2-5-2.ヘビー級の重い想い
歩君はしばらく静かに待ってくれていたけど、やがて長々悩んでいる私に痺れを切らしたのか、また突然喋り出した。
「……俺さ。この先もずっと……お前と一緒にいる気がするんだ」
「え?」
う〜ん?いきなりどした〜?未来予知か?
「なんか俺らって小学校からずっと同じじゃん?小学校、中学校、それで今高校……ここまでずっと一緒に来たんだ、きっと大学だって一緒だろ」
お、おう……なかなかの暴論だな。まぁいいけど。
「そしたらさ……このまま、大人になっていって……その先も……」
大人になっても一緒だよ、って?
(ちょっと回りくどいけど……それって、つまり……)
「結婚……って事?」
「ま、まぁ……うん……」
ゴニョゴニョとはっきりしない返事をしながら、フイッとそっぽを向いた。
(お〜!すご〜い!乙女ゲームっぽい!)
『ずっと一緒』に『結婚』。乙女ゲームらしいロマンチック発言に釣られて……私の心までなんだかふわふわしてくる。
いやここ、乙女ゲームの中なんだけどさ。
ここに来て初めてかもしれない……こんないかにもそれっぽいセリフ聞くの。
(嬉しいっちゃ嬉しいけど……相変わらずくっそ重いのな、君は)
だってまだ高校生よ?ティーンエイジャーよ?
まだ社会に出た事ないってのに、もう結婚の話してんのよ?
はっや……そして重っ……
まだ学生なのに結婚願望強めの、かなりヘビー級の男子である。
こんなとんでもキャラ、女子受けするのかよって思っちゃうけど……
(過去の自分、彼の薄い本何冊か買ってるんだよなぁ。それに夢小説なんかも少々……いや、結構……)
そう、決して悪くはないんだ……妄想してる分には。
でもそれはそれ、これは現実。
こうやって面と向かってやられると、また違ってくる訳で……
「そうね……うわあぁっ?!」
突然道路を踏み締めているはずの足がガクンと落ちて、体勢を崩してしまった。
ギリギリ転びはしなかったけど。
どうやら私は会話に気を取られて過ぎて、道路脇の溝に片足落っこちたらしい。
「な、七崎っ?!何してんだよ!」
彼が咄嗟に私の自転車を抑えてくれたおかげで、二次災害は無事回避。ナイス判断。
「いやぁ、うっかりうっかり〜」
「うっかりなんてレベルじゃねぇよ!ほら……!」
当然の如く差し出される手。
自転車二台は勢いよくほっぽり出されてひっくり返り、宙に浮いた車輪がグルグル回っていた。
「ありがと〜……って、痛ぁっ!」
足首に一瞬ズーンと痛みが走った。
多分真っ黒なあざできてるパターンだな、これ。
「何やってんだか。ほんと、手のかかる奴だな……」
そう言いながらも、ふらつく私の体をしっかり支えてくれる。
セリフは乙女ゲーム感満載なんだけど……ただ甘い言葉吐いてるだけじゃなくて、ちゃんと行動も伴ってて。
そんな態度までしっかりイケメンなキャラなんだけど……ちょっと重いんだよなぁ。
「なんか惜しいんだよなぁ……」
「……?なんか言った?」
「ううん、なんでもな〜い」
歩君に他四人。
この世界に来てまだたいして経ってないし、彼らの事はまだまだよく知らない。
でも、今のところ……歩君と一緒にいる時間が一番楽しいかもしれない。
ほぼ毎日こうして顔を合わせてるから、単純接触効果もあるんだろうけど。
チャラ男、優等生、ツンデレ……とクセの強いのがいて、それらと比べると、めちゃくちゃ没個性で。
ちょっと俺様と言うか自分勝手な面があって、全然個性がない訳じゃないけど、それも含めてなんとなく一番親近感があるキャラなのだ。
(ただし、何度も言うけどヘビー級……)