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その差、一回り以上  作者: あさぎ
平和のようでなんか不穏な
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番外7-2それはもう、頭がめり込むくらいの

 


「……」

「……」


 静かになった部屋に羽がさわさわと擦れる音が響いている。

 ひっきりなしに一枚一枚を蠢かせて、なんだか落ち着かない様子。


 何か言いたい事がありそうだ……それも、あまり自分からは言い出したくないような。




「どうした?」

「……」

「なんでも聞くぞ?」


 影に隠れて怯える小動物を呼び寄せるかのように……いつもより言葉を優しくして、言葉が出てくるのを促す。


「あ、あの……」

「うむ」

「あの……その……も、申し訳ありません……っ!」


 出て来たのは、謝罪の言葉だった。


「これは、最初に異変を発見した私の責任です……!なんとお詫びしたらいいか……!」

「お、おい!ちょっと……!」


 床に頭を突き刺さんばかりの勢いで深々と土下座をし始めた。


「ちょ、ちょっと!やめんか!」


 制止の手を振り切って、さらに頭を床にめり込ませようとしている。


「私があの時……!これは、私の失態です……!」

「ちょっと、落ち着くのじゃ!これ、やめんか!」

「離してください!私はもう……あなたをまっすぐ見れません!」

「よく分からんが……せめて顔はあげなさい!」

「駄目です!私にはその権利がない……!」


 この後も二、三回ほどこのやり取りを繰り返したところで、ようやく顔を上げされる事に成功。


 ふぅ、やれやれ……




「また取り乱してしまいました……すみません。お恥ずかしい限りです……」

「どうしたんじゃ、急に?」

「その……初めてその事態を発見したのは、この私でした」

「……」

「だけど、それなのに私は……何も対策しようとしなかった。ここまでひどくなったのは、私のせいなのです……」

「なるほど。それでその謝罪に来たという訳か」

「はい……」


 落ち着かない心を表すかのように、ワサワサ!ワサワサ!と忙しない羽。

 動けば動くほどパラパラ抜け落ちて、床に散らばっていく。


 これきっと、後で掃除するのワシ……じゃろな……




 しれっと増えたタスクに動揺する気持ちを隠して、あくまで穏やかに話しかける。


「いや、これはお前さんのせいではないよ。何も謝ることはない、これはワシの責任じゃ……」

「し、しかし……!」

「最初に報告を受けた時……『大した事ない、気にするな』なんて言ったのは……他の誰でもない、ワシじゃ。君はその指示に従ったまで」

「ですが!そうだとしても、私がもっとしっかりしていれば……!状況をきちんと把握し、何か対策を練っておくべきでした……!」

「それを言うなら、イベントの消滅に初めて気づいた段階で何か手を打つべきじゃった」

「そうです!それを私がやらなかったために……!」

「しかし、それをしないという選択をしたのはワシじゃ……何もお前達のせいじゃない」

「……」


 羽の動きが止まった。

 ようやっと落ち着いたらしい。




「しかし……いやぁ、本当に参ったな」

「はい。このままでは……イベントどころか世界ごと変えられかねません」

「……」

「多少のシナリオ変化は話の大筋が変わらないからと黙認していましたが、流石にこれ以上放っておくのは危険かと」

「そうじゃなぁ……」


 ほんとにその通りなんじゃが……う〜む、悩ましい。


 そうだとしても、あんまりワシらが直接介入したくないんじゃが……そうも言ってられないか……?


「いや、しかしなぁ……う〜む……」


 渋い顔して考え込むワシに、部下の言葉が畳み掛けてくる。


「この世界は我々の緻密な制御あってこそ保てているというのに……それが本当に機能しなくなりつつある……これ以上は危険です、完全に制御不能になってしまいます」


 うん。それは全くもってその通りなのよね。


「だから、教えてください……我々はどうしたらいいでしょうか?」


「私達ではなんの案も出なかった……しかし、あなたほどの方なら、きっとこの状況を打開する術を何かお持ちのはず」


 対策なぁ。そうじゃなぁ……




「それな……ワシも聞きたいくらいなんじゃよ」

「えっ?で、ですが……この先をご存知なのでしょう?」


 まぁな。一応こんなでもこの世界の神。

 未来予知なんて朝飯前、この先のシナリオ展開だって全く予測できていない訳じゃない。


 そうではないのじゃが……


「見えてはいる。じゃが、知ったところで……我々がどうこうできるようなものではない」

「え?じゃ、じゃあ……全く手の打ちようがないって事ですか?」


 最善とは言えないが方法はあるにはある。

 しかし、それをやるつもりはない。


「まぁ……そういう事になるな」


 やらない理由もちゃんとあるんじゃが……それをそのままこの彼に説明したところで、通じるとは思えなかった。


「え、あ……そ……そう、ですか……」


 泣きそうな声でポツリとそう言って、ガックリと項垂れてしまった。

 別に意地悪するつもりじゃなかったんじゃが……ちょっと罪悪感。


 白い羽がぐんにょりと力なく俯いている。

 一斉に下を向くそれは、まるで濡れたモップのよう。


「……」

「……」


 ワシからしたらシナリオの全体像が見えているからこそ、こうして落ち着いていられるのじゃが……


 道筋を勝手に書き換えられ、話がどこに向かっているのか分からなくなり、しかも終わりがちゃんとあるのかも怪しくなってきて……

 それをシステムの管理者としてただ出来事を観測しているだけの彼からしたら、まさに苦行。


 先行き分からないまま振り回されるなんて、ストレスでしかないじゃろう。


 しかも、それがまだまだこの先もずっと続く……




「ま、まぁまぁ……でも、これもあともう少しじゃから……」

「……」

「そうそう、せっかくだし君にだけ教えてやろう……実はな、これもうシナリオ全体の半分以上まで来てるんじゃ」

「……」

「びっくりした?ねぇねぇびっくりした?」


 あっ、無反応……

 なんかツッコミ来るかと思ったのに。


「ほら、なにもそうしょげる事はない」

「……」

「元気出すのじゃ、な?な?」

「……」

「飴ちゃん食べる?」

「……」


 どんよりオーラの部下の肩をぽんぽんと叩くも、返事はなかった。


 一言何かギャグでも言って笑わせようかとも思ったが……そういう感じでもなさそうじゃのぅ。




「ふむ……しかしそうか、ついに発生の有無まで変えるようになったか」


 これはワシの独り言。再び真面目モード。


「前からずっと小さな異変はあったが、まさかここまでになるとはな……」


 その異変をあえて挙げるなら……


 まず、姉小路がやけに慎重なのが変。

 システム通りなら、主人公の不意をうまく突いてもうとっくにキスまで済ませてるはず。

 と言ってもそれは合意なしの不意打ちなんじゃが……それはさておき、それでもあの彼がほとんど進展がないのはおかしい。


 市ノ川が他の四人の気持ちに気づいていないのもおかしい。

 本来なら他四人を極端に敵視し、態度が極端に刺々しくなって揉める火種になるはずなのに、今の彼は自分の想いに戸惑ってばかり……


 神澤は恋愛からどんどん遠ざかり、あくまで趣味の一つになってしまっていて……いまいちがっつき具合が足りない。

 自分を変えるきっかけをくれた七崎の事を少し尊敬してるらしく、性格もすっかり丸くなってしまって……恋愛ゲームのキャラらしさが全く抜けてしまっている。


 千世に至ってはもはや論外。

 自分を鍛えるのに夢中で、話そっちのけで勝手に突き進んでいる……


 あ、早乙女は平常運転か。そこはちょっと安心。




 異変というか、芽生えた自我が邪魔しているというか。


 内心では他の男に取られるんじゃないかという焦りや、自分の想いの大きさへの困惑、自分以外の者への嫌悪感をそれぞれ感じてはいる。

 ここまでは計算通りじゃ。


 しかしそこから全員好き勝手に動いてしまって、なかなかこちらの思うように進まない……



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