18-1.薄い本の便利要因
人混みの騒音と、涎を誘うようなジャンキーな香りで目が覚めた。
(ん?ここは……神社?)
歩きずらいなぁと思ったら、足元は砂利。
左右にはどこか見覚えのあるモブ女子二人。
周りの景色は、人が多くてよく見えないけど……どこか神社にお参りに来てるような雰囲気。
それで、ここは……境内のどこかっぽい?
人混みすごいのと背が低いのとがあって、周りは人の頭とか背中しか見えないけど……多分そんな感じ。
(そうだとしてもやけにいい匂いするなぁ)
神聖な場所のはずなのに、食欲をそそる油っこい香りと香ばしいソースの匂いが辺りに充満している。
ふとここで一際甘いチョコレートの香りがして、堪らずバッと振り返ると……人と人の隙間からズラリと並んだ屋台が見えた。
(え……?屋台?)
しかも、ただの屋台じゃない。
何か、『迎春』とか『賀正』とか文字の入った大きな旗が立ってて……
(賀正?……あっ!もしかしてこれ……初詣イベントか!)
って、え……年明けてたの?いつの間に……?
時間途切れ途切れだと本当に感覚狂うなぁ。
「うわ〜、やっぱ人多いねぇ」
(この見た目!この子は……!)
容姿から推測するに、今のセリフは『昼間』って子。
お昼ご飯食べてるイベントの時、背景に必ずいるから『昼間』。
面白がって誰かが名付けたのが、勝手に広まったらしい。もちろん非公式。
ちなみにその発音は、苗字として呼ぶ時とと一緒……って、知らんがな。
(といっても、イベント飛び飛びでやってるから未だその現場に遭遇した事ないんだけどね……)
背景用に適当に用意されたキャラだからか、なんだかいまいちパッとしないというか……全体的にぬぼ〜っとしてるのが特徴。
と言っても……他のモブはもっと顔とか目元、ひどいときは全身ぼかされてたりするから……
逆に、今こうやって特徴がないのがはっきり見えてるって事は……多分、その子で間違いないはず。
「ね〜。毎年すごいなぁ」
こっちはポテチ。これまた非公式のあだ名だけど。
由来はそのまま、しょっちゅう食べてるから。そのまんま。
昼間とは正反対の小柄なぽっちゃり女子で、もうさっそくすでになんか抱えて食べてる……
(うん、これは間違えようがない)
そもそも、なんで二人だけこんなはっきり名前を知ってるかと言うと。
二次創作あるあるの、『ただちょっとゲーム内で出てきたからって、勝手に腐女子って事にされる現象』のおかげだ。
そうだよ、あれだよあれ。
別に元々そんな設定なかったのに、気づいたらBのL大好きなキャラにされてるや〜つ。
もっと言うなら、男キャラ二人を生暖かい目で見守りながら、心の中であれこれ妄想を繰り広げて暴走し……そうやって間接的に私達の願望を代弁してくれる係。
……って、何の話してんだっけ私。
あ、そうそう!モブ二人の話ね!
まぁ、名前があるっていっても……
昼間に至っては、お昼ご飯のイベント中に攻略キャラの顔がアップになるタイミングで、食べながら誰かとお喋りしてる顔が後ろの方にちょっと映り込むってだけで。
主人公達とは一切何の絡みもないから、本当にただの背景だ。
ポテチなんて、教室でのイベントの時に毎回席でポテチをバリバリ食べてるってだけの、こっちはもはやただの環境音……
正直、同じクラスではあるけど主人公とほとんど何の接点もない子達だ。
だけど、名前があるのにシナリオに全然関わってこないという独特な立ち位置のおかげで……ある意味腐ったお姉様方には色々と都合が良く、二次創作ではもはや定番のキャラとなっていた。
そう言う私だって、薄い本で何度か登場させたことあるし。
だって何かと便利なんだもん……
自分の妄想をセリフとしてそのまま言わせるのもありだし。
むしろハプニング要因として推しカプ二人にぶつかったりして、押し倒させたりキスさせたりするも良し。
自作漫画や自作小説に、無理矢理それらしい理由や話のオチをつけさせるも良し。
ほら、ベッドでもないのに裸でくっつく状況を作るのに、彼女らのデッサンのモデルという事にしたり……
色々広げ過ぎて話が収集つかなくなったところで、最後のコマで彼女達がニヤニヤするだけで、なんか話のオチっぽくなるし……
オチになってない?
えっ、ちゃんと話オチてるでしょ?!オチてる……よね?!こらそこ、首傾げないっ!
普通にプレイする分には存在すらほとんど気づかず終わるけど、腐った界隈ではある意味超有名な二人なのだ。