番外7-3成長するのは人の特権
そりゃあ私なんてもう、毎日横方向にどんどん成長……えっ、そういう話じゃない?
「う〜む、どうしたものか……」
自分達で流れを変え、そして新たな道を生み出していく。
自分で考えて、動く……
人間にとってはそれが当たり前の日常であり……しかし、人間以外にはできない事。
こちらの想定以上に、随分と人間に近くなってきているらしい。
「……」
思わず頭をぽりぽり。
相変わらず部下はまだ暗い顔でしょぼくれている。
いや〜、参った参った。
前から彼らの自我の発現には驚かされ続けてきたが、今の彼らの進化はワシが思っているより早いようじゃのぅ。
フラグはしっかり立っていた。
イベント中に七崎がちゃんとその通りに動くように、ワシらがこっそり誘導していたから。
布石となる言動は都度きちんとさせておいた。
システム的な話をするなら、パラメータだってちゃんと充分な値まで来ていた。
イベント発生は数値上確定していた。
しかし……彼らはどういう訳か、わざとそれをしない道を選んだ。
体に染み付いているシステムの指示を拒否し、自分がどうしたいかを優先するようになった。
何も考えずにいたって話は自ずと進んでいく。
ただされるがままなるがままに、流れに乗ってるだけでいい……というか、彼らは本来そういうものだったはずじゃ。
じゃが、今……あえて自分でいちいち立ち止まって、自分で選択している……
む。待てよ?という事は……
「かえって変じゃな……」
「何がです?」
気力がようやく復活したらしい。
来ないと思ってた返事が返ってきて、ワシ内心ちょっとびっくり。
「ほら、イベントが起きなくなった理由じゃよ」
「と、言いますと?」
「人の心を持った以上、逆に本来以上に妬いたり他人に取られまいと焦ったりするはず……なのに、一切そういった動きがないというのは妙ではないか」
「確かに」
「じゃろ?」
自分の気持ちに正直になるほど、欲も強くなる。
そんな状態で、お互い何もせず穏やかにいられるものなのか?
「それ……少し、心当たりがあります」
「む?」
「以前、私が彼らの心の中を観察した時に……なにかこう……考え方の癖のようなものを感じたんです」
「癖……?」
「なんと言いますか……常に、彼らの考えの中心にいつも七崎がいて……彼女がどう感じるかで動いているようなんです」
「ほう……なかなか興味深い話じゃ。ちなみに、それはいつから?」
「五人それぞれに自我が芽生え始めた頃、でしょうか……」
「ふむふむ」
「ただ人の心を得ただけではなく、日に日に何か変化しているようなのです。自分中心ではなくて、彼女中心の思考に……」
「成長した、とでも言うのか……」
「……」
「ただのキャラクターであるはずの彼らが、心を持つだけでなくさらに進化していく……」
なかなか面白い話じゃのぅ。
元々のシステムとしての彼らの思考パターンは、もっとずっと単純だった。
まず、主人公を好きになる。そして、好意をアピールし始める。
同時に、ライバルの存在に気づいた場合は排除しようとする。
そして最終的に主人公に選んでもらえれば、無事エンディングで結ばれる事ができる。
見て分かる通り、それらは全て自分を中心とした動き。
好きだから、想いを伝える。嫌いだから、排除する。
主人公……今の場合は七崎じゃが、彼女がどう思うかなんていつも二の次じゃった。
通常ならそうなるはずが、今は違う……
おそらくは彼女のために。
本当の意味で彼女を愛しているのなら、それは至極真っ当な事。
ライバル同士で争うなんて……本来は無意味なもの。
争わずとも、俺が好きなんだと公表する事で牽制をかけたりとか色々あるが……それらは全くもって意味がない。
それはこういったゲームや創作物の中だからこそ成功する訳であって、そんな姑息な真似をする姿を見られて嫌われてしまう可能性だってある訳じゃ。
マイナス要素しかない。
こういう時は自分磨きが正解。
しかし、それを知らないまま彼女のためにを突き詰めた結果、正解に辿り着く……
彼女と接していくうちに得た経験による学習……これを成長と言わずしてなんと言う。
「……」
「……」
ふ〜む。
そろそろ、彼らを本格的に人間として考えなければならない時が来たのかもしれんのぅ。
もはやただのシステムの域をはるかに超えてしまっている……




