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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
120/164

18-4.あのクソダサTからしか得られない何かがあるんだよ

あるんだよ、謎の魅力が。あるんだよ。(謎五七五)

 


「え、ええっと……」


 二人きりになっちゃった。そんなつもり全然なかったのに。


 すぐ隣で赤い瞳がじっとこっちを見ている。

 目が合ったのが分かった途端、ニンマリと歪み綺麗な三日月型に。


 いや、だから君のせいなのよ?これ。




「じゃあ、まずはお賽銭しなきゃな」


『じゃあ』って!

 おいっ!割り込んできた事に対する謝罪は無しかいっ!


 こちとら、せっかくのチャンスだと思って!ここで思いっきり女子だけできゃっきゃうふふを楽しむつもりだったんだよ!どうしてくれんだよぉ!


(邪魔しやがって!こいつめっ!)


 お賽銭しなきゃはお賽銭行くぞの意味。以前説明した通り、こちらに選択肢なんてない。


 謝罪なしな上に強制まで……我儘なんてレベルじゃないぞこれ。


(もう!す〜ぐそうやって振り回す……!)


 怒りのまま、勢いよく隣を向く。


「もう!いつもいつも、そうやって……!」


「そうやって……」


「……」


 内心怒り心頭だった。ほんとに。

 だけど、顔を見た瞬間、なぜか怒れなくなる自分がいた。


「……」

「……なんだよ?」

「なんでもない」

「お前最近それ多いな」

「いいじゃん別に」


 怒りが消えた訳じゃないんだけど、なんだか怒る気持ちがスルッと彼から逸れていくような……

 彼の顔に謎の結界が張られてて、私の怒りのパワーが弾かれるみたいな。




 目力のある赤い瞳に、キリッとした眉毛。

 スーッと通った鼻筋。形のいい唇。


 見惚れるってほどじゃないけど、気を抜くとうっかり視線が吸い寄せられてしまうくらいには美青年。


(しまった!今ので変に意識しちゃうように……!)




 見た目良くても、肝心のその中身は残念賞だって知ってるのに。

 分かってるのに……こうやって意識し出すとついつい、目がそっちへ行ってしまう……


「なんだよもう、言いたいことあったらはっきり言えって」

「ないよ」

「あるだろ、絶対」

「ないってば」


(ぐぬぬ!ぐぬぬぬぅ……!)


 なんか悔しい。こんなに好き勝手翻弄されるなんて。


(……おっと、また見てた)


 いつも通りの彼な訳なんだけど、私の目は彼をイケメンとして認識しているらしい。

 何度逸らしてもそっちへ向く……


 今の私、多分瞳孔開きまくりだろうな。

 近くで見られたら……きっとやばい。


(……)


 慌てて顔から視線を無理矢理外し、下へ。




 今日の彼はもこもこの中綿コート着ている。

 外がツルツルで中がパンパンに膨らんだ、冬の定番コート。


 ぱっと見普通だ。超普通。普通過ぎるくらい。

 あれほど素晴らしいファッションセンスだったのに、今の彼はどこにでもいそうな平凡そのもの。


(今気づいたけど、めっちゃ普通だな?!)


 うぉい!おいおいおい!

 どうした歩君!いつものセンスはどうした?!どこ行った?!




「あっち〜。着込み過ぎたわぁ」


 なんの脈絡もなく、突然彼は私の見ている目の前で、コートのジッパーを下ろし始めた。どうやら暑かったらしい。


 ジーッ……


 一瞬なんか頭の中を青いツナギの男がよぎったけど、見なかった事に。

 なんか尋ねてきた気がしたけど、それも聞かなかった事にした。


(やらないよ!!!)


 そもそも中に服着てるしね!イイ男とはレベルが違うからね!(?)




(そう、流石に中に服着てるもんね……)




(……)




(って、ん?んんん?)




 白いTシャツが見えてるんだけど……その上に何か変なのが見えた気がする。印刷された何かの模様が。


 開いたままのコートが動いた瞬間にずれて、中の何かが見えた気がする。


 いや〜な予感……


(いや、まっさか〜)




『お ま た せ ⭐︎』


(ひっ!で、出たぁ!)


 例の矢印模様のお出ましである。待ってねぇよ。

 なんか幻聴まで聞こえちゃったし、今日は厄日かな?


 ジャラ……


 あれ?なんか、シルバーアクセっぽいジャラジャラ音も聞こえた……かも……?

 コートの袖の下に隠れてるだけでこれ、付けて来てるな?


(オオゥ……)


 普通じゃなかったわ。

 全然普通じゃない、平凡でもなんでもなかったわ。


 どうやら色々平常運転だったようでなんか安心した。

 嬉しくないけど。




「なんか服についてる?」

「……!」


 やべ。ガン見し過ぎた。


「えっ?あっ、いや……そうじゃないんだけど……」

「なんだよ、じゃあ」

「だ、だって……こんな寒いのに暑いっていうから……」


 私も彼と同じようなコート着てるけど、正直ちょっと寒い。

 凍えるほどじゃないけど、ちょっと冷えるなあって感じ。


「静音見かけたからってちょっと速歩きしたら、汗かいちゃってさ」

「あ〜なるほど。代謝良いんだね」


 活発なのねぇ。若いねぇ。


「代謝……?」


 突然のおばちゃんワードに戸惑う歩君。

 そりゃあね、高校生くらいじゃまだ代謝なんてワード出てこないよね普段。


「あ、いやその……元気だなって」

「……?」


 ごめんて。

 おばちゃんになってくると、なんでもすぐ健康の話になるから……



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