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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第3章 よくわからないけど子供を拾ってみた

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(20)レクシアの過去5

 お兄ちゃんが出て行ってから、一年近くが経った。

 もう村の人も私に同情しようという雰囲気じゃなくなってきた。

 そもそも私は人付き合いをしないようにしているから村の人からは浮きがちだ。同情だけで一年過ごせただけでも上出来だ。

 最近は仕事の話にも誘われるが、ほとんど断っている。一部裁縫の手伝いはしているものの自分の着る物を作るついで程度。当然周りの態度も私に対してはよくないものになってきている。

 いつまでも村になじもうとしないのだから当然なのだけど。


 その一方で、ルミナは外で私の代わりに社交をしてくれる。

 ルミナは二歳になってよく走りまわるので、面倒くさくて外に出していることが多くなった。そして外で同世代の子供とふれあう機会が増えている。ルミナは綺麗な顔立ちをしているので、若いお母様たちに人気なのだ。

 子供には罪はない、ということなのだろう。だからといって、ルミナがこの村で成長すれば出生が原因で差別を受けるのは間違いない。


 ルミナを外に出すのは実は私の困りごとの一つでもある。私自身は楽で良いのだけど、近所のおばさんやお母様たちが尋ねてきて、私に苦言を呈してくる。

 どうやら、二歳児を一人で放っておいてはいけないらしい。他のお母様たちがいるし、本人も外に出たがるからと言い訳すると、こんこんと叱られた。怪我をしたらどうするのとか、危ないことをしたら注意するのが親の役目だとか。

 お母様たちはせいぜい十代後半から二十代前半で私からは数歳年上程度だから、あまりきつく言ってこないのだけど、そのお母様たちの指導をしているのが私の親世代のおばさんたちなので、私にも容赦なく色々言ってくる。

 このおばさんたちのおかげで、子供をどう育てて良いか分からない私は今までかなり助けてもらえたので、言うことを聞くべきと分かっていながら、ルミナは勝手に走るし、片言で話もするし、これ以上手をかけなくても良いんじゃないかとも思ってしまう。

 もっと私は呪文の修行をして魔術師にならなくてはいけない。子育てにあまり時間をかけたくない。


 夜、ルミナが寝たあと、私はルミナの顔を見ながら考えた。

 私の現在の調子は良い。森に入って動き回るのにも慣れたし、食べられる物と食べられない物の区別もつくようになった。相変わらず呪文は使えないけど、魔力循環の精度は上がっており、醜くなる魔法は結構使えることが分かった。

 今ならいつでもこの村を出られると思う。お兄ちゃんがいなくなってから一年しっかり頑張ってきた。

 でもルミナはどうしよう。お兄ちゃんのように全てから逃げるような無責任な真似はしたくない。だけど、ルミナを育てながら旅をするのは困難だ。常に足手まといになるし、私には守る力が無い。


 せめてルミナが一人で生きられるようになってくれれば良いのに。


 子供が一人で生きるとしたら、きっと六歳くらいだろうか。それくらいになれば、自分で考えて動けると思う。グレスタの町にはそれくらいの子はたくさんいそうだ。そうするとまだ四年もある。この村であと四年も我慢するのは無理だ。

 そもそも今後四年も今のように暮らせるとは思えない。

 この村でもう私に気を遣う人はいない。村を守った英雄の子供という肩書きは色あせ、お兄ちゃんという唯一の家族は出奔し、美人といわれていた容姿は自ら消し去った。

 残ったのは、誰の子かもわからない娘を産んだみすぼらしい女、村に溶け込もうとしない意固地な女、子供の面倒見がよくない薄情な女。


 私はルミナの頬を撫でた。悔しいくらい自分の娘だ。髪の色も同じ。肌の白さも同じ。目元はお兄ちゃんに似ているけど、鼻とか口とかは私に似ている。まるで自分の分身のようだ。

 私はルミナの頬に手を当ててふと考えた。自分と同じなら、この子にも醜くなる魔法が使えるのでは。私は魔力循環をしながら、指先からルミナに魔力を流してみた。

 すると、魔力がルミナの中に入っていく。驚いたことに、ルミナはこの年齢で、しかも寝ている状態なのに魔力循環に近いことをしていた。

 試しに、ルミナの頬にほくろができるイメージをしてみた。するとあっさりとルミナの頬にほくろができた。手を離すと、ルミナのほくろは消えた。私から入り込む魔力が無くなったからだ。

「ルミナにも醜くなる魔法が通じる・・・」

 そこから私は考えた。私の醜くなる魔法は空気から魔力を得て維持している。同じように空気から魔力を得ることを覚えさせれば、私が触れていなくてもルミナの体を変形させたままでいられるのではないだろうか。

「やってみよう」

 私はルミナの体をいじることにした。


 その日から私はルミナを裸にして抱き合って眠ることにした。できるだけ私の魔力をルミナに染み渡らせる。


 ルミナの体を変化させて、それを維持させること自体は可能だった。やはり初めは難しく、ルミナ自身が魔力切れを起こしてしまいそうになっていたけれど、少しづつできるようになっていた。

 言葉ではうまく教えられないので、裸で抱き合って寝ながら、自分のやっていることをルミナの体でやって、体自身に教え込むことにした。


 大きく変形させるとやはりすぐに魔力が枯渇しそうになる。しかし小さな変形なら維持できるようになってきた。

 ただ、体の変形が他に影響を与えていないのかが分からない。ルミナを変化させるのは家の中にいるときだけ、本人は遊びだと思っている。そして、大きな変形の実験をするのは夜にルミナが寝たあと。

 本当なら日頃から変形を維持させたときにどう影響しているのかが知りたい。

 そこで、私は良いママの振りをすることにした。


 私は日中、他の若いお母様たちに混じってルミナを見るようにした。あまりこの村の人たちとなれ合いたくはないけど、別に話をして困ることもない。

 ルミナが魔法の修行の一貫になったのだから、ルミナの側にいるのも十分価値がある。


「ルミナちゃん、おいで」

「はーい!」

 ルミナが二十歳くらいのお母さんに走り寄っていく。村の広場で、子供たちが遊ぶ場所だ。いつものお母様たち三人と、おばさんが二人。

 子供は一歳から四歳くらいまでで八人。駆け回ったり、自分のお母さんに甘えたりと色々。おばさんたちは慣れた様子で、喧嘩になりそうになる子供たちがいるとすぐに止めに入っている。

 私はどうして良いか分からないので、ルミナの好きにさせている。お母様の一人はお腹が大きくなっていて、二人目がいることも分かる。

「ルミナちゃんも大きくなったわね」

 おばさんが声をかけてくる。

「はい、家でも走りまわっています」

 私は適当に相づちを打つと、そこから子育てうんちくが怒濤のように続けられてくる。そのうち他のおばさんやお母様たちも参加してくる。

 珍しく私がいるから、どうしても話しかけたいらしい。


 一通り、おせっかいともお説教ともいえるお話が終わると、おばさんの一人が声を潜めて聞いてきた。

「お兄ちゃんからは連絡無いの?」

 私の心は一気に冷え切った。

「私にお兄ちゃんなんていましたっけ? 私の家族はルミナだけですけど」

 私が冷たい口調で言うと。少し場が沈んだ。


 ふと私は気がついてルミナを見た。ルミナが座り込んでいた。私はすぐにルミナの側に行ってルミナを抱き上げた。

「あら、疲れちゃったのかしら。お母さんがいるからいつもより張り切っちゃったのね」

「いつもはもっと元気ですか?」

「ルミナちゃんはおてんばなのよね。普段は止まることがないくらいなのよ」

「そうですか。じゃあ、まだ早いけど、家で寝かせてきます」

 私は、ルミナを抱き上げて、広場を後にした。


 実は今日、ルミナの見えないところを変化させたまま外で遊ばせていた。

 普段がどんな状態なのか分からないので、今後比較する必要もある。もし今回、醜くなる魔法のせいで疲れているのだとしたら、それは魔法のせいなのか、変形した体のせいなのか、その辺りも調べないといけない。


 その後も私は毎日若いお母様たちと交流した。

 裁縫の仕事も断り切れなくなって受けるようになった。ルミナの実験を続けるなら、多少は村に溶け込む必要がある。

 そのおかげか、私への目線もだんだんゆるやかになってきた。とはいえ、私も積極的に交流するわけでは無い。子供の話題に相づちを打っている程度だ。


 ルミナに使う醜くなる魔法について、いろいろなことが分かってきた。

 少なくとも、体に何かしらの影響があるわけでは無かった。ただ、使用する魔力と吸収する魔力の均衡を保つには多少の時間がかかる。それを越えた変形を与えると、魔力切れを起こして倒れてしまう。これは運動していると余計に起こりやすい。

 変形した状態で魔力の均衡を保ったところに、更に変形を与えることも可能だった。つまり、どんどん体を盛っていくことができる。

 一気にやると、ルミナが耐えられないが、慣らしながら徐々に盛り上げていくと、かなり大きな変形も可能になる。


 もう一つ。新しいことも分かった。

 ルミナを変化させると、私はルミナの感覚を共有できるようになった。

 理由はすぐにわかった。

 もともと、この魔法で変化させた私の体は、本当の自分の肉体のように動く。痛覚も、触覚も、温度感覚も自分の体と変わらない。まぁ、そうなるようにイメージしたからなのだけど。だから、ルミナを変化させた部分に関しても、私の一部として認識できるのだろう。いわば、ルミナは私の身体の一部をくっつけているようなものだ。


 私がちょっと偏屈な若い村人と見なされるようになって、とうとう家問題も復活した。村長はそろそろ納屋を壊したいようだ。実際に私は村長に何か支払っているわけでもなく、ただで小屋に住ませてもらっている。

 お兄ちゃんとプリックさんの結婚もなくなったのだから、これ以上私を置いておく義理はない。村長は私にすっかり興味を失っていて、滅多なことで家に顔を出さないけれど、村長の奥さんやプリックさんからその辺りの話は聞いている。

 村長の奥さんやプリックさんは私を追い出す気は無いようで、気を遣ってくれている。


 ちなみにプリックさんは大分大人しい女性になってしまった。

 お兄ちゃんに傷物にされて、同年代の中でも居づらい感じだ。村長は一生懸命相手を探している、というか、口説いているらしい。村で適齢期の男なんてある程度決まっている。

 プリックさんは村長の娘なので、結婚すれば次期村長になれるわけで、早めに結婚させて嫌な噂話を終わらせるつもりなんだろう。

 これで、お兄ちゃんの子供を身ごもっていたらもっと大変だっただろうな。

 村のおばさんたちはおしゃべりなので、知らなくていい情報がどんどん入ってくる。


 それなりに村になじんできているように見える私だけど、この村を出る決心は変わっていない。私は魔術師になる。

 醜くなる魔法でできることが分かってきたので、私は次の行動に出ることにした。すなわち、ルミナを殺すことだ。


 ルミナは病気になった。

 肌に斑点ができ、体中が腫れ上がる奇病だった。ずっとうつろな顔で、ほとんどが眠っている状態。

 村で唯一の医者が来てもどうにもならなかった。

「こんな病気は見たこともない」

 村の医者と言っても、単に薬草に強いおじさんと言うだけだ。もともとそこまで頼りになるわけじゃない。

「ゾノコ村のヤーンは昔町で勉強していたって聞いたぞ。呼んでくるか」

「だったら、グレスタに運んだ方がいい。その方が確実だ」

 村の人たちが口々に言う。

「グレスタまで二日かかるし、移動はルミナに負担がかかります。お金もないですし」

 私が口を挟む。

「お金のことなら心配しないで。村で出し合うから」

「だが、そんな状態で動かすのは危ないな。だったら、ゾノコ村だ。あそこまでは丸一日かかるがヤーンがいれば二日後にはここに来てくれる」

「ヤーンのことは知らんが、そんなに腕が良いのか?」

「なにもせんよりましだろう」

 皆が口々に言い合った。

「明日の朝にでも馬車を用意して出発しよう。最近は街道の盗賊たちも少ないし、何とかなるはずだ」

 結論が出たところで、皆は帰っていった。

 でも、その夜。ルミナは死んだ。


 医者のおじさんがルミナの体を調べて、首を振った。

「こんなに進行が早いとは。まさか、感染性のものか?」

 周りに緊張が走る。

「おい、大丈夫なのか」

「アルコールをもってこい」

 周りが騒ぐ中、私は冷たくなったルミナを抱いた。

「レクシア。もしかしたらあなたにも伝染るかもしれないわ。止めなさい」

 私は首を振る。

「ルミナを守るのは私。誰にも渡さない」


 その後、私の住んでいた村長の小屋は焼かれた。他にも私やルミナに触れたものも全てが焼かれたようだ。

 ルミナも焼いてしまおうという村人が多かったけど、私はかたくなにルミナを放さなかった。

 その結果、私は村はずれの小さな小屋に追いやられた。

 村人たちからルミナを引き渡すように言われたけれど、私は断った。それでも村人たちは毎日押しかけてくる。

 二日後、私はやっと村人たちの前に出た。

「レクシア、悲しいのは分かる、受け入れられないのも分かる。しかし、もうルミナは死んだんだ。村で病気が流行るわけにはいかない。ルミナを引き渡してくれ」

 私は小屋の扉を大きく開けたまま前に出る。

「わかっています。ルミナは私が処分しました」

「そんな嘘をついてはいけない」

 そう言って、みんな小屋に入っていく。

「うわっ!」

 中から悲鳴が聞こえる。私はすぐに小屋の中に入った。

 テーブルの上に焼けただれた死体がある。それを見てみんなが恐怖で後ずさりしている。

 私は素早く近づくと、それを守るように優しく抱きしめた。

「見ての通り、私が自分の手で焼いた。だからもうこの子をかまわないで。この子は私が埋葬する」

 しばらく彼らは驚愕した目で私たちを見ていたけど、やがて小屋からいなくなった。


 ルミナの体を病気に見せることは簡単だ。

 でもそれだけじゃダメ。元気なルミナを死人のようにしなくてはいけない。

 私はルミナに使った醜くなる魔法を通してルミナに指示が与えられることを知っていた。ルミナはまだ幼いのか、あまり抵抗することもなく、私が眠り続けるように言えば本当に眠り続ける。

 表面を覆う肌を冷たく青ざめるようにし、心臓の音を聞こえにくくしてしまえば、傍目には死んだように見える。これは何度も試して確認した。

 私は常にルミナの側にいたので、そっとルミナに触れながら、醜くなる魔法を変化させて、村人たちを騙した。

 問題はルミナの死体が壊されてしまうことだった。だから絶対にルミナの死体をみんなに渡すわけにはいかなかった。


 ルミナを隠すために小屋に二日間こもったけど、その間にまたルミナの醜さを改造しなくてはいけなかった。

 今度は焼けただれて消し炭のようになった姿。正直言ってイメージが湧かなくて苦労した。でも気持ち悪く見えれば触られないだろうと判断して、思いつく限りグロテスクな感じで焼き焦げた感じにしてみた。

 そして私は何とか表向きルミナを消し去ることに成功した。


 ここからは時間との勝負になる。

 私が村を追い出されるまでに準備が整うかどうか。

 私はまた悪い噂の的になるはず。病気が感染したかもしれない人間。子供の死を認められず死体を家に運び込んで隠した可哀相な母親。そしてその死体を自分で焼いてしまった頭のおかしな人。


 村はずれなので森に入りやすく、食料は探しやすい。ただ、村からの支援は得にくくなったので、満足できる量を仕入れるのは困難だ。だけど、もう後戻りはできない。残りの時間をルミナの改造に使う。


 私がやろうとしたこと。それはルミナを急成長させることだった。

 ルミナの体に体を盛って、どんどん大きくしていこうと思った。当然これには時間がかかる。すぐに大きくしてはルミナの体が保たない。少しずつ盛り上げて、魔力が切れないように調整していくしかない。

 数ヶ月すると、ルミナの体は一回り大きくなり、すでに二歳児には見えなかった。


 ルミナを閉じ込めてばかりいては、ルミナの体が正常に大きくなっているのか分からなかったので、夜日が落ちてからルミナと森に入るようになった。

 私は光の魔法が使えるから、夜の森でも大丈夫だ。それにこの辺はもう何度も入っていて、村の誰よりも熟知しているといえる。


 小屋の床下にはもし人が来たら隠れられるような穴も作った。昔の自分の家にもあったからなんか懐かしい。

 自分たちの着る服を作ったり、食事を採りに行ったり作ったりするとき以外はずっとルミナに尽きっきりだ。

 たまに村の中に入って、糸や捨てる食材を恵んでもらいに行った。その時は自分の体もしわを増やして、みすぼらしさを演出した。


 ルミナの体は大きくなっても正常に機能していた。それにルミナの体に私の要素が入れば入るほど、ルミナと私は息が合うようになった。ルミナは私の意を汲んでくれ、人が近くにいるときは自ら声を殺して隠れてくれる。

 ただ、外で遊ぶのは好きなようで、夜の散歩はルミナにとっても楽しいことのようだ。

 毎日裸で抱き合いながら寝て、どんどんルミナに魔法をかけていく。どれくらいのペースで魔法をかけると良いのかも大分分かってきた。

 ある朝、もう五歳くらいの見た目まで大きくなったルミナを起こして、私ははっと気がついてしまった。


 ルミナが綺麗すぎる。


 ルミナは自分の理想通りに大きくなっているため、五歳にして美人になってしまっていた。自分はその見た目で男たちからいやらしい視線を浴び続けた。ルミナを捨てるにしても、このままでは悪い男に捕まるのが目に見えている。

 私はその日からルミナの体を再改造することにした。つまり、ルミナを男にすることにした。


 男の体は良く知らない。知っているのはお兄ちゃんくらいだ。でもイメージが大切なのだから、体の仕組み全部を知っている必要は無いと思う。私自身女性の体がどういう仕組みなのか分からないのに、体をつくることができるのだから。


 そして、半年後に私は六歳の少年を作り上げることができた。名前はルクスにした。


 いつからか、私は見張られていたみたいだ。

 滅多に人が尋ねてこないこの小さな小屋に人が尋ねてきた。ルクスはすぐに床下に逃げ込んだ。

 私は醜くなる魔法を使って顔を変えると、扉を開けた。

 いたのは村長だった。

「やぁ、レクシア、久しぶりだね。ずいぶんと様変わりしたみたいだ」

 私の肌は荒れ、顔はそばかすだらけ、肌の血色も悪い。老婆みたいに見えるだろうか。

「なんの用ですか」

 私が言うと、村長は小屋の中に目をはせた。私は扉から離れる。

 村長は首だけ小屋の中に入れて中を確認するとすぐにレクシアに向かい合った。

「いやね。見知らぬ少年を見たという人がいてね。もし迷い込んだ子供なら、保護しなくてはいけないだろ。レクシアは知らないか? 夜に森に入っているようだけど」

「誰も見ていません。森から食べ物をもらっているから、夜に入らないといけないこともあるだけです」

「ふーむ。レクシアは光が使えるのだろ。森の中に光があって、誰かが話している声を聞いた人がいるんだよ」

「独り言ですよ」

 私はすぐに応えた。でも、村長は私だと確信している。多分証拠がないだけ。


「食べ物なら、ちゃんと分けてあげられるんだよ。そろそろ前のように村の中に入ってこないかね」

 村長は話を変えてきた。

「特に問題ありません」

 村長は困ったように首をすくめる。

「今後のことを考えないといけないだろう。そうだな。明日わが家に来てくれないか。どうしても話をしておかないといけない」

 村長はしっかりと私を見て言った。どうやら逃げられないらしい。

 きっと、村の人たちにせっつかれているのだろう。私は気持ち悪いのだ。誰もがこの村にいて欲しくないと思っている。

「分かりました」

 そして村長は帰っていった。


 潮時だと思った。もう少しルクスを成長させることもできるけれど、これくらい大きければ十分だ。一人でも生きていける。

 私はルクスを床から出して、さっそく旅の準備を始めた。


 翌朝、私はルクスを連れて、村に入っていく。旅支度はもうできている。

 お兄ちゃんと違って、私は隠れて出て行ったりしない。ちゃんとけじめをつけてから出て行く。

 私が村の中に入っていくと、みんなが私たちを見た。

「え、誰?」

「嘘、あれ、レクシアなの」

「隣の少年は一体・・・」

 私たちを遠巻きにしている村人たちが話をする。

 私は自分にかけている醜くなる魔法を解除していた。人前で素顔をさらすのはとても久しぶりだ。ルクスは興味深そうに周りを見ている。

「ねぇ、アレなに。お母さん」

 畑を指さしてしゃべる。ルクスは無邪気に聞いてきた。

「畑よ。この村ではいろいろな作物を作っているの。週に一度、行商さんが来て買っていくんだよ」

「ああ、あれが畑なんだね。やっと見ることができた」

 ルクスにはかなりの知識がある。それはルクスと会話をしていて気がついた。恐らく常に私の魔法に包まれているので、私の知識がルクスに勝手に流れ込んでいるのだろう。どんな仕組みなのかはよくわからない。

「お母さん? どういうこと?」

 村の人たちの声が大きくなる。私は村長の家の前に来たけれど、家には入らなかった。そこでじっと待っている。


 すると騒ぎを聞きつけたのか、村長一家が外に出てきた。

「何だ。何の騒ぎだ」

 そして、三人は私とルクスを見て驚きに目を見開く。

 初めに声をかけてきたのはプリックさんだった。

「あ、ねぇ、レクシア、本当にレクシアなの。顔は、治ったの?」

「こんにちは。プリックさん。魔法で顔を汚くしていたんです。今まで騙していてすいません」

「魔法? あなた、魔法が使えるの」

「はい、こんなふうに」

 私は顔を変えた。昔の腫れた顔に。

「ひっ!」

 私はすぐに顔を元に戻す。

「今日はお別れを言いに来ました。今までありがとうございます。私は本物の魔術師になるために村を出ようと思います。もう帰ってきません」


 また周りがざわめき始める。

「い、いきなりどういうことだね。まずは中に入りなさい」

 村長は言うけれど、私は首を振る。

「色々よくしていただき感謝しています。でも、二年前から決めていたことです。この二年間一人で生きるために努力してきました。ここで失礼します」

 私が礼をして立ち去ろうとすると、慌てて村長が言う。

「ま、待ちたまえ。まずは、その子のことを話しなさい。どこで保護した子なのだ」

 私はルクスの頭を撫でる。

「この子はルクス。私の子です」

「な、何を言っている! ルミナは死んだ。その子は少年じゃないか。性別も年齢も違う。変なことを言うんじゃない。どこで見つけてきたんだ」

 私はルクスの頭に手を置いたまま魔法を使う。ルクスの顔が変化して、女性のような顔になった。

 更にざわめきが大きくなる。

「これも私の魔法です。そもそもルミナは死んでいません。私が死を偽装しました。みなさんの目を欺くために」

「どうしてそんなことを」

 私はにっこりと微笑んで言う。

「この村から出るため。それだけです」

 そして私は村の外に歩き出した。

「待ちたまえ」

「待って、レクシア」

 いろいろなところから声がかかるけど、私は止まらない。

「走るよ。ルクス」

「わかった。お母さん」

 私たちは村を飛び出していった。

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