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8の月第3週1日目 続き

 お腹を満たした僕らはもう少ししっかりと準備をして、『炎の平原』の奥の方へと足を踏み入れた。奥と言っても旧噴火口までの中間地点くらいまでだ。

 森の入口のアッケンデーレはコロニー状にだいたい十くらいの数がまとまっていた。コロニーとコロニーの間隔も広く、高さは僕の背の倍くらいまで育っている。それが、奥に行くにしたがって密になっていき、やがてすっかり森になるのだが、奥の方の木は入口よりも明らかに背が低い。僕らが足を止めたのは、僕の背よりも少し高いだけの木々の辺りだった。目の前に炎のような赤い花が見えて観察しやすい。


 普通、森の中は日光が遮られるので少し涼しく感じるものだが、この場所は足元からもじわっと熱い気がする。……と、思ったら気のせいではないようで、バルバ助教(せんせい)は珍しく眉を寄せて背負っていたリュックの中から魔法陣を一枚取り出した。ひょいと木の上にかぶせるように置いて、水色の滴石(しずくいし)を三つ、中心部から転がり落ちないように陣の位置を調整する。ざっと辺りを見渡して手ごろな長さの枝を拾い上げると、石を軽く叩きつけた。石から水の魔力が陣に吸い込まれて石の色がくすんでいく。全ての石から魔力が吸い尽くされると、陣が水色に仄かに光って噴水のように水が吹き上がった。

 旧噴火口は爆発的噴火から一度も噴火を観測されていないけれど、火山活動はまだ続いていて、微小な地震もあるという。地が揺れれば、地中の焔石が反応することもあるらしい。「夏場は気温が上がりすぎると火災の可能性があるからね。応急処置だよ」と、助教は肩をすくめた。焔石(ほむらいし)の炎は水をかけたくらいでは消えないけれど、アッケンデーレと周囲の他の植物は燃えにくくなる。それでも火がついてしまったら、もう逃げるしかないから、周囲には常に気を配っていなければならない。


 濡れながら調査を再開した。

 アッケンデーレの花の炎の揺らぎに見える部分は花の雄しべだ。花びらは小さく退化して、ガクは一部が肥大化していて、より炎めいて見えるというわけだ。綺麗に赤い花序がある一方、茶色く木質化して硬くなっているものもいくつかある。閉じた二枚貝のような実が縦に長いドーム状の花序にいくつも並んでいるのは、閉じた瞳が並んでいるようにも見えて、ちょっと不気味だ。

 枝の先端に花がついているので、木質化していると簡単に落ちたりしそうにない。少し範囲を広げて他の木も調べてみたけれど、落ちている実はほとんどなかった。あっても枝が折れて落ちたもので、二枚貝の口が開いているものは一つもない。この殻を破って顔を出すドリルのような芽だったりするのかも?

 火災の多いこの地域で燃え尽きることなく次の芽を芽吹かせるのは、どういう絡繰りなんだろう。


 周囲に生える植物もある程度調べてから、花や実、葉など採取していく。その場でできるものはプレパラートを作り、押し葉標本にするものはテントに戻ってから作業した。

 雪待草(ニワリス)のように変化がないものかと、少しの魔力を流してもみた。木も花も葉も実も、結果は特に変化がなかったけど、変化がないということが判ったので収穫アリだ。助教と手分けしてやったのだけど、教授は魔力操作がてんでできない人らしく、とても助かると諸手を挙げて喜ばれた。なんだか少しこそばゆい。

 おおよその作業が終わる頃には陽が傾きかけていて、二人して昼食を食べ忘れたことにようやく気付いた。グーグーお腹を鳴らしながら早目の夕食を作って、今日はそのまま寝てしまうことにした。

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