聞こえたらしい。


 つっても、普通に向こうの世界じゃ散々やってるしな。

 別に特別神社大好き!とかって訳じゃないけど……観光で来たらさ、大体お参りしていくじゃん?


「……」

「……」


 ここ最近なんか変に我慢してるというか、あまりこういう感情を出さないようにしてる雰囲気あったから……

 こうやってガッツリ情緒不安定モード全開になる彼を見るのは、ちょっと久しぶりだった。


(全っ然嬉しくないけどな!)


 むしろもうしばらく……いやもう、私がこの世界から帰るまでは自重してて欲しかった……




「……」

「……」

「……え、ええっと」

「……」

「やだなぁ……だからって、やった事ない訳ないじゃん」

「じゃあ誰と行ったの?」


 おお、怖い怖い。


「え〜、いちいち覚えてないよそんなの。確か家族で行った時だと思うけど?」


 という事にしとく。


「ふ〜ん」

「な、なによ?」

「いや、前に姉小路とどっか出かけたって聞いたから……またそれかと思って」

「えっ」


(ああ、あの時の……)


 変に紛らわしい事をしたせいで、まだ疑われてる……


「いや、違くて……その……」


(……)


 本当は何よりも彼の疑いを解くのが先なんだけど……名前を音としてはっきり聞いてしまったせいで、また心が変にざわつき出している。


(唯……)


 脳裏に浮かぶのは唯の悲しそうな顔。

 いつもみたいな眩しい笑顔が無くて、ただ静かに目を伏せて悲しそうに俯いて……


 といっても実際にその顔を見た訳じゃない。あくまでただのイメージ、私の妄想だ。

 そういう状況になっているかどうかも、本当のところは分からない。


 けど……情報が少ないせいで悪いイメージだけがどんどん一人歩きしていく。


(違う、これは妄想……ただの勝手なイメージだから……)


 初詣のお祭りムードでうまく誤魔化せると思いきや……全然駄目らしかった。


 むしろ、時間経過で悪化してるまである。


「……」

「……」


 不安というか、恐怖というか……なんとも言えない感情が胸にじわっと溢れていく。


「……」

「……」


 不安そうな顔の私と、これまた不安そうな歩君。

 お互い意味は違うけど、同じような神妙な顔をしていて。




 内心不安でいっぱい……だけど、これ以上は駄目だ。

 この彼の前で、他の人の心配してるだなんて言っちゃったら……うん。お察しの通り。


 喉元まで上がってきていた言葉達を無理矢理飲み込んで……

 今にも私の中から溢れ出てきそうなそれを悟られまいと、どうにか目を逸らした。右に。


「……」

「……」


(あ、右って確か……)


 右を見るのは嘘ついてる証拠。

 って、なんかで見た気がする。駄目じゃん。




 それを知ってか知らずか……彼はさらに怪訝そうな顔に。

 今のこの数秒感、ずっと黙ってたってのもあるんだろうけど。


「いや……ち、違うよ?」


 混線し始めた頭からどうにか言葉を振り絞る。


「……」

「ち……違うよ?ほんとだよ?」

「……」

「ほんとほんと……」


 こちらを見つめてくる真っ赤な目。


 今更ながら、ちょっと怖いなって思った。

 ほら、赤い目ってなんか不気味じゃない?禍々しくて。


 赤がテーマのキャラだから、髪も目も赤いって訳なんだけど……冷静に見るとちょっと怖いかも。


「……だよな」

「えっ?」

「ちゃんと俺、確認してるし……それは無いよな」


 お?


「え?か、確認……?」

「え?」


 何か問題でも?って空気……いやいや、問題ありありだよ!


「え、なん……な、何その……確認、って……?」


 え、待って。ちょっと待って。何その意味深ワード。


「ただちょっと、牽制というか……注意しただけ。廊下ですれ違った時に」


 ……?

 なんか、見てないところで勝手に事件起きてるな……?事故ってるな?


「ん?ああ、大丈夫大丈夫。別に揉めたりしてないから」


 揉めてないって言われても……じゃあ何の話したんだよ。むしろ何だよ。

 適当な世間話?君達がそんな事するとでも?




「じゃなくって。その気がないのにグイグイ来られたって、静音だって困っちゃうぜって話したの」


 その気がない?私に?


「だってほら、お前……もう、いるじゃん」


 ( • ̀ω•́ )✧ (俺がな!)




 とうとう顔で語り始めたよ、この人。


(アッハイ……)


 自信溢れまくりのその御尊顔よ……


 実際はこの彼の他にフラグ四人分立っている訳なんだけど……

 気づいてないのか、あるいは……




「……ってか、静音さ。……さ、」

「へ?」

「……じゃん?……て……時……」

「え?え、今なんて?」


 あっ、これもしかして。


「何……聞こえ……?また……ん……?」


「え?……ん……よ?」




(あっこれ、フェードアウトするやつ〜?)


 これまた変なタイミングで飛ぶなぁ。


「……さぁ、……で……」


 ごめん歩君。

 なんか色々話しかけてくれてるけど、全然聞こえないんだわ……許して。


「……けど、……よな」


「……な……」


「……、……」



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